【ア】愛でる相手は同い年(第103話)
リンドベル領都にある高級品を扱うドレスショップ。普段着から夜会に着ていくようなドレスまで取り揃えているこの店は、王都の流行をいち早く取り入れることでも有名だ。
そこを貸し切りにして、あれやこれやとドレスやアクセサリーを出させているのは、前リンドベル辺境伯夫人、アリス・リンドベルと、娘のパメラ・リンドベル。そして、その着せ替え人形になっているのが……まるで少年のように短い黒髪の少女、ミーシャ。
今日は、無事にリンドベル家の屋敷に到着したこともあり、旅の途中で出来なかった、ミーシャの服を買いにやって来た。本来ならば、屋敷の方に呼んでもいいのだが、普段、着られるようなモノを急ぎで用意するためにも、直接店の方にやってきたのだ。
「ねぇ、あちらのドレスも出してちょうだい」
「はい、かしこまりました」
普段は冒険者の格好で過ごすことの多いアリスたちだが、さすが辺境伯夫人とその娘。伊達に貴族ではない。今日のようにドレスショップに赴くために相応しいように、それぞれに美しくドレスアップしている。彼女たちのことを知らなければ、現役の冒険者だと気付く者などいないだろう。
「ミーシャ、ミーシャ、このピンクのはどうかしら」
「え、ええ、そうね」
その状況についていけていないのは、ミーシャただ一人。呆然としながら、言われるがままに、ドレスを試着し続けている。
たぶん、あまり好きではないのだろう、パメラに差し出されたドレスを目に、顔が引きつっているのをアリスは見逃さない。ミーシャは寒色系の色が好きなのかしら、と考えながら、店員に別のものを探すように指示を出した。
アリスは最初にミーシャの姿を目にした時、今まで見たことがないような顔立ちに、興味を惹かれた。そして、彼女と話をしているうちに、見た目の年齢とは違うことを、改めて知る。悲壮感もなく、淡々と語る姿、そして彼女の実年齢に近い格好に変化した姿に、驚くとともに、その姿の若々しいことに驚く。
あちらの世界の中年女性たちは、皆こんなに若々しいのか。それとも、ミーシャ特有なのか。そう聞くと、あちらでも、人種の違いがあるらしく、ミーシャの人種は比較的若く見られがちだとか。そう言われて、なるほどね、と思う。
初孫になるはずだった、そう言われても、目の前にしている少女には、どう見ても自分たちの血は流れてはいない。それでも、湧き上がるこの想いは、彼女に対する愛しさであることは間違いない、とアリスは強く思う。
「アリス様、どうです? 似合うかしら」
少し恥ずかしそうに、サックスブルーに白いレースが縁どられたドレスのスカートを両手でつまんで広げて見せる。
「せっかくなんだから、ピンクも着てみたら」
「いや、うーん、ちょっと恥ずかしい」
「いやぁねぇ、せっかく若返ったのよ? 実年齢では着れない色に挑戦してみればいいじゃない」
「あう、でも」
「ほらほら」
顔を真っ赤にしながら、渡されたピンクのドレスを着た試着室から出てきたミーシャは、本当に恥ずかしそうだ。
実年齢が同い年、と言われても、こうして可愛らしい格好を見せられたら、そんな年齢など関係なくなる。時々、変化で見せられる姿だって十歳は若く見える。下手をすれば、ヘリオルドとあまり変わらないんじゃないだろうか、と思うアリス。
「ねぇ、ドレスもいいけど、もっとシンプルなのが欲しいんだけど、あるかしら?」
「はいっ、お待ちくださいませっ」
困ったような顔のミーシャの言葉に、店員たちはすぐに動き、何種類かのワンピースを手に持ってやってくる。いくつであっても女性であれば、そういったものに関心がないわけがない。ちょっとだけ、ワクワクしたような表情を浮かべているミーシャを見て、アリスも優しい笑みを浮かべる。
――いつか、本当に私の娘になってくれないかしら
そう思いながら、店員たちに、あそこにあるワンピースもお願い、と、こっそりロイヤルブルーのワンピースを持ってこさせるアリスなのであった。
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