第7話


―王国軍最前線…まっすぐと向かってくる魔物達を、二人の剣を持った少年…銀河と恭介は声を掛け合いながら斬り伏せ走って行く。


「恭介しゃがんで!」

「おっ…けい!!」


 そう言って銀河は姿勢を低くした恭介の背中を足場にし、数10m上空へと飛んだ。それからすぐに魔物と王国軍兵士を見分け、持っている片手剣に魔力から生まれた炎を纏わせる。


―“三式剣”― 


 銀河はとても細く、そして斬れる炎の斬撃を一斉に魔物すべてに向けて放った。その斬撃は触れた魔物の全てを焼き、周りの草花を巻き込んでその一帯を禿げさせた…それを見た兵士達は、臆しながらも彼に向けて歓声を上げる。


「さ、流石は勇者様だぁ!!」

「ありがとうございます勇者様ァ!」


 だがその声を聴いた銀河は無言で、ゆらりと真下にある着地したが…その瞬間、更に上空から多数の氷の針が降り注ぎ、兵士達は頭を抱えて屈みこむ。だがそんなこと、彼らには想定済みの状況である。

 いち早く気付いた恭介は髪を逆立て、両手剣を構えたまま電気を纏わせて足で針の間を駆け巡る。それからすぐに恭介が地面に足を着けると氷はすべて粉雪のように小さく斬り刻まれ、ソレが落ちてくるより前に銀河の生み出した竜巻に乗って、生きている魔物の元へと飛ばされていった。

 それによって再び兵士達が同じような反応をしようとするが、銀河は剣に纏わせていた炎の威力を数十倍に上げながら冷たい目を彼らに向けながら言った。


「…兵士達よ、負傷者を背負って後ろに下がりなさい」


 その言葉を聞いた兵士達は皆、冷や汗をかきながら軍の後方へと下がっていった。それを最後まで見ずに、二人は一度剣を収める。


「…次行くぞ」

「了解」


 そう掛け合う二人は他の場所へと移動しようと進みだした…が、突然銀河が止まりだし、それに気づいて少し先まで行っていた恭介は銀河へと近づいて聞く。


「どうしたんだよ……銀河?」

「…マズいぞ。いや―



―同時刻…王国軍後衛部隊の1つ、“第二魔的術式専攻部隊”…通称“第二魔専”の構えている場所では、遠距離型魔力使用式攻撃術の使用を専門とする者の他に二人の弓を持った男女…銀河達のクラスメイトである白坂しらさか 健三けんぞう向井むかい ほたるが同位置の中心にある高台に上り、そこからそれぞれ一匹づつ4m程ある大型の豚の様な魔物に射線を合わせている。

 そうした中、“第二魔専”のまとめ役である男が二人に向かって高台の下から声を掛けた。


「シラサカ殿、ムカイ殿、こちらの準備は完了しました!」

「…カウント。3…2…1…」


 ボソボソと健三がカウントを言い終えた瞬間、二人は完全に同じ速度で同じ様に魔力を込めた矢を放ち、その二つの矢は全く違わぬ時間にそれぞれ狙っていた魔物の眉間に刺さった。それを目視しながら健三は矢から離したまま親指の立てられた右手を逆さまにした。


「Attack…!」


 それを確認した“第二魔専”にいる者達は身体から魔力を放出し、それぞれの矢に対して魔法陣を発動させた。すると上空から多数の雷撃が均等に二つの矢へと落ち、魔物に刺さった矢を中心に、半径3m程の円に近い形で地面が黒く焦げ燃える。だがそれだけではない…その周辺には数代前の王国軍が発明した緑化用散水装置が地面に埋まっており、ゆっくりと地割れの間から溢れ出た水によって出来た水溜まりを伝って周辺の魔物だけへと感電した。雷撃の落ちた地点のすぐ近くにいた魔物達は声も出せずに次々と倒れいき、健三は次の指示を下す。


「初撃成功…二回目まで最低で60秒…全員詠唱開始…!」


 それを聞いた他の者は準備を始め、健三本人は腰に備えていた望遠鏡を使って敵軍を残りの敵軍を見る。そこに映るのは先程感電死した魔物達の死骸と、そこから少し離れた位置で残っている魔物と戦う王国軍の兵達とクラスメイトだけ…そんな戦場を見ながら白坂は心の中で呟く。


(予想では大型で少数の魔物が敵側の主戦力とされていたが、それにしては脆すぎる…そして、この戦争における敵の大将はどんな存在なのだろうか…?)


 そう思いながら白坂は周りを見渡していくが、一瞬で状況は変わった。突然健三は腕を振るわせ、持っていた望遠鏡を落としてしまう。彼はとある視線に当てられ、恐怖してしまったのだ。それはとても強大な殺気と狂気を孕んだものであり、ほんの一瞬目が合っただけである筈なのに、魂を完全に呑まれしまうのでないかと思う程であった。


「…全員目標変更!!俺が次に放つ矢を魔術起動座標にし、俺の合図と共に発動しろ!!」


 そう言い終えると、尋常ではない量の汗をかき息を荒らげながら高台の上で座り込んだでしまった健三に蛍は顔を寄せ、汗を拭ってあげながら聞く。 


「どうしたの白坂…?あんなにはっきりとした口調で言うあなた、初めて見た…」


 自分の汗を拭っている蛍の手を震えている右手で下ろし、健三は敵軍の中心の奥側を指差しながら言った―



―またも同時刻…戦場を自由自在に駆け回る白き衣を纏った少女…響は数種類の球体状の何かをその身の近くに配置しており、近付く魔物達へとその球体を飛ばして迎撃しながら、傷を負った兵士達に向かって何かの入った瓶を投げ置いて行く。

 彼女の投げた瓶は普通のものより割れやすく、素材はゴムのように体に突き刺さりはしない素材になっており、傷を負った者の胸ら辺で瓶は落ちて割れ…その中身が人肌に触れると、その者の傷は癒えて塞がってゆく。それに対して癒された兵士達は響へと感謝の言葉を述べる。


「聖女ヒビキ様、ありがとうございます!!」

「聖女万歳!聖女万歳!!」


 彼らからの感謝の言葉に対して、響は鼻を高くしながら独り言を言いながら倒れた敵を足場にして移動し続ける。


「ふっふーん…!私ってやっぱり敬われるべきだよねぇ…え? 自意識過剰じゃないって!!もう……あ、やば!!」


 響が横から飛んできている炎の槍に気付いたのは、それが自分の身体に突き刺さるであろう約一秒前だった…が、彼女の元に槍が届くことはない。彼女の周りにあった赤い球体が炎の渦へと変わり、槍を完全に吸収したのだ。

 響は一度止まってから、額からタラりと垂れた汗を手の甲で拭き取り、元の状態に戻った球体の上部を両手で素早く撫でながら言った。


「サラマンダーありがとう~!!」


 撫でられた赤い球体は生き物のように跳ねだしたり、軽く響の身体にぶつかってねじるように回転する。そんなことをしている間に倒れていく兵士を見て、響は近くに存在する緑の球体と青の球体に向けて指示をする。


「シルフ、倒れている味方を一か所に集めて!ウィンディーネはシルフの作業が終わり次第、水の結界をお願い!」


 その言葉に反応したそれぞれの球体は響から離れ始めた。

 緑の球体が倒れている者に近付くと、その者を持ち上げる様に風が生まれだし、その後は一か所に全員が運ばれていく。周辺の倒れている者が全員移動されると、その少し上に現れた青の球体から噴き出る様に大量の水が発生し、その全てが重力を無視する形で半球のドームが生まれた。それを見届けた響は赤の球体同様に、二つの球体の上部をそれぞれに近い腕を使って高速で撫で始め、それに球体達も反応した。

 それを終え、響が次の場所へと移動しようとしたその時…彼女は何かを感じ取り、深刻そうな目つきと共に、口を二ッと笑わせる―



「「「マズいなんてレベルじゃないのがいるッ…!!」」」

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