第13話

―あれは俺が小学5年のとき

「なんでまさ転校しちゃうの??僕やだよまさと離れたくないよ」

俺の転校の理由はよくありがちな親の離婚だった

母親に引き取られた俺は元々住んでいた街を離れて暮らすことになった

「ほらまさみんなに挨拶して」

大人なんてのは身勝手だ

先に生まれたからって威張ってなんでも自分の思い通りにしようとする

子どもの意見なんて聞こうともしない

子どもは大人の都合に振り回されるだけ

「まさ…これ僕の絵本あげるから…僕のこと絶対忘れないで…」


「小学校5年生にもなって絵本??笑わせないでよ

こんなのいるの??いらないでしょ次の廃品回収のときに出すから貸して」

そう大人なんてのはみんなみんな自分勝手だ

俺のことなんてなんにも聞きやしない

俺から大切なものを奪っていく―


そのとき俺の母親が俺から奪ったのは大切なものだけじゃなかった

大切な記憶も奪った

俺はそのショックであのときから今日までずっと叶奏のことを思い出せなかった

『あのときちゃんとさよならできなくてごめん』

『もらった絵本を大事に取っておけなくてごめん』

『せっかく会えたのに今まで思い出せなくてごめん』

伝えることはたくさんあるのに…

言葉にして言わなきゃいけないことはたくさんあるのに…

俺の口は動かなかった

頭も働かなかった

目の前の風景はただただ映像として俺の目の前を過ぎていくだけで俺の脳に何も情報を伝えてくれなかった

だから俺にはあいつがどんな顔をしていたかわからない

何もわからないけどただ一つだけわかることがある

俺は無意識のうちに叶奏を抱きしめていた

あいつはどんな顔でどんな気持ちで俺を見ていたのだろう




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