第13話 父の死
父はいつも面倒になると“女”を棄てていた。
正しく言えば“女”から逃げていた。
先に逃げられたのはブルドッグが初めてだった。
因果は巡るのだ。
父がブルドッグにそうされたのも、通い婚でしかなかったのも、近隣住人には周知の事実だったが
「あれ(ブルドッグ)が悪かったから離婚したんだ」
と祖母はうそぶいて体裁を保った。
ブルドッグが消え、祖母の母への依存度は日に日に増していった。
定職にも就かず、祖母の年金や資産を頼りにふらふら暮らす父に愛想がつきてしまったのだろう。
今度は母が父の代替品にされた。
「京子さん、京子さん」
と、ことあるごとに父の素行を報告してくる。
父はすっかり女っ気を失くしたらしく、また似たような“女”を連れこんで乳くりあわれるのかと戦々恐々としていた祖母は、ほっとしたようだった。
父の最後の“女”が人生最愛の“女性”でなかったのは、父の最大の不幸だったと思う。
若くして失敗しても、経験を積むうちに自分にしっくりくるパートナーに辿りつければ結果オーライだったのに……。
浅瀬で数を撃っていただけの父には自業自得か。
父が生涯で愛した女性は母親(祖母)だけだ。
父はけして報われない愛を追いもとめて苦悩した。
そんなもの、さっさと棄ててしまえばよかったのに。
私のように見きりをつけてしまえばよかったのに。
父の慟哭の意味を、祖母が理解する日は永遠にこなかったのだから……。
平日の朝だったろうか?
祖母から電話があった。
高校を卒業し、すでに水商売に従事していた私は、薄く開けた目で時計を確認して舌打ちした。
「そうなの?ええ?それで?駄目よ!だって、そんなの……可哀想じゃない!」
電話口で母がぽろぽろ泣いている。
父が亡くなったのだ。
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