第2話 小さな不幸②
キーンコーンカーンコーン
きりーつ、れーい。ありがとうございましたー。
ガヤガヤガヤガヤ…
ネエネエ、キイタキイタ?レイノトオリマッテー
マジー?チョーコワーイ!
「うぁッパー…ゼェゼェ…ギリギリセーフ!」
少年は息切れしながらも教室に滑り込んだ。その姿はすさまじかったがクラスの人間は話に夢中で特に気にも掛けなかった。
「セーフじゃないぞ、独(ひとり)。だいぶ遅れて…あー良い社長出勤だな、おつかれさん。」
息を整えている独に気づきフラフラと長身の学生が近づいた。
「ゼェ…へ?チャイム、今鳴ってt」
「ばーか、ありゃ終業のベルだ。時計ちゃんと見ろよ、つーかスマホ見ればいいじゃねえか。」
「スマホはなー…忘れちまった!ま、どーせ昨日寝るまで弄ってたからどのみち充電ねーか。しっかし授業終わってたなんて気づかなんだ、今日は大厄日だなはははは。」
乾いた笑いをしながら独は教室の一番奥の席、いわゆる番長席に座った。カバンを机の横にかけ一息ついてから教室を見渡して長身の少年に質問をした。
「なーシンバ。今日なんかあんのか?」
「なんもない気がするがどうかしたのか?」
シンバ【新羽 張斗(にいばね はると)の苗字を音読みにしたあだ名 以降は新羽で統一】は一瞬自身の記憶を振り返るようなしぐさをして独に聞き返した。
「いやーいつもだったらクラスの女子共は俺の遅刻になんか言ってくれんのによーぉ、なんか話に夢中だしガッコ来た時校門にセンコーじゃなくて警備員がいたってのも気がかりだぜ。あ、分かっちまった!今日だれか来んだろ。俺を無視できるピカッチョイイ奴だ…ジャスチンだ!ジュァースティーンあたりが来ちまうと予想するな。」
胸ポケットから櫛を取り出し髪を整えだした独を横目に新羽は飲み物を取り出しながら答えた。
「いーや残念ながらジャスティンが来ることはないし今日一日お前が話題に上がることもない。今この学校騒がせてんのは例のあれだよ、通り魔。」
「でーた、もういいんだよその話。つーか通り魔なんてだいぶ前から話題だろ、それに魚田なんてヤンキーとか荒くれもん多いから関連性とかなさそーな気がするぜ。特番ばっか組まれて飽き飽きしてんだよ、わりーけどサ。」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら独は椅子を後ろにかたむけた。
「まあ一時期どのチャンネル回してもこの話題で持ちきりだったからな。それでも不思議だよな、死人が出ない通り魔ってよ。」
そう言い飲み物を口に含み一息ついた後、シンバは独の方を向きこう告げた。
「今回の通り魔の被害者、うちの生徒らしい。」
その言葉を聞いた瞬間、独は傾けた椅子から転げ落ちた。そして起き上がりホコリを払いながら何事も無かったように話を続けた。
「まじかぁ!それはなんつーか…可哀そうにな。そしたら、待てよ。例の通り魔の被害者っちゅーことは今学校に来てるってことか。刺されて怖い思いしてんのに追い打ちで話題にされて周囲の目が刺さっちまったってわけだ。」
「そのことなんだが少し違くてだな、刺された奴は来てない。」
「はぁ?んじゃ何でここまで盛りあがってんだ、異常だろ。」
独は眉をひそめ睨めつけるように新羽を見る。それに対して新羽はまだ話してる途中だろと言わんばかりのため息をついた後話を戻した。
「通り魔の被害者と一緒にいたやつがいるんだよ、そいつにみんな質問しまくって大盛り上がりってわけ。」
「はーん、まぁこういうのって一週間もしないうちにほとぼりが冷めてくるからな。あ、でも今度は被害者の方が戻ってくんのか、そんじゃ一ヶ月は持ちそうだな。」
「そのことなんだがよ、ちょっと気になったことがあってだな。ほれ、これみてみr」
ガラララララ オーイ ホームルームハジメルゾーセキニツケー
エー!ソレッテホントナノー!?コチョウシスギジャナーイ? キャハハハハハハハハハハ!!
オーイ!ウルサイゾー!キョウハコウチョウカラハナシガアルカラスワッテロ!
ハーーーイ
先生が入ってきて静まった教室で会話が途切れたがシンバは手を口に当て小さい声でこう言った。
「気になる記事見つけたんだ。ゆっくり話したいからよ、昼に屋上な。」
シンバの妙なドヤ顔に少し呆れながらも独は窓を見た。
先程まで降っていた雨は止み太陽が雲から覗いている。
ほかの人間にはありふれた景色かもしれないが、彼には不幸の中でのちょっとした希望の光に見えた。
しかし、彼はまだ知らない!光というものは必ず影を生み出すということを!希望というものは誰かや何かの絶望の影が付いてくるということを!
もう一度言おう!この物語は影に関わった人間の戦いを書いた戦闘記である!
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