第3話 カオスな友人たち
「というわけで、新しい家に引っ越すことになった」
春休み中に起こった事の
「なるほどな、それで俺たちのたまり場は無くなっちまうわけか」
「すまんな
「気にすんな。別に時間潰す場所なんて、いくらでも見つけられるだろ」
そう言って、金髪のストレートヘアを
けれど、気づけば直斗は時念と一緒に授業を受けるようになっていた。
「んでよ、その妹ちゃんの写真はないのかよ?」
「ヤリ目のお前にはぜってぇ教えてやらねぇ」
「連れねぇこと言うなよ。俺からもいい女紹介してやるからよ」
「彼女がいるから間に合ってる」
「かぁー分かってねぇなお前は。女ってのは、複数人キープしておくのが基本だぜ?」
「お前、ほんとよくそのクズ精神で生きてけるよな。いつか後ろから刺されても知らねぇぞ」
「そういうメンヘラ女子の見抜き方は知ってるし問題ない」
胸を張って豪語できるところは、呆れを通り越して称賛に値する。
時念は見ての通り、女遊びがあまりよろしくない。
一年の頃から、常日頃女をとっかえひっかえ……。
噂によれば、この一年間で三十人以上の女子と経験したとか。
気付けば、大学内で『ヤリウェイ』というあだ名までつけられ、軽い男として噂が広まってしまっている。
最近は、学内を飛び出し、近所にある女子大の学生を頻繁に口説きに行っているらしい。
「んで、そのお前が愛する彼女には、ちゃんと引っ越しの件は伝えたのか?」
「そ、それは……この後伝えるんだよ」
「何でそんな大事なことをすぐに言わねぇんだよ。今はネット社会なんだから、連絡一本すりゃ済む話だろ」
「それは、そうなんだけど……急に決まった話でバタバタしてて」
「かぁーっ。ここにきて忙しかったって言い訳かよ。女一人のために電話一本の時間を取れねぇようじゃ。お前らの恋もここまでだな」
「うるせぇ。勝手に言ってろ」
「拗ねんなって。これでも応援してやってんだぞ俺は」
そんな会話を繰り広げていると、直斗たちが座る机にドンっと手が置かれる。
いきなりの出来事で驚きビクっと身体を震わせながら顔を上げれば、そこにはぜぇ、ぜぇっと息を切らしながら、アホ毛を生やした小柄な女の子が立っていた。
「よっ、
「オリエンテーションあるの忘れてたのよ……」
「そんなブタみたいに鼻息荒いと、女が
「うるさいわね。あんたみたいにヤることしか考えてない奴に言われたくないわよ」
そう言って時念に反論する女子生徒の名前は
同じ学部に通う女子大生。
小柄な体型ながらも、少し肉付きの良い脚や胸元が特徴的で、セミロングの茶髪から出ている寝ぐせのようなアホ毛が印象的な女の子。
彼女もまた、時念とは違った意味で変わった女子大生である。
「友美おはよう。朝から随分と大変だったね」
「おっはー直斗。いやぁーガンダして疲れたわ」
息を整えながら、友美は直斗の左隣の席へと座り込む。
バッグからお茶のペットボトルを取り出し、キャップを外してゴクゴクと勢いよく飲み干す。
「はぁ、回復ぅー」
「また深夜までバイトしてたのか?」
「そうなんよ。昨日急に欠勤が出ちゃって。そのままクローズまでロングタイムでバイト」
「うわきっつ……相変わらずアクティブに働いてるんだな」
「そりゃまあ、女磨きには投資が一番だからね」
そう言って胸を張る友美。
確かに美容にお金はつきもの。
けれど、健康的な生活を送ってよく寝た方がいいのではと、今の友美には言えない。
なぜなら彼女は今、絶賛彼氏募集中なのだから。
友美の外見を見れば、モテるためにメイクやファッションにお金をかけていることは
ただ友美の場合、男子と気軽に関わりやすいほどのずぼらな性格上、女として見てもらえないことが多いのだ。
何度も合コンをセッティングしてもらっているらしいが、結果はすべて惨敗。
時念と比べてしまうと、天と地の差だ。
校内では『グーダラサキュバス』という異名まで付けられている。
「ってか聞いてくれよ友美。直斗の奴、妹と一緒に暮らすから引っ越すんだってよ」
「えっ⁉ 嘘―! うちらのたまり場が無くなっちゃうってこと⁉ 大学から近くて空き時間の暇つぶしに便利だったのにー」
残念そうに唇を尖らせる友美。
「悪いな」
「んで、妹ってどうなん? 可愛いの?」
友美まで興味津々といった様子で尋ねてくる。
「それがよ。こいつ見せてくれないんだよ」
「えっ、ケチやん」
「ちげぇよ……時念は下心満載だったから見せたくなかっただけだ」
「なら、うちなら見せてくれる?」
「まあ、友美なら構わないけど……後悔するなよ?」
「後悔なんてしないって! 直斗の妹っしょ? そんな変わらんて」
友美は軽く笑い飛ばしているけれど、本当に大丈夫なのだろうか。
家族補正が入っているとはいえ、春川姉妹のスペックは相当高いレベルに入ると思う。
「ほら、これ」
直斗はスマホを操作して、友美に写真を見せてやる。
スマホに映る秋穗と雪穂の画像を見た途端、友美は思わず目を見開く。
そして、「くぅー」っと
「こりゃ参った。毎日こんな可愛い妹に面倒見てもらえる直斗が羨ましいわ」
そんなことを言いながら、友美はふと何かを思いついたように直斗を見つめる。
「ってか、ちゃんと楓先輩には事情を説明したん?」
「それがよ。こいつ、
「マ⁉ それヤバくない⁉」
友美も時念と同じような反応を示す。
ちなみに楓先輩というのは、直斗の彼女の名前である。
「あーもう二人してうるさいな。オリエンテーションの後に直接会って話すんだよ!」
直斗が少しイラつきながら言うと、丁度終わりを告げるチャイムが教室内に響き渡る。
オリエンテーションの時間もこれで終わり。
直斗はそそくさと配布された資料を鞄に仕舞い込み、席を立つ。
「んじゃあな。俺は今から楓先輩の所に行くから」
「いってらー」
「愛想つかされて破局にならないよう気をつけろよ」
「分かってるっつーの」
二人のウザ絡みを交わして、直斗は教室を後にした。
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