第5話
家主不明の家を出て、しばらく無言で一緒に歩いていると、女性がポツリと話し出した。
「あなた、お金に困ってるの?」
「え? どうしてわかったんですか?」
突然内心を見抜かれて、ドキリとした。
「随分真面目そうなのに、泥棒なんてしてたから不思議だったのよ」
「3日間何も食べられないくらいには、お金に困ってますけど……」
そう言うと、女性は財布を取り出して1万円札を2枚、押し付けるようにして渡してきた。
「食費くらいにはなるでしょ?」
「いや、そんな初対面の相手から2万円ももらえませんよ……」
「あげてない、貸すだけ。ちゃんと返しなさいよ」
女性はそう言いながら、数字の書いた紙を手渡してきた。
「これ私のスマホの番号だから、お金に余裕出来たら絶対連絡しなさいよ!」
「こういうのって普通借りたほうが番号を教えるもんじゃないですか? 借りたまま逃げられたりするリスクとかありますし」
「逃げるのつもりなの?」
「いや、そんなつもりは全くないですけど……」
「じゃあ別にもらっとけばいいじゃない。ストーカーに番号教えるの、抵抗あるかと思って気遣ってあげてるんだから。まあ、あなたのことストーカーしようなんて全く思えないけど」
女性は自嘲的に笑った。押し入れの中で遭遇した時には、危険人物という印象が強かったが、もしかすると本当はとても優しい人なのかもしれない。
「じゃあ、すいません。お言葉に甘えてありがたくお借りしますね!」
☆☆☆☆☆☆☆
旅行から帰って来たこの家の本当の家主である老夫婦は、家の中にいる筈の無い存在に気が付いて驚いた。
「留守の間にうちに猫が住み着いてるじゃないか」
どこから入ったのかはわからないが、無断で老夫婦の家に入ってきた猫が、玄関先で居眠りをしている。人の家で勝手に寝ているだけだというのに、まるで一仕事終えたような、充実感に満ちた気持ちよさそうな顔をしていた。
「たまにうちの縁側で日向ぼっこをしている猫ですね。野良猫なんだったら、せっかくだし、うちで飼いましょうか」
おばあさんがのんびりと微笑んだ。
空き巣がいます!ストーカーもいます!それ以外にも何かいます! 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji
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