第20話 告白と約束

 三人で食卓を囲んでからずっと、直斗はタイミングを窺っていた。


「ふぅー……ごちそうさまでした」

「お粗末様でした。さてと、片づけちゃうからお皿まとめて」


 秋穗が食べ終わり、雪穂が食器を片づけようとしたタイミングで――


「二人とも、ちょっといいか」


 っと、直斗は意を決して声を上げる。


「どうしたのですか兄さん?」

「何かあったの?」


 二人が首を傾げて直斗の様子を覗き込む。


「まあ、いいから座ってくれ」


 少し硬い感じの口調で二人にそう促す。

 まるで、重要な家族会議が始まる前の父親みたいな台詞になってしまった。

 二人も同じような重苦しい空気感を感じ取ったらしい。

 ぎこちない表情のまま椅子に座りなおして、ちらりと直斗の様子を確かめてくる。

 まあ、これから大事な話をするわけだから、緊張感があった方が聞いてくれるだろうと思い、直斗はそのまま話し続けることにした。


「えっと……二人にちゃんと話した方がいいと思って」

「何をですか?」

「昨日の続き」


 直斗がそう答えた途端、二人の表情が一気に真剣なものへと変わった。

 どこか直斗の意図や真意を探るように、じっと見つめてくる。

 二人の熱い視線を誤魔化すように、直斗は頭を掻きながら口を開いた。


「改めてよく考えたんだ。身近な家族の気持ちも受け止められないなんて、自分何やってるんだろうって……。それで自分なりに考えて、ちゃんと二人の気持ちを知った上で受け止めようって思った」


 二人は無言のまま、唖然とした様子でぽかんと口を開いている。


「だから、教えてくれないか、二人の気持ち」


 直斗が真面目な口調で尋ねると、二人はお互いに目を合わせてどちらから先に言うか悩んでいる様子。

 すると、ふぅっと息を大きく吐いた秋穗が視線を直斗に戻す。


「分かった。でも一度しか言わないからよく聞いてね」

「うん」


 直斗は頷いて、じっと秋穗の方を見つめた。


「私は……直斗のこと、好きだよ。もちろん兄妹としてじゃなくて……異性として」

「そっか……」

「だから、私は直斗兄が楓さんと付き合ってるって知ってムカついたし嫉妬した。凄い悔しくて、直斗兄に女の子として意識してもらおうと思った」


 顔を赤く染めつつも、秋穗は真っ直ぐとした意思のある視線で訴えてきた。


「私も……」


 すると、今度は雪穂が声を上げる。

 視線は自然と彼女の方へと向かう。


「私も、兄さんが好きです。兄さんの彼女になりたい……!」


 彼女もまた、胸の内に秘めている感情を吐露した。

 胸に手を当てて、自分の気持ちに嘘をつかぬよう懸命に……。


「二人とも、ありがとう。正直に答えてくれて」


 直斗はまず、彼女たちが正直に気持ちを答えてくれたことに感謝の意を述べた。

 だからこそ、今度は自分が本音を彼女たちに伝えるべき番だ。


「正直なところ、二人が俺のことそんなふうに思ってたなんて驚きだし、戸惑いもあるけど、二人の気持ちは素直に嬉しいよ。だから、俺にとってどの選択が一番正しいのか、しっかり見定める時間が欲しい」

「つまりそれって、兄さんが誰と付き合いたいか、総合的に判断して決めるってことですか?」

「うん。二人の気持ちにすぐにOKを出すことは出来ない。お互いに比較対象になっちゃうし、必然的に楓とも比較せざる負えないからね。二人の女の子としての面をもっと知りたいんだ。待たせる形になるけど、それじゃあダメか?」


 これは、直斗が選ぶべき最低限の努力。

 妹達の乙女な部分を知ることで、今自分が抱いている感情をはっきりとさせる。

 そんな狙いもあった。

 直斗の意見に対して、二人は――


「わかった。直斗兄がそう言うなら、私達はそれに従うだけだよ」

「そうだね。兄さんにはどっちみち決断してもらわないといけないわけだから、ゆっくりと私達を品定めしてよく考えてください」

「ありがとう二人とも。助かる」


 秋穗と雪穂がいつから直斗のことを異性として意識し始めたのかは分からない。

 けれど、彼女達からひしひしと伝わってくるどこか余裕のある立ち振る舞いを見て、かなり前から意識されていたことがなんとなくわかる。

 今まで気づけなかった自分も情けないけれど、悔やむのではなく、気づいた上で彼女達をしっかり直斗に相応しいのかどうかを見てあげることが、これから直斗がすべきことだと自覚していた。

 こうして、三人の間で取りわされた約束。

 しかし、直斗にとってここからが本当の意味での戦場であることを、この時はまだ気づいていなかった。

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