17
青色の旗の掲げられた室内で八人の国王たちが机を囲んでいる。
「断固反対です。人造魔物と共存を図るなど」
椅子から立ち上がって発言した頭頂で髪を一本に結わえた男に、参加者一同の視線が向く。男は言葉を続けた。
「万が一、いや、高確率で国民を危険に晒すこととなる」
「火山の国王、会議中はご着席願います」
老婆の忠告に机に手を突いて身を乗り出していた頭頂一本結びの男、改め火山の国王は渋々椅子を引いて席に着く。
挙手したヘッドホンを被った髭を剃っていない、最果ての国王を老婆が指した。
「いやさ、どう考えたって戦争続けてる方が国民危険に晒してるじゃん」
最果ての国王の顔を全員が見る。老婆が確認を取った。
「となると、最果ての国はこの案に賛成すると」
「ま、このまま続けてても百パー人類滅ぶし。賛成かな」
手を後ろに回して首を掻く。それならば、と火山の国王が口を開いた。
「魔王襲撃時の様に勇者を戦に駆り立ててしまえば」
「それは余りにも危険すぎます」
発言してからすみません、と断って白髪頭の中央国王が手を挙げる。続けてください、と老婆が中央国王の発言を促した。
「……既にお聞きになられたと思いますが、我が国で保護した時、勇者は正気を失いかけていた……医者が言うには限界が近い状態だと」
中央国王は息をつき、目線を上げた。
「そのような状態で前回のようなことをすれば、勇者は間違いなく再起不能になり、魔物軍に対抗するどころが交渉を持ちかけることすら不可能になるでしょう」
う、と火山の国王が言葉を詰まらせる。
「やもすれば我々にとって最大の脅威になり果てることも」
ぼそりと呟かれたニット帽をかぶった初老の男、北の国王の言葉に一同は騒然とする。静粛に、と老婆が制した。
「北の国王、意見があるのであれば挙手してからのご発言を」
北の国王は面倒そうに片手を挙げる。
「そもそも、そちらの国はこれ以上争いを続けていられるような財政状況ではないかと思うのですが。このところ、貧困層で死者が相次いでいるようですし」
半開きの目を火山の国王に向ける。最果ての国王がヘッドホンから音漏れしていた軽快な曲を止めた。
「あれでしょ。七十五年前、火山の国研究員殺害事件」
ズボンのポケットを漁って最果ての国王は新聞記事の切り抜きを挙手がてら机の上に置いた。崩壊した研究所の生々しい絵の隣に、研究員十四名殺害、人造魔物による犯行、国民の間では研究中止を求める声が、と書かれている。
「確かこれやった人造魔物があの軍のトップやってるんだっけ。厄介だよねー」
両手を頭の後ろに回して椅子を前後に揺らし始める最果ての国王。
「でもさ、国民の反乱はどこの国でも起こると思うし。それこそ軍事力も人造魔物技術もある西の国さんとかと連携できればいいんだけど」
ちらりと、桃色の髪を束ねた端正な顔立ちの若い西の国女王に視線を送る。
「は、はい。勿論、共存のためであれば協力させていただきます」
頷いた西の国女王に、最果ての国王は出しかけていたもう一つの切り抜きをポケットに戻し、よし、と一同の方を見た。
「ていうかうちの国の研究員、こっそり魔物と手組んでるみたいだし」
なっ、と驚いているようすの国王達に最果ての国王はニヤニヤする。
「これが白昼堂々できれば技術発展に大きく貢献してくれそうじゃね?」
国王達は顔を見合わせる。すっと小さな手を上げたエルフ幼女を老婆が指した。
「もう国民達は何十年と続いた争いに疲れ果てております。これ以上、魔物との争いを続けることは文明の進歩を妨げるかと」
言葉を終えて港の国女王は手を下ろす。
静寂の中、老婆が切り出した。
「それでは、この案は決定ということでよろしいでしょうか」
参加者一同の顔を見回す。国王達は頷き、火山の国王も渋々頷いた。全員の同意を確認してから最後に遅れて港の国女王が頷く。
「南の国はどうでしょうか」
老婆に指されて、うつらうつらとしていた犬耳の老齢男性、南の国王が顔を上げた。
「はあ、はい」
「では、この案は全参加国の同意により可決されました」
老婆改め、東の国女王は手元の紙にサインをする。隣に回して各国の国王が紙に同意のサインを記していく。
「可決したということで引き続き、人造魔物軍幹部の処遇について……」
横に置かれていた資料を取って参加者全員に回す。
開け放されていた窓を閉め、鍵を下ろして狼男は振り向いた。
「しかし、共存することを全ての魔物達が受け入れるとは限らないかと」
風に揺れていたパタの黒い髪の束が揺れを止める。肩の傷から血がぽたぽたと血痕の残る床に垂れている。
「だろうな。屈服するくれぇならっつう馬鹿がいそうだ」
首の関節を鳴らして鬼は狼男を見た。よろけて机に手を突き、狼男が顔を上げる。
「……あのゴミ共が俺らを殺すような阿保じゃねえと助かるんだがな」
鬼の言葉に狼男は僅かに視線を下げる。鬼は横目に魔物達を見回して、パタの方を振り向いた。
「約束だ。停戦は受け入れる」
黒い両目がぱっと開く。
息が止まり、パタは笑顔で言った。
その言葉は声にはならなかった。
【 第三部 齢二の盗賊が世界救ったってマジですか? 完 】
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