第26話 仲間

 ヴィムたちは武器屋を出ると、その足で呉服店へと向かう。

昨日、ジェームズに教えてもらって一緒に行ったところだ。


 武器屋から歩いて数分で目的の場所に到着した。


「いらっしゃいませ」

 

 今日も店主のダリルが出迎えてくれた。


「これはこれ、ヴィム様。今日はどんなご用件で?」

「ああ、この子の冒険用の服と私服を見繕ってもらいたい」


 ヴィムはハナに視線を移しながら言った。


「かしこまりました。ご用意させていただきます」


 ダリルは慣れた手つきで冒険者用の衣装を用意する。


「こちらなんていかがでしょう?」


 それは、動きやすくも女の子らしい可愛さもある衣装であった。


「いいんじゃないかな? 試着できます?」

「もちろんでございます。こちらで、そうぞ」


 ダリルは試着室へと案内してくれた。


「ハナ、着て来るといい」

「分かりました」


 ハナはその衣装を受け取ると、試着室の中に入った。

そして、ハナの着替えが終わるのを待っていた。


「新しいお仲間ですか?」


 ダリルがヴィムに尋ねた。


「そうなんだ。今後は彼女と動くことが多くなると思う」

「ヴィムさんがそこまで言うとは腕が立つんですね。それに、ずいぶん可愛がっていらっしゃるようだ」

「まあ、腕はいいと思いますよ。それに、なんか守ってあげたくもなるんですよね」


 ヴィムにとって、ハナはどこか妹のようなところがあった。

一緒に戦う仲間でありながら、プライベートでは守ってあげたくなるような存在。

それがハナだった。


「すみません。年寄りが出過ぎたことを申しました」

「いえ、いいんですよ」


 ダリルはジェームズとは違う大人の魅力がある。

なんというか、理想のおじいちゃんという感じだ。

何でも話したくなってしまう。

亀の甲より年の功というやつだろうか。


「着替えてみました」


 そんな話をしている時に、ハナが試着室から出てきた。


「うん、よく似合っているじゃないか」

「はい、とてもよくお似合いですよ」


 獣人なので、猫耳と尻尾があるのだが、それもあってか可愛く思う。


「あ、ありがとうございます」


 ハナは少し頬を赤く染めながら言った。


「じゃあ、これを貰うよ」

「かしこまりました。このまま着て行かれますか?」

「どうする?」

 

 ヴィムはハナの方に視線を向けた。


「じゃあ、着ていきます」

「かしこまりました。では、ハナさんが着ていらした物は袋にお入れしますね」


 ダリルはハナの服をプライベートで着る用の服と共に包んでくれた。


「今日もありがとうございいました」


 お会計を済ませると、ダリルは紙袋を手渡してくれる。


「こちらこそありがとうございます。あの、また相談とかしに来ていいですか?」

「もちろんですよ。年寄りの話し相手になってください。うちはこの通り暇ですから」


 ダリルは自嘲するように笑みを浮かべた。


「嬉しいです。じゃあ、また来ます」


 他の人に相談できなくてもダリルには話せるようなそんな雰囲気があった。

これがダリルの魅力なのだろう。


「はい、お気をつけてお帰りください」


 ダリルに見送られてヴィムとハナは店を出た。


「腹減らないか?」


 ヴィムは隣を歩くハナに聞いた。


「少し、空きました」

「だよな。屋台で何か買ってくるわ」


 この辺には色々な屋台が出ている。


「ちょっと座って待ってて」

「私がいきますよ?」

「いや、女の子なんだから座ってればいいよ。俺が言ってくるから」


 ハナをベンチに座らせると、すぐそこにある屋台に向かう。

ヴィムは適当に焼き串と果実のジュースを買って、ハナの元に戻った。


「はい、これでよかった?」

「ありがとうございます。嬉しいです」


 ハナは串焼きとジュースを受け取った。

そして、ヴィムも同じソファーに腰を下ろした。


「ちょっと待ってね」


 そう言うと、ヴィムはハナのジュースの上で手のひらをかざした。

そして、氷魔法を発動させる。


「凄い。冷たくなった……」

「ジュースは冷えてる方が美味しいからね。どうぞ、召し上がれ」

「ありがとうございます!」


 氷魔法にはこういう使い方もできる。

魔法というのは便利なものだと思う。


「美味しい……」


 ハナはジュースを一口飲んで言った。


「それはよかった」


 ヴィムは自分のジュースも冷やすと、串焼きと一緒に口に運んだ。


「うん、美味いな」


 たまにはこうして、屋台で何か買って食べるのも楽しいもんである。

ヴィムたちはのんびり外の風に当たりながら、食べ進めた。


 こうしてみると、世界は平和なのではないかと錯覚する。


「ゴミ、捨ててくるよ」

「いえ、ここは私が」

「気にしない気にしない。俺とハナは対等。対等ならこういうのは男がするもんだから」


 ヴィムはハナの分のゴミも捨てる。


「帰ろうぜ」


 ハナの元に戻ると、ヴィムはハナに手を差し伸べる。


「はい、分かりました」


 その手を取って、ハナは立ち上がった。


「あの、ヴィム様にとって、私はどういう存在なんですか?」

「うーん、難しいけど仲間かな」

「仲間……ありがとうございます!!」


 ハナの心にはヴィムの放った『仲間』という言葉が突き刺さった。

今までは奴隷と主人という関係が当たり前だった。


 ヴィムとの関係は『仲間』これはハナにとって初めての経験だった。

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