第6話 大きな桜の木の下で

最近桜が散るのが早くなった。入学式を早くすれば見られるのに。入試は思ったよりだるかった。国語の試験で気が緩んでいたのか作文に名前を書くのを忘れていたし、お弁当のコロッケは堅かったのだ。歯が折れなかったので次のテストもできたがそもそも定員割れだったからどうせ受かってた。アニメ見ながら入試も放り出して呑気すぎやしないかと思ったが心配しなくてよかったようだ。家からも近いし。定員割れしてるところを受けるのは私ともう一人男子だけだった。推薦で二時間かかるところを受けた人もいるし思ったより皆入試に真剣だったので驚いた。勉強なんてあとでなんとでもできるぞ。せっかちな人が多いようだ。見ていたのは京アニ作品である。うん美しかった。特に桜の散る場面は三次元より雅だった。さすが平安京。桜は平安時代のものだと言わんばかりの出来映え。こんな薔薇色を浴びてみたいと思ってしまったじゃないか。乗せられているみたいで腹が立つ。女子ばかりの学校で青春が薔薇色だなんて腐女子が喜びそうなこと一瞬でも考えたくなかった。ホモが聞いたら嫌がりそうなのでこの辺でやめとこう。こんなに女子が多ければあぶれている人も多いだろうとは予想できるのでなるべく自分には彼氏がいるとか誰が好きといった話題は避けたい。陰キャグループにも入れてもらえないくらい目立つから適当にごまかそう。そもそも自分に色恋の話題なんて降ってわかないだろうな。桜はまだ少し残っていて髪や肩について地面に吸い込まれるように綺麗に落ちていく。こんなに綺麗なピンクなのに実際は白っぽいなんてごまかしもいいところ。私の頭の良さみたいに。学校があくまで待っていると結構人がきた。頭が黒々としている。皆まだ初初しく中学生の空気を持っていた。どんな風に高校生にかわっていくのか見るのが楽しみである。人が多すぎてどの子が可愛いとか考えられない。これで割れてるのか、落ちて入ってきた人多いなこれは。ほかの人に釣られるようにふらふら歩きだしていた私の足を誰かが止めた。正確には私がただ立ち止まった、それだけのことなのだが不思議だ。目線も動かせない。ああ綺麗だなと思った。桜の木の下で上を見ているまっすぐな瞳が空を映していた。きっと私には見えないような清らかな世界がその瞳には映っていることだろう。特別可愛いわけでもないけどとても綺麗なひとだと思った。恋に落ちる音が聞こえた気がした。桜の色をした音符だ。

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