第24話 いただきます

「姫、ありがたき幸せです。いただきます!」


 ラミュアの話が嘘なのでは?

 と、疑いもした。しかし、カップケーキの放つオーラが真実だと物語っている。僕の記憶が正しければ――一般的なカップケーキは、こんがりきつね色のはずだ。


 ……目の前に置かれたそれは、明らかに黒色をしている。


 太陽の黒点の一つに配置しても、なんら違和感はないだろう。どんな素材を混ぜ合わせれば、こんな具合になるのかな?

 危機感から中々に手が伸びない僕、ラミュアはガバリと口に入れ、


「ふっ! ふっ! ぐぁああ、ふ、ふ、ふぅううふぐぅうぉおおおぅうう、まい! 美味すぎですよ、姫っ! 美味すぎて意識が飛びそうでほぉっお、おぉっ!」


 ほ、本当に飛んだっ!


「もう、ラミュアったら大げさだよ。……さ、逆巻君は、甘いもの苦手だったかな?」

「……ちょっと、心の準備をね」

「心の準備?」

「いや、ははは。水野さんの手作りだから、味わって食べなきゃっていう心構えというかなんというか。……いただきますっ!」


 さあ、逝こうか。

 パンパンと頬を叩き、気合いを十分に込める。すぐ側にて真っ青で痙攣しているラミュアを横目に、僕はカップケーキを手に取った。


 ……お、重い!?


 カップケーキとは思えないほどに――質量があった。内部に鉄球でも仕込んでいるのではないか? と錯覚させる。鈍器としても活用できそうだ。

 恐る恐る、一口――、


「ど、どう、かな? 逆巻君の口に合う、かな?」


 ――なんて硬度だ。

 触れた唇が熱い、冷や汗が頬を伝う、体中の細胞が全力で拒否反応を示す。ラミュアはこれを完食したのか? おっと! 思わず、真顔に――即座、笑顔に切り替える。水野さんが感想を求めているんだ、答えないと。

 僕はごほんと吐血――否、咳払いを一つ、


「美味しいよ。一つじゃもの足りないくらいだねっ!」

「よかった。実は、まだまだあるんだよ」

「嘘ぉっ!?」

「遠慮せずに、いっぱい食べてね」


 どさどさっ! と、大量に追加された。

 さ、山脈? 軽く見積もっても、優に二桁はある。どうやって収納していたのかな。鞄の面積を遥かに上回っているよね。


 ……予想外の事態だ。


 神様、助けてぇ! そう、神様――神様? そうだ、神様がいるじゃないか。食いしん坊の神様が身近にいるじゃないか。

 天子なら、天子なら、このお菓子も食せるのでは――、


「じゅるり」


 ――じゅるり?


「あれ? 逆巻君、妹さんかな?」


「妹? 僕に兄妹はいな」


 言い掛けて、気付いた。

 水野さんの視線の先、僕の真横、机の上に顎を置きながら、口からヨダレを垂らしている女の子――、


「水野さん、見えるの?」


 ――尋ねる。


「妹さんが? どういうことかな?」


 僕も聞きたい、どういうことだ? 

 天子は僕以外の人間には、見えないはず――だが、水野さんの言い回し、視線の方向からして見えているのは間違いない。

 僕は疑問の眼差しを天子に向ける。それに気付いたのか無邪気に舌をだし、


「ふふ。無意識のうち、姿がでておったようじゃ」


 ちょっと、天子さん?

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