02
草原の真ん中、今にも崩れそうな小屋の傍で座り込む二十代ほどの男女計四名。
「めんどくせえ。もうその中央国? とらやらに殴りこみに行こうぜ」
頭に角の生えた男が手に持った刀を地面に突き刺す。
「馬鹿なのですか? 子供を一人を捕らえるくらいで国を相手取るなど」
狼の耳を生やした男がスーツについた毛を払いながら言う。
「ああ? 喧嘩売ってんのか」
「いいえ、当然のことを申したまでですよ」
角の男は立ち上がり狼耳の男のスーツの襟を掴んだ。しかし狼耳の男は不敵に微笑んでいる。少し離れたところでそばかすのある女がお茶を飲みながら二人を眺めている。
「上等だこの野郎、今日こそその腑抜けた面ぶった切ってやる!」
「いいですよ、お相手しましょう」
一触即発な空気。
黒いローブの女が立ち上がった。
「まあまあ二人とも……毎回喧嘩してたらきりが無いよ」
向かい合う二人をなだめるローブの女。角の男は舌打ちをして手を離す。狼耳の男はスーツの襟を直しつつ出していた爪を引っ込める。
「貴方、魔女の言うことだけは聞きますよね」
「うっせえお前もだろ犬畜生。つか従ったわけじゃねえ」
離れたものの険悪な空気の二人に、ローブの女改め魔女は苦笑い。
そばかすの女はふと立ち上がり二人に湯呑を差し出した。
「ちっ……手前のせいで喉乾いたじゃねえか」
角の男がぼやきながら湯呑の中身を一気飲みする。
「第一勇者を取っ捕まえるっつったって、一体そいつはどこに居るんだよ」
「一番怪しいのは中央国の城下町だと思うけど……狼男は何か知ってる?」
狼男と呼ばれた狼耳の男は首を振った。
「私が知るはず無いですよ。元人間の貴方が知らないというのに」
そして湯呑をすすろうとして、発せられるアルコールの匂いに手を止めた。
突如角の男が魔女にとびかかった。その手は明らかに狙っている。
「酒だと気が付かないなんて……流石馬鹿ですね」
湯呑の中身を飲みつつ狼男とそばかすの女は眺めるのみ。
迫りくる角の男に魔女はハイキックを食らわす。
「毎度毎度人の胸狙ってんじゃねえよテメェらっ!」
魔女が言うと共に吹っ飛ぶ角の男。
テイク2。
「で……とりあえずは行ってみるしかないよね」
魔女は杖を手に立ち上がる。
「あれは置いていきますか?」
狼男が指さした先で角の男はのびている。
「いや、引きずって連れて行こう。物理攻撃できるのは鬼くらいだから」
魔女の言葉に狼男は頷くと、鬼と呼ばれた角の男を足でつついた。靴を履いていないため毛の生えた獣の足が露わになっている。
「いつまで寝てるんですか。行きますよ」
やや乱暴につつかれ鬼はすぐに目を覚ます。まだ頬が若干赤い。
「……さらっと爪立ててんじゃねえ」
微笑む狼男の足は、かぎ針のような爪がむき出しになっている。
魔女はそばかすの女と並んで二人を眺めている。その目は遠い何かを思い出しているようだった。
しかし二人の準備ができたのを見ると、その場にいる自分含め四人に魔力を向けた。
「転移魔法っ!」
そして唱えると草原から四人の姿が消えた。
一同の前に横たわる二人の兵服姿の男。目を見開いたまま血を流している。
「だ、誰かえ、援護を」
片方が言い切る前に鬼が足で頭を潰した。もう片方は既に首が無い。
足についた血とその他諸々を草で落とし、鬼は刀を鞘に納めた。
「何で正面突破できると思ったのか、不思議でなりませんよ」
狼男がため息をつく。
「いいじゃねえか人間の一匹や二匹」
「そういう問題じゃないですよ。加勢が来たら面倒なことに……」
辺りを見回し他に人間がいないことを確認する。
「とりあえず魔力を感知されない場所まで…………魔女? 何してるんですか?」
魔女は城下町の中を名残惜しそうに眺めている。
「い、いや……あの、ちょっとだけ本屋に」
「駄目ですよ」
狼男に引きずられて城下町を離れる魔女。と、鬼とそばかすの女。
ある程度離れたあたりで後ろの方からざわめきと叫び声が聞こえてくる。
ふとそばかすの女が足を止めた。
そして無言で向こうの地面を指さす。引きずられていた魔女が顔を上げる。
「どうし……あれ、なんか凄い魔力を感じる……」
魔女の言葉に狼男と鬼も指さす先を見た。何かが倒れている。
「人か? なんだって人からあんな魔力が……」
鬼は不思議そうに倒れている人の方へ歩み寄り、荒々しく首を掴んで持ち上げる。それはどう見ても年老いた人間の男性であった。
「もし人間なら……この人、大魔法使いか何かだと思う」
「成程。それなら勇者に関する情報が得られそうですね」
狼男が老男性の体を爪でつつく。男性は熟睡していた。
「持って帰って拷問にでもかけてみましょう」
魔女は不安そうに狼男の方を見る。
「だ、大丈夫なの? こんなお爺さんに……」
しかし魔女の不安をよそに、狼男と鬼はやる気満々である。
「……なんやかんやでこの二人、息ぴったりだな……」
呟く魔女。顔に返り血がかかっている。
鬼に首を掴まれたまま熟睡していたはずの老男性は微かに目を開けると、その姿をを見て息を飲んだ。
「ま……魔女……さん?」
まるで彼女のことを知っているかのように。
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