第7話 大きな桜の木の下で 2

合格発表の朝、佳乃は支度に手間取っていた。試験が終わるといつもそうなのだが気が緩むので何もかも遅くなる。何かに夢中になると極端に追い求めるので佳乃は本気を出して試験を受けるとまずいことになるような気がしていた。家が前より学校から遠いからちょっと前みたいにのんびりしてはいられず中学生に戻れるものなら戻りたいと私は思った。勉強もここのレベルならましだけど数学が一年に二種類あるなんて大変そうだ。一番エネルギーを持て余す時期だからか厳しい気がした。だんだん国語が減っていく。母語だから話せて当たり前だとは私は考えていない。話す人の経験や語彙が違うから誤解されることもある。国語はとても大事だ。昨日少女が立っていた木の下を通ってみた。木漏れ日が投げかける桟橋がキラキラ広がってレースみたいに美しい。ローファーの可愛さが際立つようだ。国語がなければさっきここを通りかかった美人の先輩のことも描写できない。世界の輪郭をかいてくれるのが言語なのだ。本は現実と理想の架け橋となり少女の自我を健やかに育んできた。中にはもちろんあまりよろしくないものも存在するが。少女は本当に桜に似合う。時計を見たら遅かったので人が減った掲示板を覗く。眼鏡がなかったら見えなかった。少女の苗字はかなり上の方に印字してあるはずだった。あった。一年六組。口に出さないようにそっと口の中で佳乃は呟いてみた。出席番号はずっと変わらないのにクラスだけは変わるから変だ。一年は二組だったのに。この学校では一組から三組までが男子入りのクラスで四組からあとは女子クラスなのだそうだ。この時は知らなかったがあとで誰かが言っていたのを聞いた。男子は9人とかしかいない。圧倒的マイノリティ。社会にでたとき男が偉そうにするけどここでは女子が数で勝ってる。時代とともに女子高はすたれているけど私のように秘密が多い人には百合が隠してくれる学校の方が居心地がいい。私の願いは背徳的なんかじゃないけど今ここで言ったらドン引かれそうだから。あーまた相澤さんとクラス別だ。がっかり。同じ中学で体育祭のときも図書委員だった人。彼女と会話できない運命のようだ。もう既に喋ってるけど。ちなみに見た目では黒髪ロングが好きらしい。王道だよね。私も好き。一年に一回は髪を切っちゃうけどね。延ばしておけるひとは入試のときみた桜の人くらいだよ。あんな美人さんに声かけられたら固まる。

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