第13話  牧場

私のお弁当は冷凍食品ばかりである。あまり人に見せたくない。揚げ物は危ないのでスーパーのお惣菜のやつを入れてもらっている。中学のときの友達は高校に入ったら自分で弁当作らされるって言ってた。ものによるけどたぶん勉強と同じで時間はかかるけど後から勉強すればできるのでまだあんまり料理とかしたくない。私の両手は家事をしないのもあってとても綺麗なままだ。この手みたら流石に自分で作ったとかきかないよね普通。何もされてないのに断ったら別の人と食べるはめになる。私は教室を見回した。他のクラスに友達がいる人は皆移動している。同じ学校から来た人はいたけど恥ずかしいエピソードを知ってそうなので嫌だった。私は読んでいた先週発売されたばかりの新刊を片付けて短くうん、かいいと言った。いいと言った場合嫌なのかと聞き返されるからうんと言ったと思う。中学のときの友達みたいな人だったら嫌だなと思った。国語の宿題を手伝うのは嫌じゃなかったけど。イスを持って行って座ってる人がほとんどだった。何この牧場。お昼の放送はこの時まだかかっていなかったはずだ。比較的可愛い子に遠慮しなくていいと言われたけど社交辞令だと受け止めた。やっぱり一人で食べている子はいない。なんとなくだけどここがこの教室ではオタクの一番広い集まりかなと思った。せっかく誘ってもらったのに佳乃はさっき読んでた本の続きを妄想していた。一番端に座ったのを見て皆食べ始めた。私は喋る気なかったし食べるの遅いから弁当と見つめ合っていた。大人しい羊ばかりのこの牧場は落ち着くと思った。一匹くらい電気羊がいても分からないだろう。誰もいただきますを言わなかった。喋りたいことでもあるんだろうか。社交的だなぁ。話を振られたらきちんと話そうと決めて目の前の揚げ物と格闘する佳乃をみている人がいることに彼女は卒業するまで気づかなかった。趣味の話が始まった。皆口々に普段より大きな声でアニメやボカロのタイトルを叫んでいる。よく喋ってくれる人がいるので私は安心して黙々と弁当箱を半分空にした。食べきれるだろうか。好きな作品のタイトルがないので右から左の耳へ声が通り過ぎて行った。どうやら気が合う人はいなさそうである。よかった親しくなれば詮索されるからなりたくない。お箸がご飯の上をつついた瞬間までは佳乃はまだ、横の席の女の子が自分と結構近い趣味をしていることも、小さくて可愛い感じの人がおもしろがってみてることも知らない。

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