第32話 運命の話し合い
友美の闇トークに付き合ったおかげで、妹たちに話す内容を練り直すことが出来ず、帰宅する流れとなってしまった。
正確に言えば、友美の話が重すぎて、受け入れるのに精いっぱいだったと言った方がいいのだけど。
「ただいまー」
陽が傾き始めた頃、直斗が家に帰ると、妹達はまだ帰宅しておらず、家の中は閑散と静まり返っていた。
「雪穂もまだ帰ってきてないのか」
秋穂が部活で夜遅いのは予測していたが、どうやら今日は雪穂も帰りが遅いようだ。
直斗はベランダに干してあった洗濯物を取り込み、ハンガーから外して一つ一つ丁寧に畳んでいく。
大事な話があるとはいえ、妹達との日常生活は変わりない。
こうして先に帰ってきた人が率先して家事をして、同居している人たちの負担を減らしてあげるのは家族として当然のこと。
そのことを感じているからこそ、直斗は妹達に話す内容について、洗濯物を畳みながら頭の中で整理していた。
洗濯物を畳み終えて、それぞれまとめたものをタンスの前に置いておく。
直斗は部屋に戻り、机の上に置きっぱなしにしておいた鞄の中から、朝文字起こししたトークデッキのリストを取り出す。
洗濯物を畳む間に新たに思いついた妹達への質問を、忘れないよう書き込んでいく。
「よしっ……」
疑問を全て紙に書き出し終えたところで、ちょうど玄関の方から扉の開く音が響いてきて。
「ただいまー」
直後、雪穂の声が玄関の方から聞こえてきた。
直斗は、廊下に出て雪穂を出迎える。
「おかえり、雪穂」
「あっ、兄さん……先に帰っていたんですね」
「うん。今日は特にこれといった予定もなかったから」
「そっか……」
不意に生まれる、不気味な沈黙。
雪穂はどこか落ち着きがない様子で、目をキョロキョロと動かして忙しない。
「どうかしたか?」
直斗は分かっているものの、あえて平静を装って雪穂へ尋ねる。
「へっ……な、何でもない! 急いでご飯作るね。兄さんもお腹空いてるでしょ?」
そう言いながら、誤魔化すように作り笑いを浮かべて、直斗の横を通り過ぎて部屋へと入っていく雪穂。
「……やっぱり、困惑するよな」
直斗は雪穂の心情を慮りつつ、出来るだけ普段通りに接するよう努めた。
「ただいまー」
雪穂の夕食を食べ終えた頃、秋穗が部活動を終えて帰宅してくる。
「おかえり秋穗」
「ただいまー直斗兄。今日は練習わりと早く終わった方なんだけど、もうご飯は食べちゃった?」
「うん。今丁度食べ終えたところだよ」
「そっかぁ……一歩遅かったかぁ」
そう言って頭を抱える秋穗。
秋穂は雪穂と違って、いつも通りのテンションで直斗と接してくれているので、気持ち的にも楽だった。
「お風呂先に入るか?」
「うん。そうするー」
「了解」
そんな会話を交わすと、秋穗は靴を脱ぎ捨てて、すぐに脱衣所へとそのまま向かってしまう。
直斗がその様子を見送っていると、ふとリビングの方から視線を感じた。
見れば、雪穂がちらりと二人の様子を覗き込んでいる。
直斗が首を傾げて雪穂へ視線を送ると、雪穂はピクっと身体を震わせて、キッチンの方へと戻って行ってしまう。
秋穂と違って雪穂は、直斗の大事な話がまだかまだかとソワソワしている様子。
雪穂には神経をすり減らせてしまって居た堪れないけれど、秋穗のペースに合わせてもらうことにする。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした」
お風呂を終えた秋穗が夕食を食べ終えて、雪穂が食器を片付ける。
その間直斗はリビングのソファに座り、タイミングを窺っていた。
「ふぅ……お腹いっぱいだよ」
お腹を擦りながら椅子にリラックスしている秋穗を見て、直斗はリモコンを手に持ち、テレビの電源を落としておもむろに立ち上がる。
そして、テーブルの前まで行き、二人へ声を掛けた。
「二人とも、話があるんだけど、ちょっといいか?」
そう声を掛けると、二人とも察した様子ですっと真剣な表情へと変わる。
直斗が座る対面側に、秋穗と雪穂が腰を下ろす。
「ごめんね、二人とも忙しいのにわざわざ時間作ってもらって」
「い、いえ……」
「全然平気だよ。直斗兄の為なら、いつでも時間作るよ」
二人の反応はそれぞれだけれど、緊張感だけは伝わって来る。
もうここまで来たら、後はどう転がったとしても、直斗は自分の思いを伝えるだけ。
「それで、大事な話っていうのは、前に言った『二人を女の子として見る』ことについてなんだけど」
そう切り出すと、二人が姿勢を正して、ごくりと生唾を呑み込んだ。
ついに、運命の時……。
直斗と妹姉妹の運命を決めるための最後の話し合いが、幕を開けた。
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