第8話
3人が別の場所で同じ時間に同じ言葉を言い…銀河には恭介、健三には蛍が身体をブルっと震わせ、懸念を抱いている様な表情で聞いた。
「銀河…」
「白坂…」
「「本当なの(か)…?」」
それに対して銀河は深刻な顔でそのまま頷き、健三は涙が溢れそうになっている顔を蛍に見せ、そのまま伏せながらそれぞれ別の言葉を続ける…
銀河の方では、
「…この戦いが始まってからここまで倒してきた魔物達は王都周辺に生息されているのが確認されていて、俺達も戦い慣れているだろ?これまで戦った中で一番強かったのも世界で考えると中の下ぐらいの部類に入るものだし、大した怪我もなかった…」
「そ、そうだな?」
そう恭介が少し曖昧な返しに対し、銀河は沈んだような声色で更に返した。
「でも、さっき感じたオーラはそんなものじゃない…多分だけど、俺達にとって最大級の敵になるレベルだと思う…!!」
「ッ…!!」
それを聞いた恭介はゴクリと音がするほどに大きく息を呑み、銀河の見ていた方向へと二人で走り出した。
…“第二魔専”の陣地にいる白坂は、すぐそばにいる向井に声を震わせながら言った。
「…あれははっきり言って災害だよ。勇者である天ヶ崎でも勝率が低いと思う…」
健三は自分の頭に爪を立てて髪の毛を掻き乱し、目に溜めていた涙をポロポロと溢してしまう。
「あんなにも恐怖感を覚える視線を放てる生物と闘ったら、皆死んでしまうよぉ…!?」
「ッ…!!白坂!」
完全に壊れそうになる健三を見て、何もせずにいられなくなった蛍は震える彼の身体を落ち着かせる様に抱き、片手で背中を擦りながら言った。
「大丈夫…じゃないかもしれないけど、やるしかないの。だって、私達が安全に元の世界へ帰るにはここを絶対に守らないといけないんだから」
擦り続けている間、彼女は擦っていない手で持っていた弓をグッと力強く握っていた。
だが、健三は彼女のその言葉を聞いた上で深く蹲ってしまい、それから全く音を立てなくなってしまった。
「……もう」
その反応に嫌気がさし、蛍は無理矢理白坂の頭の両端を押さえ顔を上げさせ、彼がその状況に困惑している間に額に強烈なデコピンを炸裂させる。それを食らった白坂はその衝撃に負け、勢いよく後頭部を高台の縁にぶつけ倒れてしまうが、痛みからの声を出すことはなかった。そこからすぐに頭を擦りながら身体を起こした健三の眉間をなぞりながら蛍は言う。
「あのさ…あなたが自分で言ったこと忘れたの?『俺が次に放つ矢を魔術起動座標にし、俺の合図と共に発動しろ』…そう言ったからには、最後まできっちりと自分の仕事をしてもらうから」
「わ、わかったよ!!…」
声を震わせながらそう返す健三の目には、目から光が消えたように見える、笑顔の蛍が写っていた。彼の返事を聞き、再び真剣な表情に戻った蛍はすぐに立ち上がり、高台の下にいるまとめ役に声を掛けた。
「よし…すみません」
「どうかなさいましたか、ムカイ殿?」
「私はこれから、“第一魔専”の方に向かいますので、白坂に何かあった場合はよろしくお願いします」
「了解しました…!」
そう言うと蛍は高台から綺麗に地面へと着地し、“第一魔専”の陣地へと走って行った。未だ不安そうな表情をしている健三を置いて…そして、その様子を土で出来た柱の上から見ている少女が一人―
―少し遡り…戦場の真ん中である方向を向いたまま笑っていた響だったが、突然と自分の周りに浮いている黄土色の球体を見てから地面を指さして言った。
「グノーム、全体を見渡せる位置まで地面を上げて!」
その言葉に反応してだろう。響を中心に直径3mの円柱状に地面が数m上へと盛り上がり、その上から額に手の側面を当てて青の球体から出てきた水越しに戦場全体を見渡す。
「おー、みんな頑張ってねぇ……お?」
響はある人物を見つけ、少し驚いた表情をしてから緑の球体を口元に置いて、笑顔でその人物に喋りかけた。
「おーい!蛍ちーん!!」
「…ッ!!、桜木さん!」
その人物とは“第一魔専”に向かって走っている向井である。
返事が返ってくると、響は黄土色の球体に頼み、盛り上がった足場を元に戻すように崩壊させると同時に、緑の球体が発生させた風に乗って彼女のすぐ近くまで移動した。そこに少し息を荒くした蛍が近寄ってくると、自分の唇に人差し指を当てながら、響は彼女に話し掛ける。
「どうしたの蛍ちん?確か“第二魔専”と一緒のとこだった筈だよね?もしかしてあっちに構えてる“第一魔専”がピンチ…」
「違います…ですが白坂曰く、ヤバい奴がいるらしくて「白坂君も気づいたか!!」…!桜木さんも気づいたの!?」
「うん、馬鹿でかいオーラを感じたの~」
蛍は響が笑顔で反応したことに驚きながらも、これから自分達がしようとしていることを、周りでうざったらしくダブルピースをしている響に説明しだす。
「…実はこれから、白坂の放つ矢を座標にして“第二魔専”全体で一斉に魔術を発動させるつもりです。ですが、相手は得体の知れない化け物だというなら追撃部隊が必要だと思った為、私は現在、“第一魔専”の方に追撃の要請と、その際の座標用の矢の担当をする為に移動しています」
そう言うと響はピタリと止まって少し考えこみ、何かを決めたのか自分のポケットから二枚の青いお札を取り出し、片方を蛍の手に渡し、もう片方を“第二魔専”の白坂がいるであろう高台を向いて…
「そおぉ…れッ!!」
緑の球体が出す赤の球体の火の熱を吸収した旋風に乗せて砲弾のような速さで飛ばした。
飛ばした札が綺麗に高台の上に乗るのを確認すると、蛍は響に質問し、それに響は得意げに返す。
「このお札は何ですか?」
「ふっふーん…それは私がこの世界の技術を用いて開発した体内魔力不要!桜木 響先生作、“自然式魔術特別回線通信札”なのだよ~!!」
響のあまりにもうざく感じるそのドヤ顔を見て、蛍は少しだけ苦い表情をするが、自分の額を親指周辺に当たるように軽く叩き、質問を続ける。
「…それで、この札を何故に私へ…?片方を白坂のいる方へ飛ばしたってことは、もしかして私と彼の意思疎通の為?」
「ん~ッ!!…半分正解!」
響は身体をプルプルと左右に小さく震わせてから、後ろから前へ横に腕を回しながら指で「パチンッ!」と綺麗な音を鳴らし、回した勢いで「おととと…」と声を漏らしながらよろめき、それを向井は急いで支えに行く。響の体勢が元に戻ると、少し身体同士を間をあけてから向井は更に聞いた。
「半分正解とは…?」
「そう、もう半分の答えは……私が今からその化け物と近接戦闘しに行くからだよッ!!」
「え…えぇッ!?」
胸を叩いて再びドヤ顔をキメる響に対し、向井は慌てふためきながら彼女の両肩を掴んで頭を勢いよく揺らす。
「桜木さん何言ってるの!?ねぇ死ぬの?あなた死にに行く気なの!?」
「いやー、響様は簡単には死にませんよー!!それにね…」
響は蛍の振動の影響で少し身体を震わせながらも、横目にある方向を見ながら言った。
「とある大馬鹿者二人…いや三人か。私と同じことをしようとしているやつもいるようだし、それなら最強後衛兼中衛であるこの!!桜木 響がカバーに言ってあげなきゃぁ…ねッ!!」
そう言ってウィンクした響を見て冷静になったのか、蛍は呆れた表情をしながら掴んでいた手を離し、自分の髪の毛をポリポリと掻いた。
「…わかりました。でも…絶ェっっっ対に、死なないでくださいよ…!私達はみんな揃って、生きて元の世界に帰るんですから!!」
「OK、遠距離からの援護は頼むから、近接は私達に任せなさいな!!」
そんなやり取りを終え、響は風に乗って激戦区へと戻っていく。蛍は無事に地面に着地するまで見送ろうかとも思ったが響の実力から考えて、すぐにまた“第一魔専”へと走り出した。そうしている間にも、自分隊の元に脅威は近付いているのだから…
(今はそんなことをしている場合じゃない…今できる最高のコンディションで攻撃できるようにして、全体の生存率を上げなきゃ…!!―
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