第28話 支援要請

 翌日、太陽が完全に昇りきったくらいの時間に目を覚ました。

やはり昨日、遅くまで起きていたのが原因みたいだ。


「おはよう」


 リビングに降りると、当然ながらヴィム以外の全員起きていた。


「おはようございます。王宮に向かわれる前にお食事をご用意しております」


 アーリアがヴィムに言った。

今日は午後の1時に陛下と約束をしている。

それまでには食事と身支度を済ませねばならない。


 まあ、時間まではあと2時間ほどあるので余裕で間に合うだろう。


「ありがとう。食べちゃうね」


 ヴィムは席につくと、朝食という名の昼食を食べ進める。

数十分で食事を終えると、身支度を整える。

そんなことをやっているうちに出発する時間となった。


「ハナ、行くよ」

「は、はい!」


 ヴィムの声でハナはリビングから出てきた。


「ヴィム様、これを」


 アーリアが洗濯済みのローブをヴィムに着せてくれる。

これでヴィムはいつも通りの魔術師感溢れる服装となった。


「ありがとう。行ってくる」

「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」


 アーリアに見送られてヴィムとハナは屋敷を出た。

そこから、王宮までの道のりを歩く。

ヴィムの屋敷から王宮まではゆっくり歩いても20分ほどである。


「緊張してる?」


 隣で表情を硬らせているハナに言った。


「は、はい。ちょっと緊張してます」

「だよね。ハナは初めてだもんね」


 ヴィムも初めて王宮に入った時は少なからず緊張したもんだ。


「大丈夫だよ。陛下も王宮の人もみんないい人ばっかだから」

「わ、わかりました」


 少なくとも、ハナの立場に偏見があるような人間は王宮にはいない。

まあ、そんなことでとやかく言われたらいくら王宮の人間とはいえ、ぶっ飛ばしてやるつもりでいる。


「ここだよ」

「凄い、大きいですね」


 そんなことを話しているうちにヴィムたちは王宮へと到着した。


「ヴィム様ですね。お話は伺っております。どうぞお通りください」


 門番には顔を覚えらているらしく、すんなり通された。

そのまま、王宮の入り口に歩いていくと、扉が開かれた。


「ようこそおいでくださいました。陛下がお待ちになられています。どうぞこちらへ」


 王宮の従者にヴィムは応接間のような所に通された。


「忙しい所呼び立ててしまって申し訳ない。二人とも座ってくれ」

「いえ、お気なさらずに」


 陛下に促されてヴィムとハナは対面のソファーに腰を下ろした。


「君がハナさんだね。私がエルドレット・レオリアだ。この国を預からせてもらっている」

「ハナ・シャロンと申します」

「ああ、よろしくな」


 陛下は右手を差し出すと、ハナと握手を交わした。


「よ、よろしくお願いします!」

「そんなに、硬くならなくてもいい。ヴィムの目を付けた逸材と聞いていたからどんな人がくるのかと楽しみにしていたんだ」

「ありがとうございます」


 陛下にはハナの身分の情報も行っているはずだ。

それでも態度を変えない所をみるに、さすがはこの実力主義国家レオリア王国の国王だと思う。


「早速で申し訳ないが、本題に入らせてもらうぞ」


 そう言って、陛下はソファーに座り直した。


「わかりました」

「現在、第3騎士団が東の森で討伐を行っているんだが、どうやら魔獣が通常の2倍ほど強いらしい。苦戦しているようで実際に被害も出ている。そこで、ヴィムたちには支援に行ってもらいたい」


 騎士団は定期的に討伐任務を行うことになっている。

レオリアの第3騎士団は騎士団の中でも戦闘には優れた人材が集まってると聞く。

その騎士団が押されているということはそれなりに強敵だということが予想される。


「無論、報酬は弾ませてもらう」

「分かりました。お引き受けさせていただきます」


 ヴィムにとって断る理由はない。

東の森なら急げば半日ほどで到着できるだろう。

最寄りの街までは馬車で行けるはずだ。


「そう言ってもらえると助かる。おい、例のものを」


 陛下は部屋の隅で控えていた執事に向かって言った。


「かしこまりました」


 執事は陛下の机に豪華に装飾された箱をそっと置いた。

陛下はその箱を開けて、中からカードのようなものを2枚取り出した。


「我が王家の家紋が入ったカードだ。これがあれば我が国の検問所は全て素通りできる。今後の冒険に役立ててくれ」

「ありがとうございます。頂戴します」


 黄金に輝くそのカードは、鉄製と思われる。

それなりの重さと強度があった。


 検問所が素通りできるというのは、かなりの利点である。

通るだけでも数十分かかることがあるので、これがあればその時間が大きく軽減されるというわけである。


「もし、君たちに何かあれば王家が後ろ盾になるという証でもある。存分に暴れてくれ」


 そう言うと、陛下は子供のような笑顔を浮かべた。

その笑顔の裏にはヴィムへの期待のようなものが感じられた。


「分かりました。存分に暴れてきます」


 期待には応えるものだと教えられてきた。

ヴィムはそのカードをシャツのポケットに仕舞った。


「ははは。頼むから国を吹き飛ばすようなことはやめてくれよ」

「しませんよ。そんなこと」


 全く、この人はヴィムをなんだと思っているのだろうか。

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