第11話 決死の特攻
天子を頭上にスタンバイ、僕はインターホンを無視し、
「冊子を届けに来ましたよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
自ら、門を開――蹴破った。
体の底からみなぎるパワー、全ての神経が研ぎ澄まされた感覚――す、すごい! 神様の力、ぱねえっすね!!
時間を戻す前に見てきた通り、中には凶悪な面持ちの方が大勢待機していて――その中心、ラミュアがいた。皆の視線が一斉に僕に向く。
単純な話、奇襲だ。
明らかに動揺している様子がわかる。壊れた門と同時、僕は瞬時に駆け出した。一番の難敵、ラミュアを目掛けて。
……さすが、と言うべきか。
ラミュアは戦闘モーションに入っていた。拳銃を懐から出そうと――が、遅い。僕の方が若干だけど、速い!
「おりゃあああっさい!」
神様直伝の掛け声、渾身のタックル。
ラミュアが吹き飛ぶ――その上に音速で乗っかった。まさに、神業! このまま、屋内へと入ろう。
「……き、貴様、逆巻か? まさか、こんな」
ラミュアが足下で弱々しげに言う。
さすがのラミュアも、油断していたところにこの一撃は効いたようだ。神様の力を上乗せして意識があるなんて――恐怖の一言に尽きる。僕だけの力ならば、かすり傷すら負わせることは不可能だっただろう。
目的地に到着し、ラミュアの上から降り、
「ぐぅ。い、行かせて、なる、ものかぁあああ!」
と、袖を掴まれる。
引き寄せられるまま、僕のシャツがビリバリと破れる。なんつーパワーだ、本当に人間なの? しかし、最後の余力――執念の成せる足掻きだったのだろう。シャツの切れ端を持った状態で、ラミュアが崩れ落ちる。
「……ひ、一つだけ、聞かせろ。何故、待ち伏せていたのがわがっぉほぁ! はほぅうっはぉおっ!!」
「去ね」
天子が冷静に言う。
どどん! と、僕の意思とは無関係、強烈な足踏み――ラミュアが完全に沈黙した。可愛い顔して容赦がないね。踏んだ箇所については、僕も自然と冷や汗が出たよ。
「こやつは、とどめを刺さねば危ない」
全力で同意する。さて、と天子は辺りを見回し、
「先ほどとは、勝手が違うからのう」
一回目は家の中心から侵入――現在、二回目は真正面の入り口からだ。
外観からの見た目通り、内部は広い。まるで迷路のようだ。一つ一つ、しらみつぶしに部屋を確認している余裕はない。時間をかければ、いつこの死神が――ラミュアが目を覚ますかわからない。
……くそっ! 記憶しておくべきだった。
どうする? 一分、一秒、無駄にはできない。悩んでいる間にも、刻一刻と時間は過ぎていく。自らの未熟さに自然と歯ぎしりが出る。
早急に水野さんを見つけ出さ――すんすんと、天子が機敏に鼻を動かす。
「ふむむ。あっちじゃ!」
マジで無敵だなっ!
言われるがまま、僕は天子の指差す方向に駆け出す。しばらく進んだところで、見覚えのある一本道――その先には、木目の扉があった。
……んんっ?
ほんのりと、温かみのある匂いが鼻腔をくすぐる。加えて、扉の隙間から蒸気が溢れだしていた。が、そんなことを気にしている場合ではない。緊張と全速力の疲労も相まってか、呼吸が荒くなる。落ち着け、落ち着け――しばらく、邪魔者は来ない。この先に、水野さんがいるんだ。
僕は扉に手をかける。
正直な話、天子の常識外れな力やサポートはすごく役立っている。僕だけの力では、ここまでたどり着くのは不可能だっただろう。水野さんに謝る、という機会を与えてくれただけでも感謝の嵐だ。
僕は扉を思いっ切り横にスライドさせる。
「水野さんっ!」
開くと同時、白い蒸気が目の前を覆った。
この時、僕は失念していた。前回もあったことを、完全に失念していたんだ。僕が扉を開けたことにより、蒸気が外に逃げ――すぐに視界がクリーンになった。
……いた。水野さんがいた。
一つ付け足すならば、裸の水野さんがいた。
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