第18話 勝利は必須
んんっ? キス?
「……ボス。今、なんと言いました?」
僕が尋ねる前に、ラミュアが問う。
「ん? キスだよ」
「いえ。何故、キスという言葉が出るのかと――」
「当たり前じゃん」
朝木さんはカラカラと笑いながら、
「うちは偶然じゃないところを見たいんだよ。ラミュアを倒して、夕凪にキスをする。その二つをやり通してこそ、意味がある」
「――なっ! 本気ですか!?」
僕は朝木さんの意図に気が付いた。
水野組のボスとしての制裁――それは、あくまで部外者に対してだけだろう。朝木さんは僕に道筋を照らしてくれているんだ。つまるところ、制裁を乗り越えて――家族になるという証明を見せればいい。
そう、ラミュアを倒して、水野さんに――き、キス?
横目で水野さんを見やると、両手で頬を抑えながら――えぇ? えっ!? と声を上げていた。その顔は真っ赤に染まっている。
……水野さんの唇。
再度、あの桜色のつぼみに触れる? 自然、記憶が蘇り――体温が上昇、顔が熱くなっていくのがわかる。
そんな中、違う意味で真っ赤になる人物がいた。暗黒オーラを放ちつつ、ビキバキメキと血管を顔中に――め、メロン?
そう、キスをするためには――、
「逆巻くぅん! 蜂の巣でいいか?」
――死神を倒す以外、道はない。
「それじゃ、始め!」
朝木さんが煙管を頭上に掲げ、開始の合図を告げる。
同時、ラミュアが両手の拳銃を構えた。問答無用のノーモーション、複数の発砲音が室内に鳴り響く。
……ラミュアの言葉通り、普通なら蜂の巣だ。
そう、普通なら――だが、現在の僕には神様の力が宿っている。天子の言葉を借りるならば『神人』と言い――身体能力は飛躍的に向上、全身の感覚は研ぎ澄まされ、目に見える全ての動作、迫り来る弾丸すらスローモーションだ。
ラミュアと対峙するのも、これで三度目――多少なりとも免疫力が付く。つまり、一度目の僕とは違う。
今度は目を逸らさない!
一、二、三、四、五――それ以上、数えるのはやめた。硝煙の匂いが鼻を刺す。一直線上に放たれた銃弾、その弾道を予測するのは容易い。
避ける、躱す、空を切る――、
「はっ! 貴様、何者だ? と聞くのも野暮な話か。……ボスの言う通り、偶然など存在しないのだからな」
――ラミュアが拳銃を床に落とす。
そして、握り拳を形作り――拳法? 左腕を前、右腕を脇に――そのスタイルは見るものを圧倒させる雰囲気を放ち、驚くほどサマになっていた。
「来い。生ゴミくず野郎! ……いや、訂正しておこうか。生ゴミ野郎っ!」
うん。
僕のことを認めてくれたような発言だけれども、くずか否かの差だよね――もうどっちでもいいよ。
サングラスの奥、殺人的な眼光が僕を射抜く。
瞬間、ラミュアの左腕が僕に突き出されていた。人間とは思えない速さ――銃弾の射出速度を上回っているのでは? なんとか、その一撃を左手で払う――が、バランスを崩してしまう。
……その隙をラミュアは見逃さなかった。
脇に配置していた右腕――溜めに溜めた一撃、これが本命だったんだろう。気付くと同時、僕の体がくの字にひん曲がる。体内でなにかのきしむ音――激痛。折れ、た? 呼吸困難、自然と膝が床に着く。
ラミュアはずるりと、右腕を戻し、
「ふん。まだ、休めると思うなよ」
続けざま、蹴り上げた。
鼻に鈍痛――勢いのまま、遥か後方に吹き飛ぶ。顔、顔はある? あまりの威力に有無を確認する。下半身から上、痛くない箇所が見当たらない。
……一歩、二歩、三歩。
とどめを刺しに来たのか――ラミュアの足音が近くなる。死神の鎌が、僕の首を一刀両断するのも時間の問題だろう。受けたダメージにより、体の自由は効かない。息を吸って吐くという動作だけでも、全身が悲鳴を上げる。
天子の協力があっても、勝つことはできないのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます