おばちゃん(?)聖女 短編集
実川えむ
【双】パメラに恋は難しい(1)
私、パメラ・リンドベルの初恋は十歳の頃。父、エドワルド・リンドベルに連れられて初めて登城し、国王陛下との謁見の場で見た近衛騎士に恋をした。
近衛騎士の制服に身を包んだすらりとした肉体に、凛とした表情。まさに理想の『騎士』像そのもの。当然、名前も知らない。ただ、その姿に恋をしたのだ。
いつしか、自分も将来、近衛騎士になりたい、そう思うようになっていた。そう、自分が、である。
しかし、学園に通うようになり、それが無理なことを知ることになる。
近衛騎士は、女性でもなることはできる。王族の女性を護る騎士が必要だからだ。しかし、男性であれ、女性であれ、一族から一名しか選ばれない。当時、すでに兄のイザーク・リンドベルが見習いとして配属されていたから。現実は中々に厳しい。
その頃には、名も知らぬ近衛騎士への恋心は、近衛騎士への憧れと共に、すっかり消え去っていた。
しばらくして、兄、イザークの婚約破棄騒動が起こる。
婚約者だった子爵令嬢が家庭教師の男と駆け落ちをした、というのが原因だ。領から離れて何も知らなかった兄は、最初、わざわざ王都にまでやってきた子爵から、娘の幸せのために、と婚約無効を願われて、それを素直に受け入れようとしていたそうだ。
子爵令嬢が兄と会えなくて寂しさのあまり、よそ見をしてしまい、それが本気になった、という子爵からの説明に、仕方がない、などと言い出したのだ。実際、彼女と会う機会など年に一回か二回。手紙のやりとりだけだったらしい。そんな後ろめたさがある上に、一応、妹のように可愛がっていた。それで子爵令嬢の幸せになるのなら、と。
その場にオズワルドたちが同席していなかったら、すんなり、婚約無効になっていたかもしれない。
――馬鹿である。
ちゃんと調べもせず、先方の言うことをそのまま信じるなんて。
私も母も、あの子爵令嬢が成人したと同時に近隣の領都に遊びに行っては夜会に顔を出すようになったこと、婚約者の兄が王都にいるのをいいことに、多くの男性たちと関係を持った、と噂されるようになったことを知っていた。何せ、何を言わなくても、あちこちから噂話を伝えてくれる『友人』は多いのだ。
兄には伝えはしなかったものの、私は彼女に、母は子爵夫妻に、それとなく苦言を呈してはいた。これ以上は、してくれるなと。しかし、子爵夫妻にしてみれば年をとってから出来た一人娘だっただけに、厳しくできなかったのかもしれない。そして、ついには駆け落ち騒動である。
実際は、妊娠が発覚して、子爵が慌てて自領の片田舎に押し込めたのも知っている。相手は家庭教師かどうかも怪しい。さすがに、その責任を兄に押し付けるという、愚行を犯さなかったようだけど。
なんで、そんな女に罰も与えずに、婚約無効にしなくてはいけないのか。それが私と母の総意で、兄の意見など完全無視。
当然、こちらからの婚約破棄となった。慰謝料? 当然だ。
後々、その事実を知った兄が、呆然となった顔は、なかなかに見物ではあった。
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