第10話 天誅
いつものように夕餉を終えて寛いでいると、ただでさえ凸凹の面をさらに腫らしたブルドッグが、べそをかきながらやってきた。
醜く怯えながら
「夫に殴られた!」
と母に訴えた。
いよいよ父との関係がバレたらしかった。
『ざまぁみろ!』
そのときの私は悪魔の顔でニヤついていたに違いない。
駐車場で無警戒にイチャついていた二人を目撃したご近所さんは、ミイラだけではなかったはずだ。
生保レディとして精進もせず、小学生の子どもがいながら、浮気相手の母親のアパートに入りびたる……。
家庭を顧みない妻を夫は不審に思っただろう。
父とブルドッグの関係が夫の耳に入るのは時間の問題だった。
本家には戻れない、かといって、このままここにいたのでは“追っ手”がくるかもしれない。
母はブルドッグに、ほかの友人を頼ってみてはどうか?と提案した。
だが、それも、とんだ恥さらしだ。
娘の同級生の父親と浮気する母親と知ってかくまう非常識な人などいるはずもなく、体よく断られるのがオチだろう。
やむなく、ブルドッグはその夜、近隣のビジネスホテルに宿を取った。
そんな日が数日続いたのだろうか?
いったん本家に戻ったブルドッグが、ふたたび夫に殴られたと訴え、黄色と青紫色の痣が混ざったカラフルなじゃが芋のような面で現れた。
『ざまぁかんかん!』
それを観た私の中の悪魔が踊った。
生気を失った姿は輪をかけて醜く、憐れだった。
「実家へ帰るわ……」
ブルドッグはその足で隣県の実家に身を寄せた。
後日、夫の留守を見はからって本家に戻ったブルドッグは、自分名義の貴重品等を持ちだし、以前より打ちあわせていた子どもたちを連れて家を出た。
お陰で私の同級生の女の子は、卒業まで半年という中途半端な時期に転校を余儀なくされた。
才色兼備でスポーツ万能、おまけにサバけた性格で、男女ともに人気があった。
父親譲りなのだろうか?
ブルドッグには1ミクロンも似ていなかった。
彼女は夫婦喧嘩の理由や家出の詳細を知らされていなかったはずだ。
私は申しわけない気持ちでいっぱいだったが、それが救いでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます