第十五章 灯台の光
ポッペンはぴっぴがヨルシュマイサーに会った事があるのを信じないわけではなかった。しかし、二千三百年前の人物と夢の中以外で会える方法を想像できるはずもなかった。二人は灯台の前まで来ると、竃の所で夕飯のニンニクスープを作っている灯台守の後ろ姿が目に入る。
「じゃぁ、わしは中でメカジキをさばいとりますんで。」
そういうとポッペンは灯台の中に入って行った。ぴっぴは灯台守の隣に行くとおいしそうなニンニクスープを覗き込み、ランタンの灯りで煙草に火をつけている灯台守に話しかける。
「おじさん、きょう、ぴっぴはヨルシュマイサのえをみました。」
煙草を吸っていた灯台守はフーッと大きく煙を吹き出すと灰を左手に持っていた空き缶の中にトントンと落とす。
「…そうカ。」
どうしてもヨルシュマイサーの事が知りたかった。
「おじさんは、ヨルシュマイサーとはなしていませんでしたか。」
灯台守はちらりとぴっぴの顔を見ると再び煙草の煙を吸い込む。そしてフーと大きく煙を吹くとこう答えた。
「ヨルシュマイサーは、片目に眼帯をしていただろウ?」
それを聞いたぴっぴはヨルシュマイサーの顔を想像する。
「そうです。」
灯台守はニンニクスープをかき混ぜながら話す。
「ヨルシュマイサーは片目が見えなかっタ。それはレンズをカットする者にとって大きな障害だったはずダ。正確なカット位置を決めるのに不自由だからナ。」
ぴっぴはじっと灯台守の言葉を聞いている。
「ヨルシュマイサーはなぜおまえを職人に選んだとおもウ?」
何故存在しないはずのヨルシュマイサーとの経緯を灯台守が知っているのか。
「…え?」
灯台からポッペンが出て来る。
「ぴっぴさん、ちょっと手伝ってくだっしぇ。メカジキでかすぎてまな板にのらねんでさ。」
ぴっぴは話の続きが聞きたかったがポッペンの方へ行く事にする。灯台に入るとメカジキは床にごろんと転がっていた。ぴっぴとポッペンはダイニングテーブルにゴミ袋を切り開いたものをガムテープで留める。
「せーの、よいしょ!」
ポッペンの号令で一気に床に落ちていたメカジキをゴミ袋の上に乗せる。ぴっぴはヨルシュマイサーが初めてレンズの造り方を教えてくれた日の事を思い出していた。そしてメカジキの口先から順にしっぽまでをなぞってみせる。
「ぴっぴさんどうですかい、でかいでしょう?」
ぴっぴは手をタオルで拭くと、そそくさと引き出しからペリカンの硝子ペンとインクを持ち出しメカジキを描いてみせた。
「こうです。」
自信満々で描いた絵をポッペンに見せる。ぴっぴの描いたメカジキの目は胴体から飛び出して空中に二つ浮かんでいる。
「うわははは、ぴっぴさん、こりゃ宇宙人ですよ。いや、宇宙魚ですよ。メカジキの目は、こんなところについてやすない。」
ポッペンは腹を抱えて笑った。ぴっぴもポッペンがあまりに大笑いするので、つられて久しぶりに笑った。灯台の小さなT字型の煙突から煙が立ち上る。灯台守はじっくり煮込んだニンニクスープが入った鍋を携え、灯台に入って行く。夜の帳が降りる。
「いやぁぴっぴさん、今日も楽しかった。また遊びにきます。」
ポッペンはメカジキを捌き、ぴっぴが夕ご飯に灯台守と食べれるようにハーブたっぷりのカルパッチョにしてくれた。
「ポッペンさん、おきをつけて。カルパッチョどうもありがとうございます。」
「なんの。」
灯台の扉に手をかけると、ポッペンは後ろにいるぴっぴが気になり振り返る。カジキのお頭をつんつんとつついていた。カジキの絵一つ満足に描けないのに、なぜ灯台のレンズだけはあのように精巧に造る事が出来るのか。そもそも、ぴっぴに自分はどう見えているのか。
「ぴっぴさん!」
突然の大きな声にびくっとしたぴっぴはお頭をつつくのを止めポッペンを見た。
「…はい?」
子供のような顔で返事をするぴっぴを見て、ポッペンはやはり気が咎めた。
「あ…いえ…あの、今度うちに子供が産まれるんす。わしゃぴっぴさんのように賢い子に育ってもらいたいんで名前をピッペンにしようと思うんです。ピッペンとは、わしのポッペンという名前と合わせての事です。いいですか。」
ぴっぴは突然の申し出に動揺する。
「ややそんな…。」
それから目を伏せてそれ以上何も言おうとしない。そして机に人差し指をついてぐるぐるとお頭の絵を描くように動かした。ポッペンは下がり眉毛でぴっぴに笑いかける。
「じゃぁ決まり。ピッペンにしますね。」
そういうと返事も聞かずポッペンはドアを勢いよく引き、帰って行った。
翌朝は快晴。いつものように灯台守が入り口を開けると、竃の前にぴっぴがしゃがんでいた。
「おイ。」
灯台守が声をかけると振り返る。
「きょうはぴっぴがごはんをつくります。」
そういうとにっこり微笑み再び竃に向かう。灯台守は意表を突かれ頭を掻きながら部屋に戻る。朝食の魚は黒こげだったがぴっぴは満足そうにバケットを頬張る。そんな姿を灯台守はチラチラと見てはコーヒーを飲んでいる。朝食後てきぱきと皿洗いを済ませると、サンドウィッチと水筒を準備する。灯台守はやる事がないので新聞を広げてちょこちょこと走り回るぴっぴの様子を伺っている。
「それではいってきます。」
ドスン!
灯台守が返事をする間もなく、弾むような声で勢いよく灯台を飛び出して行った。灯台守は
「がハガハがハハハ!」
と腹を抱えて笑った。なんだか無性におかしかった。
工房に着いたぴっぴは以前と同じようにゴーグルと手袋、それからマスクを着用する。
「早くレンズ削れよ。こんなとこまでわざわざ来ているんだから。」
相変わらず無礼な物言いをする観光客には目もくれず、ぴっぴはカットするレンズの前まで来ると静かに目を閉じた。そして初めてヨルシュマイサーと工房に来た日のように、レンズの上をゆっくりと手で触れた。
三月、灯台守の携帯にはオロッシャ船からの連絡が入る。
「こちらECMA三号、ECMA三号、時化の影響で到着時刻が大幅に遅れる。午後二十時ファロス港に到着する。灯台の灯入れを怠らぬよう願います。」
灯台守はがってんだと意気込んで灯台のメンテナンスに入る。
夕方六時、灯台に灯りが入る。ポッペンは港で水銀灯を灯し明日の漁の準備をしている。網にごみが絡まってしまったため、取り除くのに苦労していた。頭上には光の筋が遠くまで伸びている。そこへ仲間の漁師が通りかかった。
「おーいポッペン、今日到着のオロッシャ船を知っているか。」
ポッペンは振り返り、蟹股で岸辺からこちらを覗き込んでいる仲間を見上げた。
「うんにゃ、しらねぇけんど。なんがあったんか。」
仲間はポッペンに近づくと得意そうに話す。
「今日到着のオロッシャ製の船はECMA三号ってゆってな、これが最新鋭なんだべす。」
「ほう、どげなもんか。」
目を輝かせる。
「これまでのコンテナ船はディーゼルで動いとっただ?だどもディーゼルで四六時中エンジンを稼働させとっちゃ燃料も機械も直ぐにだめになっちまうってことになっただ。」
ポッペンはなるほどという顔をする。
「だどもディーゼルに替わるあんなでかい船を動かす動力があるってか?」
すると仲間はこれまた得意そうに
「そこがミソだん。これが驚くでね。」
ポッペンは仲間の大きく横に開いた口を見る。
「ほう」
仲間はちらりとポッペンを見ると顔をぐいっと覗き込む。そして何も言わず、そのまま含み笑いを浮かべ黙っている。
「おい…?」
ポッペンが話し始めたとほぼ同時に、仲間はそれまでよりも更に大きな声で喋り始めた。
「なんとそれに替わるのはカッター式の帆船だってんだ。」
さすがにポッペンは驚いた。
「カッター?そんなもん、大昔の帆船でねぇか!それであんなでかい船が動くだか?」
仲間は予想どおりのポッペンの驚きように更に饒舌に語る。
「もちろん今まで通りディーゼルエンジンは使うだよ。けれど年がら年中タービンをぐるぐるやっている必要はねぇわけだ。風がうまい具合に吹いていればそれを利用して進めばええ。その間エンジンを休めておける。燃料も安く済むし煙もでねぇでエコだって話だん。」
ポッペンは想像できなかった。あの巨大な船に帆がつくとなればちょっとやそっとの大きさではないだろう。一体ECMA三号がどんな船なのか。楽しみな反面、恐ろしくもあった。
その頃ぴっぴはいつも通り仕事を終え、灯台に帰ってきた。
「ただいまです。」
灯台守は夕飯の支度を終え、先に済ませていた。ぴっぴは灯台守を探す。テラスで新しい双眼鏡を覗きながら携帯電話で誰かと話している。
「姿が見えたゾ、あれだナ。よし、灯台の照明に向かって一直線に進んでこイ。そうダ、その光ダ。」
「おしごとちゅうです。」
一人でご飯を食べる事にした。テーブル上の琺瑯の蓋を開けると塩焼きにしたザルゴエビが大量に積み上げられている。ぴっぴは一つを取るとかぶりつく。
「あいたたたた…。」
ぴっぴの歯茎にザルゴエビの触角が突き刺さった。
「こやつはエビですね…。」
ぶつぶつ言いながらばりばりと殻をめくり食べる。目を瞑りながらよく噛むと、エビの旨味が染みだしてくる。そしてもぐもぐしながらぱちりと目を開け、お気に入りの紅茶を入れようと立ち上がった。紅茶の箱を開けスプーンを突っ込むといい香りがする。ところがうまく掬えない。こんどは箱を傾け中にある紅茶を振りながらスプーン乗せる。やっとのことで葉を集めると丁度一杯分しかなく、しょぼくれた顔をする。
「ちょっとよくばってたくさんのんじゃいました…。つぎのふねがくるまでのめないんですね…。」
しょんぼりしながらズズズと最後の紅茶を味わう。そして次々とエビを剥いては食べて行く。突如、テラスにいた灯台守が大声をあげる。
「おイ!あれはなんダ!」
ぴっぴはエビをもしゃもしゃ食べながら声の方へ顔を向ける。港で網を整頓していたポッペンと仲間も空を見上げる。
「あれは…灯台の光か…?」
ポッペンと仲間の顔が薄ぼんやりと光に照らされている。
ぴっぴはザルゴエビを全てたいらげると、お腹いっぱいの様子で床にひっくり返った。
船は港の入り口、赤と白の灯台辺りまで来ると、巨大な埠頭ほどもある三角形の帆を携え、低い音の汽笛を三回鳴らした。ぴっぴはその音を聞くと、貨物船が港に到着した事に気づく。
船はゆっくりと埠頭に近づく。巨大なECMA三号は、スピードのコントロールがうまく行かない。タグボートが子供のようにニ隻船体を押しながらきっちりと停泊位置まで押しやっている。普段は薄暗い港がだが灯台の灯りを巨大船の帆に投影しているため、ぼうっと光っている。無線室のライトがパッパッと赤く光る。満腹でひっくり返っているぴっぴの耳にECMA三号の船長の声が届く。
「ECMA三号停泊作業、完了しました。」
ぴっぴは上半身だけむっくりと起き上がると無線室の方へ目をやる。
一方港のECMA三号からは続々と乗組員が降りてくる。船橋にいた乗組員達も甲板へ出てくると皆振り返り、自分たちがさっきまで乗っていた船の帆を見上げる。そして顔を見合わせ驚きの表情を浮かべる。波止場で観ているポッペンも仲間の船乗りも皆口を開け帆を見ている。そうこうしている間に灯台の明かりは消え、辺りは元の暗闇になった。しんと静まり返り、皆暗くなった帆を見つめている。
「なんだ?!灯台の故障カ?」
慌てて灯台守はテラスの階段を駆け上がる。静かな波と風の音だけが聞こえる。沖の方で旅客線の鳴らす小さな汽笛の音がする。皆暗闇の中でじっと帆を見つめている。ポッペンは帆を見たまま呟く。
「どうなってるんだ…」
すると帆は再び微かに輝き始めた。半色に輝く帆には小さく強く輝く幾つかの点が見える。それはまるで星座のようにあらゆる色を含み輝いている。やがて帆の中央上部に大きな円を描き旋回している幾つかの黒い影が浮かび上がる。徐々に形を現すその影は翼を持った海鵜のようだ。やがて下方から緋色に輝きはじめ朝焼けが全体を染めて行く。中央には端から真っ直ぐ伸びる桟橋が見えてきた。先ほどの星も形を帯びて来ると地面から生えている据え付けの街灯だとわかる。明るくなると沖の方角から砂の上を走る船が帰って来る。煙突から煙を微かに出し、船に乗っている漁師は七、八人で網を綺麗に畳んでいる。桟橋は大きなメガホンを持った男と荷車や台車を持った人で賑わい、船が着くのを待っている。船が桟橋に着くと直ぐに魚を降ろし、桟橋上で競りが始まる。そうして次々と船が沖の方から帰って来る。朝日は昇り続け、漁師の船は魚を降ろし終わると船着き場まで戻る。桟橋にいる人は競り落とした魚を荷車に積むと急いでそれを押しながら港を後にする。一隻の船が魚を降ろし終わるとこちらに目を向け、大きく手を振った。ポッペンだった。
「あれは…ぴっぴさんの見ている光景だ。」
仲間の船乗りはその言葉に驚きポッペンを見る。ぴっぴは港が大変な事になっているとは露知らず、ドラム缶風呂から上がり、濡れた髪の毛を厚手のタオルでごしごしと拭いている。
「あーきょうはなんだかつかれたなぁ。」
独り言を呟きながらしっかり髪を拭く。すると、入り口の方で何者かが駈けて来る音がする。ぴっぴは足音に気づくと扉の方へと近づく。ドアノブを開けようとした瞬間、ドアは勢いよく外側に開いた。
「ぴっぴさん、あんたの見ているもの、灯台が映しとるぞ。」
ポッペンは興奮した様子でぴっぴに話した。
「ポッペンさん、こんなおそくにどうしたんです。」
恍けた返事にポッペンと仲間はぴっぴの両腕を掴みテラスまで連れて行く。
「ちょちょ…なんですか?」
テラスではその映像を見つめる灯台守の姿があった。
「あれだよぴっぴさん、あれはあんたが見ているものなんだろう?」
ポッペンが映像を指差す。帆には、ぴっぴがタケノコを茹でている映像が映されている。そして陽炎の向こうからヨルシュマイサーが現れる。
「あの人、あれがぴっぴさんがゆうとったヨルシュマイサーだべ?レンズ工房に貼ってある人、確かにわたしにもみえとっとよ?」
ぴっぴはちらっとポッペンを見る。乾かしていた髪が風に靡りる。仲間の漁師はごくりと唾を飲み込む。
「ポッペンさんよくおぼえてくださっていますね。ヨルシュマイサーがみえるんですか?」
ポッペンは目を輝かせる。
「そんだよ。わたしにも、みんなにも見えているんだ?ぴっぴさんの見ている世界が。」
ぴっぴはじっと帆の方角を見つめている。ポッペンは誰にも理解されなかったぴっぴの悲しみがなくなり、ここファロスがぴっぴにとって本当の故郷になると思った。
「みなさんぴっぴのめがみえないので、そうしてはげましてくださっているのですね。ぴっぴなら、だいじょうぶです。」
ぴっぴは微笑を浮かべ、しっかりとした様子で帆を見つめている。
「いや、そうでなくて本当に見えているんだ?ぴっぴさんの見ているもんが。」
ポッペンは必死に映像を指差す。ぴっぴが観ている世界が皆にも見えている事をどうしても伝えたい。しかしぴっぴは船から目を離すと手すりに凭れ掛かる。
「うう、さぶい。それにしてもあのふねはおおきいですね。そろそろひえてきました。ぴっぴはなかにはいります。」
洗い髪はすっかり冷たくなってしまったので、裸足のままぺちぺちと部屋に戻って行った。
「そんな…」
ポッペンは目を大きく見開き、泣きだしそうな目でぴっぴの後ろ姿を見る。すぐ後ろから灯台守も見つめていた。
部屋に入ったぴっぴはドライヤーの風をゴウゴウと髪に当てている。ぴっぴは乾かしながら、静かに目を閉じた。
翌日の午後。ポッペンは灯台に来ている。
「灯台守、わたしはなんとかすてぴっぴさんにも帆の映像をみてもらいてぇ。ぴっぴさんは自分の目が見えない事、ずいぶん気にされとったった?みんなにも同じ映像が見えるとなれば、ぴっぴさんもファロスを故郷だとおもってくれるら?」
灯台守は黙ったまま双眼鏡のレンズにエタノールをかけ掃除をしている。
「おい灯台守、聞いてるか?」
磨き上げた双眼鏡を覗き、そのままポッペンの方に向く。
「ふざけてるのか?倍率一〇倍だぞ?こんな近くちゃなんもみえんだろぉ?」
双眼鏡を外すと、じろりとポッペンの目を見る。
「俺はそもそもぴっぴの目が見えねぇと思ってねェ。」
それを聞くとポッペンもムキになる。
「ぴっぴさんが自分でそういってんだから信じてあげねぇっとさぁ?わたしだって信じられねぇけんど、信じてあげねぇとぴっぴさんだってずっと孤独なまんまだろぉ。」
「誰が孤独なんだァ。ぴっぴは灯台に住んでるンダ?おめェ、適当な事いってんじャネェッ。」
そう言ってポッペンの胸ぐらを掴むと負けじとポッペンも拳を振り上げる。
ドンドンドン!
何者かが灯台のドアを叩く。灯台守はそちらに目をやると再度ポッペンの顔を見つめ、手を離した。ポッペンも拳を振り下ろしぐにゃぐにゃになったティーシャツの首元を両手で直す。扉を開けるとこの辺りでは見かけないジーンズにダウンジャケットを着た男が立っていた。
「はじめまして、私FINテレビのプロデューサーをしております。」
灯台守は面倒くさそうな顔をする。
「テレビィ?なんだ受信料カ。」
男は緊張した表情を少し緩める。
「本日伺ったのは受信料についてではありません。昨晩こちらの港にECMA三号という帆船が入港しましたね。」
それを聞くとポッペンも入口の所までやってくる。
「ええ、確かに。それがどうされたんす?」
ポッペンは灯台守を差し置いて話す。
「実は新型の船が入港するという事で昨晩入港の様子を中継していたのですが、帆に映像が映っていましたよね。その事についてお伺い出来ないかと思いまして。」
灯台守は扉を閉めようとする。
「ちょちょちょ…」
ポッペンが必死で扉をおさえる。
「なんダ、はなすことなんてネェ!」
灯台守の機嫌が悪くなる。
「いいじゃないけ、ちょっとお話するだけだかん、ささ、お入りになってくだしぇ。」
「俺はなんもせんかんナ、おまえ勝手にはなセ。」
灯台守は螺旋階段を昇りテラスへと行ってしまった。それからポッペンはテレビ局のプロデューサーに説明をする。
その日の夜、ニュースで灯台が紹介されると世界中から問い合わせが殺到した。
「だから俺は嫌だったんだョ。ポッペンあいツ、覚えていやがレ。」
一日中灯台の電話は鳴りっぱなしだ。
「おじさんなんでリンリンずっと言っているんですか。」
ぴっぴは何が起こっているのかわからない。
「もうこんなもン!」
とうとう灯台守は苛立ちのあまり電話線を引きちぎってしまった。
帆船の映像は瞬く間に世界中に広まり、その後アカデミックシティより研究者が何人も灯台を訪れた。灯台のレンズに映像が映る真相を確かめようとしたが誰にもその謎は解けなかった。これに目をつけた市はECMA三号の来航に併せて映画祭の開催を企画する。ぴっぴの意思とは無関係に幻の映像観賞はツアーに組み込まれ、町おこしに利用される事になった。
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