【ミ】オークのお肉は美味でございますっ!(第81~82話)

 少し離れた場所で、モクモクといくつもの煙が上がっているのは、オークたちの家屋だったものの残骸や、彼らが放置していた亡骸を燃やしているから。濃い血の臭いには、嫌でももう慣れてしまった。

 後から追いかけてきていた低ランクの冒険者たちが運んできた、ポーションや傷薬を配るのを手伝いながら、こっそり治癒の魔法をかけてまわる。だいたいが、大した怪我ではないのは、リンドベル一家の馬鹿みたいな攻撃力のおかげと言っていい。


「よし……手が空いてる奴から血抜きだ!」

「おおおおお!」


 なんか、盛り上がってるなぁ、と思って振り向いたら。


 ザシュッ

 ガッ

 ゴッゴッゴッ


 冒険者たちが笑顔でオークの死体を切り刻んでる。


「ヒッ!?」


 血塗れになりながら、声を張り上げ、深い森の木々にオークの死体を吊り下げていく。

 まるで、中世ヨーロッパのドラキュラ伯爵のモデルになったという貴族が敵兵達を見せしめに串刺しにしていた、というシーンと重なり、なんだか、遠い目になる。


 そして、これらが食用になるというのも、想像できない。


 いや、今までも、街道の町で魔物の肉と言われるものも食べてきた。ワイルドボアとか角ウサギとか、普通にあちらの世界でも、ジビエ料理というものがあるから、それはそれでアリだと思ってた。ジビエ料理、食べたことないけど。

 実際に食べてみて、臭みが気になると言えば気になったけど、我慢して食べた。食べなきゃ、生きていけないし。


「よーし、奥の奴から持って来いっ!」


 私が現実逃避しているうちに、筋肉ムキムキのハゲ頭のおっさんが、冒険者たちに声をかけだした。なんか、すごい、大きな鉈だか包丁だかを振り回している。もしかして、アレでアレを……。

 

 もともと、あちらの世界でも、スーパーで買うのは綺麗に加工されたお肉。精肉店でも、すでに、ある程度加工された肉の塊がやってくるわけで。

 途中から、私は考えるのを放棄した。 




「おー、さすがオークキングの肉は脂のノリが違うな!」

「ん~! いい匂いっ!」


 エドワルド様とアリス様が、満面の笑みで肉の塊にかぶりついている。

 ……この人たち、貴族なんじゃなかったっけ。


「ミーシャ、旨いぞ」

「え、あ、はい」


 イザーク様から差し出された木の皿に、私用にと少し薄く切られた肉が何枚かが乗っている。この焼けた肉の様子だけを見たら、少し厚めの豚ロース肉だ。シンプルに塩焼きにしただけのもの。アレがコレになるのか……。


「ん? もう少し細かくしたほうがいいか?」

「あ、いえ、だ、大丈夫です」


 ナイフを取り出して切ろうとしてくれたのを押しとどめ、私は自分のナイフで肉を刺す。


「あむっ」


 ……旨い! なんじゃこりゃ!?

 臭みもないし、ジューシーで柔らかい。ちゃんと火が通っているのに、この歯切れのよさはなんなんだ。

 美味でございますっ! と、叫びたくなる。


「どうだ。旨いだろ?」


 ニッコリと微笑むイザーク様に、思い切りブンブンと頭を振って肯定する。

 アレがコレなのか!?

 夢中で食べている私の横で、イザーク様はニコニコしている。


「かなりの量があるから、解体したヤツは報奨の一つとして、もらっていこう」


 その言葉に、やっぱり、ブンブンと頭を上下に振る。

 アレがコレになるのを考えるのを、完全に放棄し、アレの解体は人任せにしようと、心に決めた瞬間であった。

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