第27話 何が為の知識か

 ヴィムたちは数分の時間をかけて屋敷に戻った。


「ただいまー」

「おかえりなさいませ」


 屋敷の玄関を開けると、アーリアが出迎えてくれた。

ヴィムたちの帰宅の時間を見計らっているのかと思うほどの反応の速さだ。


「はい、これ」


 ハナに今日買った服が入った紙袋を手渡した。


「ありがとうございます。すみません。持ってもらっちゃって」

「いいよ。女の子に大きい荷物は持たせたくないし」


 ハナが紙袋を受けとった。


「今日はもう、ゆっくりしてて大丈夫だよ。俺もゆっくりするから」

「分かりました」


 ヴィムはテラスの椅子に座って庭を眺めながらボーッとしていた。

綺麗に手入れされた庭というのは見ていて気持ちがいい。


「こちらに居られましたか。お疲れのところ恐縮ですが、少々よろしいでしょうか?」


 ジェームズが声をかけてきた。


「大丈夫だよ。どうかしたの?」

「それが、王宮より書簡が届いておりまして、お届けに上がりました」


 燕尾服の内ポケットから一枚の書簡を取り出すと、それをヴィムに取り出した。


「ありがとう」


 封蝋を見ると、確かにそれは王家の家紋が描かれていた。

ヴィムはそれを綺麗に開ける。


 そこには相談したいことがあるから明日にでも王宮まで足を運んで欲しいという内容が書かれていた。


「陛下が相談したいことがあるらしい。明日、王宮に行ってくる」

「かしこまりました。王宮には私の方でそのようにお伝えしておきます」

「そうしてくれると助かる」


 優秀な執事がいると、本当に助かるのだと実感する。


「では、私は失礼いたします」

「ああ、いつも悪いな」

「仕事ですから、お気になさらなくていいんですよ」


 ジェームズは優しい声でそう言うと、仕事に戻って行った。


「さて、俺も部屋に戻るか」


 夕暮れ時はまだ少し冷える。

ボーッとしているのもたまにはいいが、やる事はやらなくてはいけない。


 夕食も食べ終わった所で、ジェームズが声をかけてきた。


「旦那様、明日の午後1時に王宮にてお約束を取り付けました。その時間に王宮に向かってください。ハナ様も一緒にとのことです」

「ありがとう。さすがだな」

「恐縮です」


 あれからまだ3時間と少ししか経ってないのに、約束までしてくるとは仕事が早すぎる。

聞いた話によると、ジェームズは王宮に仕えていた執事らしい。

引退しようかと考えていた所を、陛下に説得されてうちに来たらしい。


 全く、凄い人を雇うことになってしまったもんだと思う。


 ハナのことはまだ陛下に伝えていなかったので、紹介するにもいい機会であろう。

相談内容まで書かれていなかったことを考えると、重要なこととも推察される。


「ハナに明日出かけること伝えておいてもらえるか? 俺はちょっとやることがあるから部屋に戻る」

「かしこまりました。私の方からハナ様にお伝えさせて頂きます」


 そう言うと、俺は自分の部屋に戻った。


「さて、やるか」


 俺はまだこの国に来て日が浅いこともあり、詳細を知らないことも多い。

よって、ある程度の知識を落とし込む必要があると考えた。

知識も時によっては武器になる。


 地理的情報やこの国独自の制度などがあれば調べておきたい。

一応、資料となりゆる物は準備してもらっていた。


 それを片っ端から読み込んでいく。

幸いなことに記憶力にはある程度の自信があった。


「ちょっと休憩だな」


 ヴィムは資料から目を上げた。

その時、部屋をノックする音が響いた。


「どうぞ」


 そう言うと、扉が開いてアーリアが入ってきた。


「ヴィム様、お疲れかと思いまして紅茶とお菓子をお持ちしました」

「ありがとう」


 なんと、タイミングがいいのだろうか。

アーリアは絶妙なタイミングで差し入れを持ってきてくれた。


「お淹れしますね」


 ヴィムの机の上にカップを置くと、そのまま紅茶をポットから注いでくれた。


「いい香りだな」

「はい、貴族の方はこの茶葉をお好みになられますので、取り寄せて参りました」

「そうなのか」


 ヴィムはあまり紅茶に詳しくないので、知らなかった。


「美味いな」


 一口飲むと好む人間が多いというのも納得することができた。


「勉強熱心なのはいいですけど、あまり無理なさらないでくださいね」

「心配してくれてありがとうな。まあ、ほどほどに頑張るよ」

「かしこまりました。では、私は失礼します。何かあれば呼んでくださいね」


 そういうと、アーリアはヴィムの部屋を後にして行った。

そして、しばらく休息するとヴィムは再び資料に視線を落とした。


「こんなもんか」


 ヴィムは3時間ほどかけて全ての資料を読み終わった。

大体の地理的情報も把握できたし、法律の類いも理解した。

出現する魔獣の生息域はもう少し勉強する必要があるだろう。


 また、必要な情報が出てきたらその都度調べていくことにしよう。


 そんなことをやっているうちに夜は耽っていた。


「そろそろ寝ないとなぁ」


 もう、寝ないと明日に差し支えるくらいの時間であった。

ヴィムは資料をあらかた片付けると、ベットに向かう。


 そのまま、ベットに横になるとやがて意識を手放すのであった。

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