死神草子(The End Of The World)

@ayumi78

死神草子(The End Of The World)

魂を集めて運んで渡して、魂を集めて運んで渡して、毎日同じことの繰り返しだけれど、ボクはふと考えた。

「人類が全ていなくなったら、ボクら死神はどうなるんやろ?」と。

「どうなるだろうなあ」

「考えたことも無かったね」

「せやろ?」

「そういえば、最近新しい死神って、あんまり見かけないよな」

「最近は……いつだったっけ?」

「あー、いつやったっけな?」

大きな戦争や災害が起きると、ボクらは産み出される。少なくとも、世界がひっくり返るような出来事でもないと、死神の追加はない。

「今はボタンひとつで戦争が起きるらしいぜ」

「まあそれでなくても、遠隔操作で爆撃できるからなあ」

「手を抜くなら、戦争なんか起こさなきゃいいのにね」

そうだな、と、ボクらは笑いあった。

「自分の手を汚す事が嫌なんだろうよ」

「せやな。あほらし」

「全くよ」

ふと、人間の世界を見下ろす。さっきまで降り続いていた雨が止み、人間達は傘を閉じ始めた。

「これだけの人間が一気にいなくなるって事は、当分はないんやろな」

「まあ、ないだろうな」

「少しづつは減っているみたいだけどね。ほら、出生率ってやつ?」

「あ、たまに聞くなあ」

「今は赤ん坊より年寄りが多いそうだぞ」

街ゆく人間達を見ていると、確かに赤ん坊より大人が多い。

「なるほどなあ。これは当分ボクらの仕事は続きそうやな」

そう、数百年、数千年先には、人類はいなくなるだろう。そのには頃ボクら死神も必要がなくなるだろう。

「その時はその時、か」


いつの間にか、空には大きな虹がかかっている。ほとんどの人間は気づいていないが、気づいた人間はスマホを取り出し、写真を撮り始めた。

それを見て、「まだ人間も捨てたもんやないな」と、ボクはこっそり呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死神草子(The End Of The World) @ayumi78

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る