第29話 支援要請②
陛下の話にはまだ続きがあった。
「それとだな、ハナさんを冒険者登録できるように動こうと思っている」
ハナは奴隷という身分の為、通常は冒険者登録ができない。
これは国の規則で決まっている。
この規則を廃止にしようという動きもあるようだが、保守的な貴族や豪族がこれに反対する声も根強く残っている。
「できるんですか?」
ヴィムは陛下に尋ねた。
これができるなら便利であるし、是非ともお願いしたかった。
「まずは、特例としてハナさんの冒険者登録を認める。これを足ががかりとしてこの規則の廃止に動きたいと思っている」
陛下はこの制度には反対派らしい。
確かに、この規則は実力主義国家というレオリアの方針に反している気がする。
全ての国民が平等にチャンスを掴む機会があるのがこの国の良さである。
「ただし、これにはハナさんの実力を周りに認めさせる必要がある。だからこそ、今回の任務は何として成功させて欲しい」
「分かりました」
流石に、一国の王でも法律を変えるには議会の承認を得る必要がある。
ハナのものは国王権限で特例を認めさせることは出来るらしいが、それは長期的に見た時に解決とは言えない。
陛下は今後のレオリアのことを見据えて言っているのだろう。
こういう国王だから、国民も付いてくるのだ。
事実、ヴィムもこの国王にいや、この人間について行きたいと思っている。
「早速、明日にでも東の森に向かおうと思います」
「承知した。心配するだけ無駄だと思うが、気をつけろよ」
「ありがとうございます」
そこから、陛下と少し世間話や近況報告をすると、王宮を後にした。
「な、言った通りの人だったでしょ? ここの王様は人を身分で差別するような人じゃないのさ」
ヴィムは隣を歩くハナに向かって言った。
「はい。とても、いい方でした。奴隷にも冒険者になる機会を与えようとしてくれるなんて」
「そうだよな」
あの国王ならそのうち、奴隷制度そのものを廃止にしてしまうのではないかと思う。
犯罪奴隷は別としても、ハナのような金のために売られた奴隷は必要ないのかもしれない。
まあ、これは理想論に過ぎないのかもしれない。
しかし、理想も掲げられないような人間に未来を託したいと、どれほどの人間が思うだろうか。
人は信じたいものを信じる生き物なのだ。
「明日から、頑張ろうな」
「はい! 頑張ります!」
ハナは意気込んでいた。
ゆっくりと屋敷までの道のりを歩いた。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ」
屋敷に戻ると、ジェームズが出迎えてくれる。
「明日から少し俺たちは屋敷を開けることになりそうだ。東の森で騎士団に協力してくる」
「かしこまりました。屋敷の管理は我々にお任せください。旦那様が留守の間、私がしっかりとお屋敷をお守りしまう」
ジェームズの言葉には重みがある。
屋敷のことは任せておけば大丈夫だろう。
「急で悪いんだけど、馬車の手配ってできたりする?」
「お任せください。すぐに手配いたします」
ジェームズは執事として優秀過ぎてついつい甘えてしまう。
にしても、この急な事態にも対応できるというのだから流石の一言しか出てこない。
「よろしく頼む。ハナも明日に備えて準備しておいてくれ」
「分かりました」
ハナは自分の部屋へと向かって言った。
「さて、俺も準備するか」
まあ、準備と言っても最低限の着替えや食料といったところだ。
あまり準備に時間はかからなかった。
自分の準備が整うと、ヴィムは書斎で東の森付近の資料を読み込んだ。
周囲の地形などは大体理解した。
「でも、行ってみないことにはわからんよなぁ」
百聞は一見にしかず。
実際に目で見てみないと、物事の本質は見えてこないものである。
ヴィムはそれを様々な所で思い知らされてきた。
書斎からでる頃には夜は耽ってきていた。
そろそろ休んだ方がいいだろう。
明日からは慣れない環境に身を置くことになる。
ヴィムは自室に戻ると、ベッドに入った。
そのまま、目を閉じるとやがて意識を手放した。
♢
翌朝、いつもより少し早い時間にアーリアが起こしてくれた。
昨日、指示した通りの時間ぴったりで素晴らしいと思う。
「旦那様、おはようございます。馬車の手配はしておきましたので、出発の時間には迎えにくると思います」
ヴィムがリビングに降りると、綺麗な燕尾服姿のジェームズが言った。
「ありがとう。本当に助かるよ」
「いえ、これが私の仕事ですので」
仕事とはいえ、ここまで完璧にこなされては他の執事ではダメになりそうだ。
そこから、朝食を取ると出発予定の時間が迫っていた。
ハナの方も準備はできているらしい。
「そうだ。ハナにこれを渡しておくよ」
「これは?」
「マジックバックだよ。そこに荷物を入れるとコンパクトにできる」
マジックバックは空間魔法が付与されているので、実際の見た目のものより多くの荷物が収納できる。
「そ、そんな高価なものよろしいんですか?」
「うん、俺のはもうあるし、二つはいらないから」
確かに、マジックバックは安くはない。
しかし、ヴィムの分はあるしストレージだって利用できるので、ヴィムにはあまり必要ではなかったのだ。
「そういうことなら、頂きます。ありがとうございます」
ハナはマジックバックを受け取ると、その中に荷物をまとめて放り込んだのであった。
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