第15話 王都最恐の存在

 装備を新調した夜、僕はアレンに一言断りを入れて夜間外出をした。


 ちょっと行きたいところがあるからアレンは先に寝てて。って言った時のアレンの顔はかなり微妙だった。怒ったような、軽蔑するような、なんかそんな感じの顔だ。えっちなお店には行かないよ?なんて思いつつも言葉をにごして部屋を出て、アレンに鍵を渡して別れた。


 僕が向かったのは、冒険者ギルドだ。


 夜間も一応は開いているけど、夜間の王都からの壁外への外出や入場には制限があるので夜間は基本的には暇だ。その為、有事の際に備えて数人の職員は詰めているが基本的に冒険者は居ない。

 そんな状態のギルドへと向かったのは、ギルドを預かる人物に会えないかなと思ってのことだった。


 昼間は見かけたことはない受付のお姉さんに話し掛けると身分証を見たお姉さんは何かを悟ったようだ。そして僕との短い会話の内容から一瞬顔をしかめ、奥へと消えて行った。「ギルドマスターいますか?」って質問はそんなに不味かっただろうか?まあ時間も時間だし不審がられても仕方ないかもしれないが、僕は一応世界を救う側の人間なんだけど?って、声を大にして言えない自分が惨めだから、そんなことは絶対に口にしないけど。


 十分ほどカウンターの前でボーッとしていると、お姉さんが二階から戻り隣に立つ。


「ご案内します」


 そう言って先導された先は、僕が目的地として勝手に定めていた扉だった。


「失礼します」


 そう言って開かれた扉を抜けると、値踏みするような鋭い視線が突き刺さった。

 扉の近くには応接セットのソファーやテーブルがある。そしてその奥に執務机がある。その椅子に腰掛け書類を手にしていた人物は眼光鋭く僕を見ていて、書類を持ったままな指先をクイクイっと動かした。


「御目通り、光栄です」

「召喚者のトオルだな。話は聞いている」


 まるで貴族様に対した時にような言葉を思わず使ってしまったのはギルマスが偉いから。じゃあない。単純に怖かったからだ。


 年齢は四〇歳前後だろうか?額は広く如何にも頑丈そうで、鼻筋は太く鼻も大きく、とにかくどこを見ても丈夫そうだ。体格も良く、椅子に座った状態でも騎士団長様と同等の偉丈夫いじょうぶであることが一目で分かる。あごも大きくて角ばっていて、僕から見て右の眉毛には傷痕があって半分から左右に別れている。その下で獰猛どうもうな光を宿した瞳が真っ直ぐに僕を捉えていて、まるでオーガと対面した時のようなプレッシャーを感じていた。


 第一印象の心の声は「怖えええ」だ。

 なんでこんな無謀なことをやろうと思ったんだと数分前の自分を殴り飛ばしに行きたい。そんなことを考えていると椅子に座っている人物が落ち着いた低い声で喉を鳴らした。


「それで?聞きたいこと、とは?」


 遠慮の一切ない値踏みする鋭い目が突き刺さる。その眼光に恐怖を覚え、僕はすくみ上がりながら言葉を返した。


「はい!失礼しました!こんな時間にお邪魔して申し訳ありませんでした!日を改めてお伺いさせて頂きます!」


 自分でもビックリするくらい流暢りゅうちょうな言葉が口から出た。人間追い詰められれば以外となんでもできるものだ。若干暴走気味だけど、失礼はなかったはずだと思いたい。

 ゼンマイ仕掛けのブリキのオモチャが如く振り返ろうとした僕にお声が掛かる。


「待て」

「はいっ!待たせて頂きます!」

「……そう緊張するな、楽にしろ」

「ハッ」


 そう返した直後には軍人のように足を肩幅に開き休めのポーズを取る。そんな僕の様子を観察していたギルドマスターはいぶかしむような顔を見せた後に「フン」と鼻で笑った。

 書類を置き、椅子の背に体重をもたれさせ、一度目頭を指で挟むようにして押さえると口を開く。


「カレンのこと、だな?」

「ハッ。そうであります!」

「フフッ、おかしな奴だな。なんだその態度は?」

「お気になさらず!」

「そうか。まあいい。では、カレンからの伝言を伝える」


 そう言われ、言葉の意味を何度も頭の中で繰り返した。思い違いや聞き間違いではなかったと思う。


「………伝言?で、ありますか?」

「ああ。もし、お前が自分のことを聞きに来たら、その時は伝えて欲しいと、そう言われてな。俺は辞めとけと、お前の情報をある程度伝えたが、アイツはそれでも構わないと言って、お前に伝言を残した」

「……は、はあ?」


 はっきり言って予想外もいいところだ。

 僕が今日ここに来たのはカレンさんのことではあったけど、どんなことをしている人なのか、それが聞けたらいいな程度の軽い気持ちでやって来たんだ。

 ギルドで再会した時、カレンさんがこの部屋から出てくるのを見たから、ギルドマスターとは仲が良いのだろうと、ただそれだけの推察からここに足を運んだにすぎない。

 僕にたくされた伝言があろうなんて、完全に予想の範疇はんちゅうを超えていた。いったいどんな伝言だろうかと固唾かたずを呑んでギルマスの言葉を待った。


「カレンは、ある魔物を追っている。いや、追い続けていると言った方がいいか」


 そこで言葉を切ったギルドマスターは扉の近くに控えていた女性に給仕きゅうじを頼み、僕にはソファーに座れと促す。ササッと移動してギルマスが座った後に腰を落とすと、ギルマスは腕を組みながら笑った。


「召喚者というのは、皆こんな感じなのか?」

「どうでしょうか?大きく違わないと思いますが」

「フフッ。新米騎士より騎士らしいではないか。若い頃を思い出す」

「……騎士で、あらせられ」

「いや。俺は違うが馴染みがそうでな。先輩騎士にいびられているアイツを見てはよく笑ったものだ。ま、今では団長などと呼ばれ尊敬されているようだが…」


 気になる話をしていたギルマスの視線が僕の頭上を超えて奥へと向けられる。足音が後方より近付き、若干呆れたような顔をしているお姉さんが温かい飲み物を配膳してから口を開いた。


「ジル様のことを悪く言うのは辞めて下さい」

「誰も悪くは言ってないだろう?」

「いいえ。言う直前でしたわ」

「むぅ」


 悪戯を叱られた子供もような感じで唸るギルマス。そんなギルマスを一瞥いちべつしたお姉さんはツンとした様子で下がった。


「……アイツの話はまた今度な」

「あ、はい。楽しみにしてます」


 小声でそう言った後、ニヤリと笑ったギルマスはわざとらしく咳払いしてから本題に入った。


 カレンさんが追っている魔物の正体は、本来なら聖獣としてあがめられるような存在だったモノらしい。

 それがどういった理由かは不明だが、本来なら人を守護するような存在の聖獣が人を襲うようになり、本来なら根城となる地域から動かないはずの聖獣が各地を転々とするようになり、その過程で時折り人里を襲っては被害をもたらしている。そうだ。

 カレンさんはその聖獣をつ為に移動をしている最中だったようで、今も聖獣の情報を頼りにさらに移動している状態になる。


 伝言は、簡単に言えば、可能であれば僕に手伝って欲しいという内容だった。

 とはいえ、はい行きますと簡単には返事はできない。


 まず聖獣は、当たり前な話だがとにかく強い。

 そして、依頼がない限り僕は王都を無断では出れない。

 そして、依頼が仮にあったとしてもだ、この国から出ることは叶わず、それをやれば誰か、それこそ居残り組の誰かに多大な迷惑を掛けることになるだろう。

 その上、僕は弱い。召喚組の中では、レベルこそ最低ではないものの、とにかくダントツで弱い。


 そんな僕がカレンさんの手助けをできるのかと問われば答えはいなだ。足手纏いになることは確実で、何かできたとしてもこの身をていした囮役くらいが関の山だ。だが、そんなことはカレンさんが望んでないことは分かる。分けるけど、何故その役目が僕なのかはわからない。


 一瞬、僕が攻撃系スキルを使える人間だと勘違いしているから。と考えたけど、目の前のギルドマスターは僕のことを話したと言っていた。そして辞めておけと忠告もした。それってつまり、カレンさんが期待するような能力は僕には何も無いと伝えた。ということになる。


 それでも尚、僕に手伝って欲しいと伝言まで残したカレンさんの真意は今の僕には分からない。分からないが、今のカレンさんは、助けが必要な状況だっていうことだけは理解できた。


 たった、ほんの数時間の付き合いだ。

 多少は身の上を話したけど、それも掻い摘んでの内容だし、特に仲良くなれたという感覚というか感触はない。

 そんな顔見知りとか知り合い程度の僕に助けを求める理由。そんな理由が、仮に僕の中にあるとすればだ……


 秘められた、可能性?

 或いは、良い人そうに見えて実は悪い人で僕を囮か生贄のような何かに使うため?


 導き出された答えは二つ。前者はそうであればいいなと希望的観測から生まれた願いに近いものかもしれない。逆に後者は、なさそうでいて、それでいてありそうで、なんとも微妙な答えだ。


 僕に何かしらの特殊性が有るとすればだ、それは召喚者だってことになる。まあ、限りなくゼロに近い可能性の中に、カレンさんが僕に一目惚れした。なんてこともあるかなーって一瞬考えたけど、それは無いだろう。


 暫く考えてみたけど、結局何一つとして分からなかったので、ここは先人せんじんの意見を聞いてみることにした。


「何故、私なのでしょうか?」

「……アイツはな。いや、それはお前自身が、知りたいと思うなら後を追えばいいだけの話か」


 何かを言い掛けて勝手に完結したギルドマスター様は一変。視線を上げると僕に強烈な視線を向けながらこう言った。


「カレンの捜索。そんな依頼を、俺から出してやってもいい」


 冷汗が背中をしたたり落ちる。一瞬にして汗が噴き出すほどに強烈な目力だった。そんな視線を受けてちびりそうになったが必死に考えた。

 カレンさんが多少なりと心配なのも事実。けれど、僕一人では決められないし、即答はどうしてもできなかった。


「………行きたい気持ちもあります。けど、今すぐには」


 何とかそう返すと、ギルドマスター様は「今のお前では死ぬのがオチだ」と言った。


「だが、可能性がないこともない」

「それは、強くなれるのでしょか?」

「なれる、とも言い切れないが、やる価値は……なさそうだがなぁ」


 期待させるような言葉を口にしておいて一変。胡散臭そうな視線を向け失礼なことを口走ったギルマスを見て、がっくりと項垂れるしかない。


「まあ。腐っても召喚者だ。何かしらのギフトやスキルが後天的に発現はつげんすることはあるだろう。そうだ、最近ステータスは確認したか?」

「……いえ。二週間ほど前に確認してからは一度も」

「そうか。おい」


 ギルマスは扉の方へと向かって声を掛けた。しかし、誰も居なかったのか返事はなかった。


「エリーズ。鑑定具を頼む」

「………」


 首だけで振り返って見るとツンとした表情のお姉さんがギルマスの言葉を完全無視して先程と同じ場所に立っていた。それを見て、乾き掛けていた汗が若干戻ってくるのを感じる。


「エ、エリーズ?あの、鑑定具を…」

「ご自身でお持ちになれば宜しいのでは?」


 ようやく反応を返したかと思えば、その声音は震え上がりそうなほどに冷たいものだった。そんな言葉を受けて強面で屈強な男が口を開いた。


「……あ、はい。持って来るのも面倒なのでコイツを連れて行きます」

「お茶にも手を出さないで、本当に用意する必要が——」

「——いま頂こうかと。な?」

「ハッ!頂いております!」


 震える手で、かちゃかちゃと音を立てながら温くなってしまったお茶お慌てて飲み干し、御礼の言葉を上げつつ腰を上げる。ソーサーに乗せたカップを手に扉付近に控えていた女性に恐る恐る近付くと、手に持ったままだったプレートを差し出してくれたので、恭しくお辞儀をしながらソーサーをそっとプレートの上に乗せる。


 先程以上の冷汗が止まらない。このギルドで逆らってはいけないのはギルドマスターなんかじゃなかったんだ。


 そんな事実を胸に抱きつつ、女性から逃げるように部屋を抜け出した僕らは階段を静かに駆け降りそのまま外に出ると深呼吸を何度か繰り返した。


「怖えだろ?」

「はい。先程は死を覚悟しました」

「フッ。俺は常に感じている。………今もだ」


 その言葉にビクリと肩を震わせて恐る恐る背後を見ると、そこには冷徹な微笑をたたえたお姉さんが音もなく立っていた。笑っているが、全然笑ってない声が鼓膜と心を震わせた。


「ふふ。何か言いましたか?」

「い、いえっ!」

「いやあ、少し呑みにでも行くか?」

「ハッ!お供させて頂きます!」

「よし、一杯だけだぞ!俺は忙しいからな!」

「ハッ!」



◆◇



 蛇に睨まれた蛙の気持ちを明確に理解し、ギルドマスターと少し仲良くなれたなと思った後、僕は返事を保留したまま宿へと戻った。


 ノックするが扉は開かない。仕方ないな、合鍵を借りに行くかと動き出した直後、背後で微かな音が聞こえて立ち止まった。


「……ごめん、起こしました?」


 扉の隙間からこちらを見ていたアレンに声を掛け、そこから姿を消したアレンを追うように部屋に入り、服を着替えてベッドに潜り込む。そうして、自分を落ち着かせてから、口を開いた。


「アレンさん」

「……なに?」

「もし、誰か、親しい人に助けを求められたとして、それで遠くにいかないといけなくなったとしたら、アレンさんはどうしますか?」

「……助けに行く」

「……ですよね」

「……どうかしたんですか?」

「実は…」


 僕はギルドマスターから聞いた話を、そっくりそのままアレンに伝えた。


「聖獣……」

「アレンさんは見たことは?」

「ないですよ。話は、聞いたことがありますけど」

「どんな?」

「それは、えっと…」


 それは、母が子に読み聞かせる類いの話だった。


 人間を脅かす悪いモノ。広がり続ける暗い森。逃げまどう人々。

 そこに、美しい獣が現れる。

 何処いずこより現れたその獣が森に降り立つと、暗い森に光が入り、悪いモノは散り散りに逃げ出した。

 森に光が入り、そして豊かになり、沢山の動植物が森に溢れる。

 住む場所を追われ続けていた人々は定住し、森に住う美しい獣を聖獣として崇め、そして代々だいだいまつるようになった。

 それから暫く平和な時代が続いたが、そこに、黒い影が差し始めた。

 炎の灯りで揺れ動く人の形をしたシルエット。無数の黒い影が森を突き進む。その向かう先には純白の美しい獣の姿があった。

 長い平和は人々に、繁栄と富を齎した。が、その弊害へいがいとして起こったのが、聖獣と呼ばれている不思議な存在に対する畏怖いふの感情と、間違った内容の伝承だった。

 その時代の人々は聖獣をしょくせば永遠の命が齎されると信じていた。そうして次々と聖獣に挑みかかり、多くの人々が命を落とした。

 聖獣はやがてその土地を離れ、別の地へと移った。

 そうして残された人々は、また、悪いモノに追われる日々が始まった。


 日本でも、悪いことをしたら鬼が出るとか、お化けが出るとか、子供に言い聞かせることはある。

 この話もその類いなのだろう。基本的に悪いことをすれば良くないことが起こるという教訓話なのだが、日本の御話とは違って事実を元にした話にも思える。


 現代日本で、仮に事実として、こんなことがあったんだと掲示板にこの話を書き込んだとすればだ、きっとこんな書き込みがあるだろう。

 一方的に人間が悪くて草。人間弱すぎワロタ。自滅乙。

 まあ、そんなことはさておき。


 アレンがすまう地域も、聖獣の生息地として有名な土地だそうだ。

 驚いたことに聖獣が存在すると、その地域一帯には魔物が生まれなくなるそうだ。空気は常に清浄で、魔物を自然的に発生させるとされる瘴気しょうきも一切発生しない。

 アレンが住んでいた地域は魔物とは無縁の地域だったそうだ。だが、アレンは聖獣を見たことはない。その存在も御伽噺おとぎばなしのようなものだと思っているそうだ。けれど、アレンの住んでいた村にはこんな言い伝えがあった。


 村の長老曰く、森の奥へは絶対に行ってはならぬ。

 曰く、聖獣様を見てもこちらか近付いてはならぬ。

 曰く、聖獣様の身体の一部をみつけても絶対に持ち帰ってはならぬ。

 曰く、但し、聖獣様が自ら目の前に現れた時は、その御身体に触れさせてもらいなさい。


 触れてどうなるか。それは誰も知らないらしい。良いことがあると信じられているだけで、何がどうなるといった伝承は残っていないそうだ。


 アレンが住んでいた地域の他にも聖獣が住うとされる地域は幾つかある。これはギルドマスターからの情報なので信頼して良い情報だ。

 アレンの出身地と別の地域がどうなのかは定かではないが、仮に同じような伝承があったと仮定すると、過去に聖獣と接触した人が居ても不思議ではない。


 というか、それが原因だろうと思う。

 何の原因かというと、カレンさんが追っている聖獣の身に起こった変化だ。


 何らかの、悪いことが起こった。その何かは考えても分からないが、何かが起こったことだけは確かだろう。そして、その何かを齎したのは、残念ながら人間である可能性が非常に高い。というか、そうとしか思えない。


 魔物が居ない地域。瘴気と呼ばれる黒い霧のようなモノも発生しない地域。そんな土地で、魔物や瘴気以外で、聖獣を脅かす存在があるとすればだ、それは人間だけだ。


 聖獣の異常化。

 毒か呪いか、或いは特殊なスキルか魔法か、はたまた別の何かか。


 ギルドマスターから聞いた話によると、聖獣が消えた土地は、今は瘴気も発生し魔物も生まれているそうだ。そう聞くと、聖獣が瘴気を吸い取るような存在にも思えるが、その結果正気を失ったと考えるのは少し無理がある。何せ、長い歴史の中で聖獣が暴走したという記録は今のところ一件しか起こってないからだ。その一件がカレンさんの追っている聖獣になる。なので、この点から考えると、聖獣は置いて効果を発揮する消臭剤というよりは、置くことによって一定エリアに広がるバリアーのようなモノに近いと僕は思った。


 吸収や浄化機能ではなく、遮断だ。

 聖獣の住う地域には外から魔物が侵入してくるようなこともないと聞くので、この仮定は間違っていないと思う。

 と、すればだ。やはり、聖獣に近づくことができるのは人間だけな訳で、聖獣を狂わせたのは人間だという答えに行き着く。


 カレンさんが僕を選んだ理由は、この辺から少し見えてきた。

 仮にだ、カレンさんが相手の能力を鑑定できる力か、或いは魔導具を持っていたとする。そして、それを僕に使用し、僕のギフトの情報を見たとする、それを見たカレンさんは、これは、もしかするとなんらかの解決方法に繋がるかもしれない。と考えたとする。


 僕のギフトは目利き(呪物特化)orz。


 この仮定が的を得ていたとすればだ、聖獣が呪われている可能性が高いといえる。

 呪いなら任せろ!とはまったく言えない状態なので、仮に呪いだったとしても僕には何もできない。何もできないので行っても足手纏いだ。だから行かない。とは、残念ながら割り切れない自分がいる。


 僕にできることと言えば、ギルドマスターが言ったように強くなるということだろう。とはいえ、後天的にギフトを授かる可能性は限りなくゼロに近いと言っても過言ではないモノだ。


 カレンさんのことは心配だが、今はどうすることもできない。まずは足手纏いにはならないほどには強くなり、そして呪いを見極める力くらいは手に入れておかないといけない。


 そんな新たな決意というか目標を胸に秘めた僕は、王都を発つ決意をした。

 心苦しがアレンも道連れだ。恨むなら恨んでくれたっていい。


「アレンさん」

「なに?」

「アレンさんの装備が完成したら、僕は王都を発って、迷宮都市ダイスに向かいます」

「ダンジョンですか⁉︎」


 かなり驚いた声だった。そりゃあそうだ。何せアレンの実家を往復するくらいには離れている場所なのだから。それでも、心を鬼にしてついて来いと僕は言わなくてはならない。


「はい。実は…」

「凄いです!一生に一度は行ってたいと思ってたんですよ!」

「……あ、そう」

「はい!楽しみですね!では早く寝て早速明日からでも色々と準備しないと!おやすみなさい!」

「………あ、おやすみ、なさいです」


 あれー?なんか想像してた反応とは真逆だったー。

 おかしいなー。もっとこう、王都からは離れたくないです!これ以上実家が遠くなっては困ります!的な反応があると思ったんだけどなー。


 まあいいか。アレンが嬉しそうにしてたし、元々連れては行く予定だったのだから。

 とはいえ、アレンの問題は解決したとしてもだ。僕にはまだまだ大きな問題が二つも残されている。その問題の一つはギルドマスターが解決してくれるそうだが、最後の問題は……


 いいや。考えるの面倒くせえし、今日はもう寝よう。うん。

 若干お酒も入って、思考はフワフワとしているし。

 考えても仕方ないって言い換えることもできるけど、きっと上手く行くよ。うん、そうだよきっと。

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