第14話 イチャつく帰り道
楓と別れた後、授業を受け終えて、直斗はアルバイト先へと向かった。
いつものようにそつなくこなして、あっという間に閉店の時間を迎えて、お店を閉める。
「お疲れ様でした」
そそくさと着替えを終えて、直斗は楓と待ち合わせている駅前へと向かう。
終電間近にもかかわらず、駅前は多くの酔っぱらったサラリーマン達で混みあっていた。
駅の改札前の柱、前と同じようにスマホの画面を見つめる楓の姿を見つける。
直斗が目の前まで近づいても気づかず、楓がすっと顔を上げた途端、目を見開き、驚いたような顔を浮かべて、胸を
「びっくりしたぁ……急に驚かさないでよ」
「俺、普通に歩いてきただけなんだけど……」
「一言くらい声かけてよもう……」
そう言いながら、楓は改札外へと向かって一人で歩いて行こうとする。
「おーい、どこに行くんだ?」
「へっ? ……あっ、そっか」
ようやく直斗が呼び止めた意味を理解した楓は、
「引っ越したから、もうこの駅が最寄りじゃないんだね。ついクセで歩き出しちゃったよ」
「待ち合わせ場所、新しい家の最寄り駅に変えときゃよかったな」
申し訳なさそうに直斗が謝ると、楓は首をふるふると横に振った。
「いいの!」
そして、楓はぎゅっと直斗の腕を
「バイト先から一緒に帰れば、直斗と二人でいれる時間も増えるでしょ?」
「まあ、そうだな……」
「ふふっ……照れてる、照れてるー」
「あぁ、もう! ほら、さっさとホームに行くぞ」
直斗は誤魔化すようにして、改札口をくぐってホームへと上っていく。
隣に引っ付いている楓は、そんな照れている直斗を見て、からかうようにくすくすと笑っていた。
電車に揺られること二十分ほど。
直斗たちは目的地の駅へと到着して、改札を出る。
出口から幹線道路沿いを歩いて行き、とある信号の交差点を左折した。
しばらく細い道を進んでいくと、目的地である直斗の新しい家へと到着する。
「へぇー。ここが新しい直斗の家かぁー」
楓をここに連れてくるのは初めてだったので、彼女は直斗の新しい家があるマンションを興味深そうに見上げていた。
「何の変哲のない普通のマンションだけどね」
そう言うと、楓は視線を直斗の方へ向けてにっこりと微笑んだ。
「前住んでいたところより、随分とグレードアップしたじゃない」
どうやら楓は、直斗が先日まで住んでいた大学近くのボロアパートと比較していたらしい。
「まあ、三人いるんで部屋も必要だし、なにより妹たちに何かあったら困るから」
直斗だけならいいけれど、今は妹が暮らしている。
外出している間に
「ふぅーん……」
すると、楓は納得がいかないと言ったような表情でぷくりと頬を膨らませる。
「何……?」
「いやっ、妹ちゃん達のことは随分しっかりと考えてるんだなって思っただけ」
ぷぃっとそっぽを向いてしまう楓。
声もどこか素っ気ない。
直斗は、やれやれと思いつつも、楓の肩に手を置いた。
「勘違いしないで欲しいけど、前の家は元々俺が一人で住むために決めた家だから、多少ぼろくても良かっただけだ。楓が泊まることなんて想定してなかったし。それに、確かに妹は大切だけど、俺が一番大切なのは楓だってことに変わりはないよ」
「ホントに?」
「あぁ、楓のことを一番大切に思ってる」
真っすぐな瞳で楓に向かって訴えかけると、楓は少し口元を緩めて腕を組む。
「ふ、ふぅーん。なら、別にいいんだけど」
素直じゃないけれど、ちゃんと気持ちは伝わったらしい。
でも、そんな拗ねてる楓も可愛いと思えてしまうのだから、直斗は楓のことが大好きなのだ。
「ほら、ならとっとと行くぞ」
「あっ、ちょっと」
エントランスの入り口前で突っ立っていても時間の無駄なので、楓の手を引いてマンション内へと入っていく。
鍵を差し込み、オートロックを解除する。
開いたドアをくぐり、エレベーターホールへと向かう。
エレベーターに乗り込んで、五階のボタンを押した。
あっという間にエレベーターは上昇していき、五階の廊下に到着。
手を引っ張っていきながら、楓と家の前に着く。
「ここだぞ」
「もう……相変わらず強引なんだから」
呆れた声を上げる楓。
しかし、それも束の間の出来事で、すぐさま直斗に掴まれている手とは反対の手を差し出してくる。
「鍵、貸しなさい」
「えっ?」
「いいから」
楓は
そして、
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