第39話 そうか、君の正体は


 決戦の翌日。


「昨日のことママに言ったらね、のん気に結果オーライだけ返ってきたの。もう、信じられないよね」


「はは。朝木さんらしいよ」


 頬を膨らます水野さん、僕は笑い返す。

 最後、雷坂に無我夢中で突撃した際――天子曰く、僕は『神人』の力を無意識に身に宿したらしく、その反動からか現在は体中が悲鳴どころか絶叫を上げていた。


 しかし、そんな僕を水野さんが迎えに来たわけだ。


 どれだけ、死にかけていようが、病気だろうが、大好きな女の子が朝にお迎えというシチュエーション、ほふく前進をしてでも行くしかないだろう。

 悶絶しながらも本分を全うし、二人並んで帰宅している最中、


「……昨日、私のこと下の名前で呼んだよね」


 不意に水野さんが呟いた。

 い、今になってその話題を!? 確かに、気持ちが高ぶって呼んでしまったけども。どう返していいかわからず、口をパクパクしていると、


「も、もう一回、呼んでくれるかな?」


「……水野さん。いや、夕凪さん」


 壊れものに触れるよう、想いを込めて名前を口に、


「姫を、姫を、軽々しく名前で呼ぶ、なぁああああああああああああああああああああああああああっ!」


「えぇっ、本人の許可ありでも駄目なんですか!?」


 流れをぶった切るかのごとく、死神が高速で走って来る。

 くぅっ! 勇気を出して言ったのに――聞こえたかな? というか、今の僕に走る体力はないよ。完全に終わりだっ! と、辞世の句をスタンバイしたのも束の間、


「あはっ。行こう、巡君っ!」


 ギュッと僕の手を握り、水野さんが走り出す。


「っ! 姫!? どうして逃げるんですか? 姫ぇええええええええええええええええええええええええっ!」


 日常からの非日常だった。

 一人で寂しく登下校、同じことを繰り返す日々、気付けば――騒がしくて濃厚な毎日を送っている。


 そして、側には大好きな女の子がいるんだ。


 繋がれた手は、まるで赤い糸のように。二人で、いや、三人で笑いながら――ひたすらに、走って、走って、走り続ける。

 時折、視線を合わしながら――そう、三人でね。


「天子、君は一体、なんの神様なんだ?」


 僕の問い掛け、天子は朗らかに八重歯を覗かせながら言う。


「驚くなかれ」


 その背景に二つの丘、神ヶ丘が夕日に照らされて、


「天子は恋の神様じゃっ!」








◇ 後書き

 本編は一度こちらにて終了です。

 ここまで読んでいただけたこと、皆様に感謝の限りです。


 次回は一度書いてみたかった異世界系か変態モノを掲載していこうと考えております。

 よろしければ、また新しいお話の方もよろしくお願いいたします。


 

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好きな女の子にキスをしたら極道の娘だった件について ともQ @tomokichi0313

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