第6話 各々の感情(姉妹&楓視点)

 駅まで送ってくれるということで、私達は駅に向かって歩いていると、アパートの前の道に出たところで直斗が立ち止まり、楓に向かって手を合わせてきた。


「楓ごめん! まさか妹たちが急に家に来てるなんて予想外でっ……」

「いいって、気にしてないよ! 直斗のかわいい妹ちゃん達を見れただけで、私は満足だよ」

「そうか? まあそれなら良かったけど……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべる直斗。

 それを見た楓は、直斗の手を掴んで引っ張り、明るく振る舞った。


「ほら、妹ちゃん達が待ってるんだから、早く行こ!」

「うん、そうしようか」


 こうして二人は来た道を戻っていき、駅へと向かって歩き出した。

 直斗は気づいていないかもしれないけれど、楓は明らかに二人から警戒されていた。

 兄が突然家に彼女を連れてきたら、そりゃ驚くに違いない。

 けれど、楓はもう一つ二人から違う感情を感じ取っていた。

 それは、直斗を絶対に渡さないという強い敵対心。

 直斗の妹ちゃん達は、随分と直斗のことをおもっているらしい。

 楓に向けてきた視線は恋敵こいがたきそのもの。

 まるで、『直斗は私のもの!』と主張しているような感じ。

 どうやら、一筋縄ではいかないようだ。


「これは、随分と手ごわそうね……」

「んっ、何か言った?」

「ううん、なんでもない!」


 そう適当に誤魔化して、楓は再び思考を巡らせる。

 直斗には妹達と仲良くなりたいと言ってしまったけれど、下手したら一番説得が大変な相手と対峙してしまったかもしれないと思う楓なのであった。



 ◇



 一方その頃、直斗が楓を駅まで送りに行った直後。

 秋穗と雪穂はローテーブルを囲み、緊急会議を開いていた。


「雪穂は知ってた? 直斗兄に彼女がいること……」


 秋穗が恐る恐る尋ねると、雪穂は首を横に振った。


「兄さんに彼女がいたのは予想外。でも、何か隠し事をしてるんだろうなとは薄々感じてた。一緒に暮らそうって説得しに来た時、変に躊躇ちゅうちょしてたから」

「確かに……あの日の直斗兄、歯切はぎれ悪かったもんね」

「うん……」


 直斗がなぜ二人と一緒に暮らすことに多少の抵抗を見せていたのか。

 その原因がようやく判明したことで、雪穂は納得した表情を浮かべていた。

 それ以降、二人はだんまりと黙り込んでしまう。


(まさか、直斗兄の奴、女を作ってた上に家に連れ込んでたなんて……! 私という存在がいながら、何勝手に一人で大人の階段上っちゃってるんだし! 折角練せっかくねってた計画が丸つぶれなんですけど!)


 心の中で憤慨ふんがいする秋穗に対して……


(やっぱり。兄さんには彼女がいたんだ。私という存在がいながら彼女を作るなんて……絶対許さないんだから……)


 心の中で兄に対するそれぞれ感情を吐露していると、ふと秋穗と雪穂の視線が重なる。

 そこで二人は頷き合い、各々の意志を確認した。


「こうなったら……」

「まずは共闘あるのみね」

「絶対に直斗兄を……」

「あの女から取り戻す!」


 双子姉妹の当面の目標が決定した。

 あの魔性の女から直斗を引き離す。

 そして、直斗を私たちに振り向かせて見せる。


「直斗兄がどちらを選んでも、うらみっこなしよ雪穂」

「うん、わかってる」


 こうして、直斗の知らぬところで、双子姉妹による共闘協定が締結した。

 その頃、当の本人は、そんな女同士の戦いが始まろうとは、気づいてすらいないのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る