第12話 相談する相手、間違えた

「うぅぅぅ……」

「どした直斗? そんなにガタガタして? 青い鬼にでも出会ったか?」

「ガタガタガタガタ……」

「ダメだこりゃ。完全に恐怖にみ込まれてやがる……」

「ガタガタガタガタ……」

「ガタガタガタガタうるさいねん! はよ戻って来い!」


 友美からのチョップが直斗の脳天のうてんに突き刺さり、ようやく我を取り戻す。


「はっ……! 俺は今まで一体何を⁉」

「やっと我に返ったかバカ直斗」

「誰が馬鹿だ! 俺は真面目に悩んでたんだよ! って、お前誰だ⁉」


 目の前にいたのは、直斗の知ってる金髪イケメンではなく、黒髪でジャケットを羽織はおったさわやかけい男子だった。


「誰とはひでぇな……。かけがえの無い唯一無二の親友を忘れるとは……」

「いやっ……違和感ヤバすぎて、他人だと思いたくなるっての。雰囲気まる変わりじゃねぇか……」


 金髪ストレートで、チャラそうな風貌は何処いずこへ?

 様変わりしすぎだろ……。


「いやぁーこの前告った子からよ、私、金髪でチャラい男は嫌い』だっていうから、がらりと雰囲気を変えてみた」

「お前の女に対する探究心だけは本当に凄いし、尊敬するわ」


 一度振られたとしても、自分の欠点を努力で補う男。それが、時念というヤツ。


「まっ、こう見えても俺、諦めだけは悪い男なんでね」


 そう言いながら、染めたばかりの黒髪をき上げる時念。


「それ、自分で言うとかなりダサいぞ」

「何とでも言ってろ」


 まあ実際、こいつは一度好きになった女のためなら努力を惜しまない諦めの悪い男だと思う。

 一度振られてくじけたって、何度も努力をしてい上がり、再び高い壁へと挑んでいく。

 それこそ、時念の真骨頂。

 まあコイツの場合、付き合い始めてからすぐに他の女に目移りしてしまう所が大問題だけど……。


「はぁ……なんで世の中ってこんなに不平等に出来てるのかね」

 

 すると、隣に座る努力をしない女がため息を吐き、頬杖をつきながら遠い目をしていた。


「友美、お前はまずそのボサボサの毛を何とかしろよ」


 友美は爆発したボサボサの毛をさらしたまま大学へと登校してきていた。

 女子力じょしりょく皆無とは、まさにこのことだろう。


「直斗も同じ天パ仲間として分かるやろ? 起きた時の寝ぐせのヤバさ」

「それが分かってるから俺はストパーかけたんだよ。友美もかければいいだろ」

「ふっ……女がストパーかけても、せいぜい一週間が限度よ。それ以降は、前と変わらず毛が縦横無尽に跳ねまくって収拾がつかなくなる。これが、天パー女の末路よ」

「何を悟ってるんだお前は……」


 友美は友美で色々とこじらせている。


「ってか、今日はこれでもメイクだけはちゃんとしてきたのよ。そこは褒めて欲しいわ」

「また寝坊したのか……」

「寝坊したというより、寝てないって言った方が正しいかしら」

「はっ? もしかして貫徹したの?」

「まあね。昨日からアペの新シリーズが始まったから、貫徹してランク上げしてたのよ。んで、野良にボコされまくってむしゃくしゃして頭搔あたまかきまくってたらこのざまよ」

「まず貫徹でゲームするのやめろよ……美容に毒だろ」

「無理や! うちにはアペが待ってるんや!」

「ダメだコイツ、完全にゲーム依存症になってやがる……」


 確かにアぺ楽しいけどさ。

 友美はその前に女子大生としての身だしなみを最低限整えた方がいいと思う。

 でないと、寄ってくる男も寄ってこないというもの。

 友美に彼氏が出来ない理由がなんとなくわかった気がする。


「んで、友美のアぺ話は置いといて、直斗は何悩んでたんだよ?」


 話を切り替えるようにして、時念が尋ねてくる。


「そ、そりゃまあ……色々だよ」


 言えるわけがない。

 妹と一緒に風呂に入って、リトル直斗(戦闘態勢)を披露してしまったなんて。

 さらには、妹にその珍獣ちんじゅうを狙われていたなんて、相談しようにもできるわけがない。

 今日の朝も、二人とは凄い気まずい雰囲気だった。

 朝食を食べ終え、逃げるように家から飛び出してきたのだから。

 雪穂はまだいつも通りだったけれど、秋穗に関しては、朝からしれっと視線を直斗の下腹部へ向けてきてたし……。

 いつ妹たちに夜這よばいされて、過ちを犯してしまってもおかしくない。

 引っ越し初日から、妹と一緒に暮らし始めたことを後悔しているのだ。


「まっ、直斗のことだから、また楓先輩と喧嘩でもしたんでしょ?」


 友美が重いまぶたこすりながらつまらなさそうに言ってくる。


「あぁ……実はそうなんだよ」


 気が引けたけど、ここは楓と喧嘩したていにしておこう。

 楓、本当にごめんな。


「何があったん、言ってみ?」

「……実はさ、昨日一緒に風呂入ったんだけど……」

「惚気かよ。死ね」


 またも、友美のチョップが脳天を直撃する。


「いってぇな! 切実に悩んでるのに何すんだよ」

「彼女とのH事情を聞かされる身にもなって見ろっつーの。うちが彼氏の棒が小っちゃくてとか悩んでたら嫌やろ?」

「……確かに、嫌かも」


 けれど、直斗の胸につかえる気持ちを誰かに打ち明けなければ、この鬱憤が晴れることはない。


「なんか最近、異様に妙な視線を感じるんだよ。特にこの辺に……どう思う時念?」


 仕方がないので、相談相手を時念へとシフトチェンジ。


「そりゃ、普通にヤリてぇんじゃねえの?」

「だよなぁ……」


 ストレートな答えに対して、直斗は頭を抱える。


「なんでそんなに落ち込む必要があるんだよ? 女から求められてるんだから、普通そこは喜ぶところじゃねーの?」

「いや、そうなんだけどなぁ……」


 そりゃ、これが本当に楓からだったら嬉しいよ。

 問題は、妹からその視線を向けられてることなんだよなぁー。


「お前もしかして……たないのか⁉」

「えっ……?」


 何かを悟った様子の時念があわれみの目で見つめてくる。


「大丈夫だ。恥ずかしいかもしれないけど、素直に楓先輩に打ち明ければ、きっと理解してくれるさ」


 直斗の肩に手を置き、優しい瞳を向けてくる時念。


「待て待て、何か勘違いしているようだけど、俺のは健全で正常だ!」

「まあまあ、そう強がるなって……俺もそう言う経験前にあったからよ。よくわかるぜ……」

「だからちげぇって……!」


 いくら否定しても、聞く耳を持たない時念。

 どうやらコイツは、直斗が勃起不全であることに悩んでいると勘違いしているらしい。


「直斗……その年で、可哀想に……」


 すると、隣で聞いていた友美も状況を理解したらしく、両手で顔を押さえてショックを隠し切れない様子。


「だぁっ!!! ちげぇっての!」


 どうやら直斗は、相談相手を間違えたらしい。

 二人には同情の目を向けられ、直斗の悩んでいる内容をはき違えたまま納得されてしまった。

 こうなったらもう、覚悟の上で彼女に相談するしかない。

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