第8話 ご褒美タイム
夏樹もおじさんもいない。
この部屋には俺と春香さんだけ。
何も聞こえない静かな部屋の中。ドアも閉められているので外の音もよほど大きくない限りは入ってこない。
つまり。
完全完璧に二人きりということだ。
「ご褒美、ですか?」
赤点は取ってしまった。
けれど、留年は回避できた。
だから、ご褒美。
本来の目的は留年回避。だけど春香さんとの約束は赤点を取らないということ。
なのに、ご褒美?
ご褒美って、ご褒美?
「そ。まあ、赤点は取っちゃったけど、本来の目的は留年しないことだったし。それ自体はクリアしたしね」
そんなに大きな声ではない。
だけど、他に音がないからかやけに耳に届いてくる。
「だから」
春香さんは上に羽織っていたパーカーを脱ぐ。すると白く細い肩が露出された。
春香さんがパーカーの下に着ていたのはキャミソールだった。
薄い生地のキャミソールは服を着ているものの体のラインがダイレクトに浮き出る。
本来、こんな格好で人前に出ることはないだろう。下着ではないものの、それに近い服装だと思う。
かつて、こんな格好の女性を見たことはない。もちろんゲームでは何度も見たが現実世界で見ることはなかった。
だって。
女の子との接点なんてなかったから。
そんな俺に、こんな機会が訪れるとは、多分本気で思ってはいなかった。
「ご褒美。圭一くんのしたいこと、してもいいよ?」
そう言って、春香さんは胸を前に突き出す。ぺたりと座った太ももの上に両手を置き、両腕に挟まれた胸はその存在を主張する。
挟まれた瞬間に胸が形をぐにゃりと変える。それだけであの物体がどれだけ柔らかいのか想像できる。
俺は今からあれを触るのか?
触ることができるのか。触ってもいいのか?
本当に?
頭の中が余計な思考でぐちゃぐちゃになる。
春香さんはじっと目を瞑って俺を待っている。その表情が少し険しかったりするのが気になるが、この機会を逃す手はない。
ごくり、と生唾を飲み込む音がいやに大きく聞こえる。
春香さんの方からも喉が鳴る音がする。きっと彼女も緊張しているのだろう。
だが。
俺は触る。
でなければ、ここまでしてくれた春香さんにも失礼だろうから。
なんて言い訳をするが、結局触りたいだけだ。
だってこんなに綺麗な人の、こんなに大きな胸に、手を伸ばせば触れることができるんだから。
「圭一、くん?」
春香さんが薄目を開けてこちらの様子を伺ってくる。
いつまで経っても触れてこない俺のことが気になったのか。俺はそれが催促されているように感じ、思わず手を伸ばしてしまう。
それを見た春香さんはぴくりと反応して、再び目を閉じ、ただ俺の手を待つ。
「さ、触りますよ」
本当にいいのだろうか。
いけないことをしているのではないだろうか。
こんなことをしてしまってもいいのだろうか。
俺の中の罪悪感が今になっても働いてしまう。俺はそれを必死に抑え込む。
「……」
俺の問いかけに春香さんの返事はなかった。
ただ、避けようともせず俺の手を待っているその行動を、俺の問いかけに対する肯定だと判断し、俺は伸ばしていた手を春香さんに近づける。
そして。
ついに俺の手のひらが春香さんの胸へと到達する。
最初に触れたのは指先だった。
ぽよん、と胸が揺れる。それと同時に春香さんの体がぴくりと反応する。
俺の手が触れたことに気づき体が反応してしまったのだろう。
指先が触れた後、俺は手のひらを広げてその胸を包み込むように触れる。
しかしその大きな胸を俺の手ごときが包み込むことなどできない。
指を動かすと胸はふにゃりと形を変える。その柔らかさに俺は言葉を失った。
「……っ」
ぴくっと、春香さんの肩が揺れる。
俺はどうするべきか、と悩んだがここまで来て止まれるような自制心は残念ながら持ち合わせていない。
何より。
手のひらで感じる柔らかいこの幸せな感触を、もっと味わっていたいと本能が言っている。
俺はもう片方の手も胸元へ伸ばす。
こうして俺の両手が春香さんの胸を捕らえる。その手を動かし、柔らかさを感じることで幸せな気持ちが溢れてくる。
「……んっ」
春香さんの吐息が漏れる。
それが妙に艶めかしくて、俺の中の自制心をさらに壊してしまう。
だけど、胸ってこんなにも柔らかいものなのか。まるで崩れない豆腐というか、スライムというか。
ていうか。
普通は胸の柔らかさは直接は伝わらないだろう。
だって。
下着は、どうしたの?
ブラって胸の形を崩さないために着けるものだろ? ということはそれなりに固いというか、形がしっかりしてるはずなのに、それがない気がする。
でも、下着はどうしたんですか? って聞くのはデリカシーないよな。多分だけど、着けないでいてくれた、んだろうし。
春香さんは今日、こうなることを想定して覚悟していて、だから着けていなかった。
のかもしれない。
「ん……っぁ」
その時。
手のひらに固いものを感じた。
さっきまではなかった、中央辺りに突然できた固い何か、尖ったもの。それを手のひらで転がした瞬間に、春香さんが吐息を漏らす。
この感触ってやっぱり……。
「こ」
俺の興奮ゲージが頂点に達しようとしていた時、春香さんが短い言葉を漏らした。
そして次の瞬間。
「こ、ここまで!」
そう言って、一歩下がって俺との距離を取る。
頬は真っ赤で、瞳は潤んでいる。息は少し荒く、恥ずかしがるその表情は大人のものだった。
「あ、はい」
「今回は、もともと目標を達成していたわけじゃなかったからね。だから、これはご褒美といっても完璧なご褒美ではなくて、むしろお試しというか、不完全なものだから、これくらいにしておかないといけないと思うので!」
つらつらと、早口に春香さんはそう言葉を綴った。
その通りなので俺は何も言えない。
あの幸せな感触が離れてしまったことは残念でしかないが、そもそもが夢のような話だったのだから、あんな思いをさせてもらえただけで感謝すべきだ。
「もっと、いろんなことがしたいなら、ちゃんと結果を出してから、ね?」
潤んだ瞳が俺をじっと見つめてくる。
その言葉が何を意味するのか、分からないほどバカではない。
「えっと、それって」
次のチャンスがあるということ、だよな?
そして、そのチャンスをものにすることができれば、もしかすると胸を触る以上のことも……?
「二年生になって、次のテスト……時間があるときにまた勉強見てあげる」
「本当ですか!?」
俺の驚きに、春香さんはこくりと無言で頷いた。
ちょっと待てよ。
もし、今回のテストで俺が赤点なかったりしていたら、今日どこまで許されたんだろう。
「また、触りたかったら……頑張っていい点取ることだね」
「いい点取れば、触らせてもらえるということですか?」
俺が確認の意味を込めて聞くと、春香さんはむうっと顔をしかめて口を噤む。
そのだんまりは、つまり肯定ということだろう。
「頑張ります! 頑張って、今度こそ本当のご褒美を貰いたいです!」
こんな不純な動機で勉強すること自体間違っているのだろう。
でも、モチベーションの持ち方は人それぞれだし、それで結果が残せるのならそれはいいことだろう?
「うん。頑張ってね」
こうして。
俺の短い夢のような時間は終わりを告げた。
だけど、終わったことでまた始まることもある。
次の目標を胸に掲げ、俺は明日からまた頑張ろうと思う。
テストで結果を出せばえっちなお願いをきいてくれるというのだから、頑張れないわけがない。
これが、俺と春香さんの赤点回避大作戦である。
テストで結果を出せばえっちなお願いを聞いてくれるって本当ですか? ~友達のお姉さんと始める赤点回避大作戦~ 白玉ぜんざい @hu__go
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