【双】パメラに恋は難しい(2)

 そして、今、学園の卒業パーティのダンスタイム。普段の制服姿ではなく、パーティに合うようにそれぞれにドレスアップしていて、会場内は煌びやか。賑やかな音楽が奏でられていたところでの、いきなりの婚約破棄騒動である。

 おかげで、パーティの雰囲気は最悪である。

 目の前で、同級生の侯爵子息が、婚約者相手に「婚約破棄だ!」と怒鳴っている。なんだ、この茶番劇。

 

 ――ここにも、違った意味での馬鹿がいる。


 昨今、学園内でこの手のトラブルが多く見受けられていて、若干食傷気味。何やら、人気の恋愛小説があるそうで、それにあやかって、頑張る(?)子女が増えているそうだ。少しでもまともなら、そんなものに振り回されることもないだろうに。

 私の周囲に集まったご令嬢たちが、ひそひそと噂話を繰り広げる。やれ、平民相手に、だの、騙されている、だの、苛められていたのは相手の方、だの。


 学園では、それこそ、勉学以外に貴族にとって人脈づくりという目的もある。私もニコラスも、そういうものは気にしなくていい、と両親から言われていたので、本当に仲のいい友人しかいない。それこそ、身分関係なく。冒険者として活動していたら、そんなことを気にしてなどいられないから。

 しかし、多くの貴族の子息・令嬢たちはそうはいかないようで、目に見えて将来の派閥闘争の準備に余念がなかった。しかし、渦中の侯爵子息は、そんな派閥形成には興味がないのか、まさに平民の女子生徒を抱きかかえながら、自分の親の派閥の中でも、強力な後ろ盾になるはずだった辺境伯令嬢に婚約破棄をぶちかましている。

 一応、私も辺境伯令嬢ではあるが、うちは西側の要。彼女の方は帝国と接している地方でもある南の要だ。見た目はまさに深窓のご令嬢という方で、侯爵子息が言うような虐めをするようなタイプではない。しかし、大人しく相手の言うことを聞くタイプでもないのを、私は知っている。


「ホント、恋は盲目っていうけど、アレも相当馬鹿よね」


 私の言葉に、隣に立つニコラスも苦笑いだ。

 なんか滔々としゃべっている侯爵子息、完全に自分に酔っている。そんな子息を見つめる平民の娘も、キラキラと目を輝かせている。


 ――本当に馬鹿だわ。


「ええ、ご勝手に。父には私の方から伝えておきますわ……侯爵には、ご自身でお伝えくださいませ」


 彼女の可憐な声に似合わない、強気な言葉に、ニヤリとしてしまう。こういうのを見るたびに思うのだ。


 ――恋なんか落ちても、愚かしいだけだわ


 颯爽と会場を後にする辺境伯令嬢に視線が集中する。それには多くの賞賛が含まれている。残された侯爵子息たちは、自分たちの世界に浸っていて周囲が見えていないようだ。


「終わったね」


 ニコラスの呆れた声に、私もクスリと笑う。


「あんな風に馬鹿になるくらいだったら、恋なんてしたくないわね」

「え、何言ってるの、パメラ」

「何よ。ニコラスにはいるの? そういう人」

「今はいないけどさ。ドキドキくらいはしたいじゃん」

「何、その乙女な発言」


 お互いに恋愛話なんてしたことはなかったし、それらしい相手にも気付いたことはなかったけれど、『今は』発言に、いたの!? と内心驚いてしまう。


「まぁ、俺たちは政略結婚考えないでいい分、自力で相手を探さないとさ」


 そう言って会場を見渡すニコラスだけど、けして、そういう相手を探している目ではないのは、私でもわかる。


「このまま、冒険者続けていければいいじゃない」

「パメラ、それでも、俺が結婚して一緒にいけないことになることも考えとけよ」

「ふんっ、その時はその時でしょ」

「まったくもぉ」


 呆れたニコラスを残し、私に手を振る友人の元へと足を運ぶ。

 ほんと、恋なんて、くだらない。


               *  *  *


 友人たちと楽し気に話しているパメラを見て、苦笑いするニコラス。

 姉がなんだかんだいいながら、一番に憧れているのは、大恋愛の末結ばれた両親と兄夫婦なのだ、ということを彼は知っている。

 父は辺境伯と同時に、冒険者としても有名だし、兄は優れた美貌だけではなく、あちこち飛び回る父を補佐する優秀な跡継ぎでもある。そんな二人を見ていたら、理想も高くなるのは無理もない。


「まぁ、パメラより強いイイ男、というのがすでに難点なんだけどさ」


 子供の頃にパメラが宣言した結婚相手の理想像。

 それは、なかなかに難しい。

 相手がいなければ、自分がパメラの面倒をみなくちゃいけない、そんな未来しか見えないニコラスはげんなりする。大好きな姉ではあっても、それはそれ、これはこれ、なのである。

 いつか、パメラにもそんな相手が現れてくれたらいいなぁ、と切に願うニコラスなのであった。

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