最終話 なにもできないよ……
涙で文字がにじむ……そこには僕と会わない日々が書かれていた。
『12月3日
シンと会わない日が一週間過ぎたね。
仕事頑張ってるかな?私もシンを驚かせる事ができるといいんだけど。
今日ね、一人で買い物に行ってきたんだよ。とは言ってもすぐ近所だけどね。
シンを心配させないようになりたいな……頑張るね』
『12月7日
寒い日が続くね。風邪ひいたりしてないよね?
今日ね、シンへのプレゼント決めたよ!でも……コレを読む時にはシンにプレゼント渡した後だね。
シン、喜んでくれるかな?』
『12月10日
イヴまでまだ二週間もある……早く会いたい。
寂しいよ……シンは寂しくないのかな?……寂しいよね?
一日がすごく長い……一緒にいる時間はすぐに過ぎてしまうのにね。
私……シンの事……』
ヒロミ……僕も……
『12月11日
プレゼント、今日買ってきたよ。しかも一人で買ってきたんだよ!!すごいでしょ?ずいぶんと探したんだよ。
私は大丈夫だよ……もう大丈夫だよ。
シンがいない毎日の方がつらいよ……会えないのヤダよ』
『12月12日
私の気持ち、シンは気付いてないのかな?
約束した事だけど、何にも連絡もないなんて悲しい……電話くらいしてくれてもいいのに……
シンは私の事どう思ってるの?不安になる……顔が見れないだけなのに、不安ばかりがふくらんじゃう。
イヴの日は来てくれるんだよね?……早く会いたい』
『12月13日
お店の掃除してる時にシンのバイク見たよ。乗ってるのは全然違う人だったけどね。
ちょっとくらい顔だしてくれたらいいのに……仕事、大変なのかな?
京ちゃんが毎日来てくれるよ。そんなに心配しなくても大丈夫なのにね。みんなに心配かけてばかりだね』
『12月14日
シンと会うまで、まだ10日もある。長い長い毎日……
ごめんなさい。シンの部屋掃除してる時に、つい小説読んじゃった。でもFinってなってたからいいよね?完成してるんだもんね?
シンが小説書くなんて思ってもみなかったから、すごく楽しみだったんだ。
恋愛小説だったんだね、すごく驚いたよ。ラストはハッピーエンドが良かったなぁ……お話の中なんだもん、幸せなラストが私はいいなぁ
小説、書いてくれてるのかな?どんな話になるのか、今から楽しみ』
『12月15日
カレンダー見てはため息がでちゃうよ……イヴはまだまだ先なんだもん。
こんなんじゃ私には遠距離恋愛は絶対に無理だね。シンはどうなのかな?男の人は会えなくても平気なのかな?寂しくないのかな?』
『12月16日
シンの夢見ちゃった。夢の中なのにね、二人で眠ってるの……シンと一緒にいるとすごく安心できるんだよ。
私、私ね……シンが好き、大好きだよ。
きっと気付いてるよね?
シンが私のそばにいてくれてるのは……心配だからなのかな?』
『12月17日
やっとイヴまで一週間だよ。
「シンから連絡ないし、つまんない」って京ちゃんに言ったら
「ノロケは私がいないトコで言って」だって
「ノロケ」なのかなぁ…付き合ってなくても「ノロケ」になるのかな?
シンの気持ちが知りたい……好き?……それとも』
僕も好きだよ……大好きだよ。なんで伝えなかったんだろうね……
『12月18日
イヴが待ち遠しい……泊まっていけるのかな?
一緒に眠りたい……ずっとそばにいてほしい。
シン、大好き……大好きだよ。
私の事、小説に書いてほしい。ダメかな?私とシンが出会った時からの事を書いてほしい。記憶が戻ったらいいのに……シンとの思い出、教えてほしい。どんな事でもいいから正直に教えてほしい。
約束の小説、まだ書いてないなら、私とシンの物語を書いてほしい』
この翌日からの手紙はない。
僕はどうして、気持ちを伝えなかったんだろう?なんで離れてしまったんだろう?後悔ばかり……毎日きてれば……。
数日後、僕はマスターと京ちゃんと三人で墓前へと向かった。仏前に座る事は許してもらえなかったからだ。
現実味のない墓参りをすませる。涙もこぼれない……実感がわかないからだ。現実として受け入れたくなかった。
でも、彼女の死は間違いようのない事実だった。
心にポッカリと穴があく。そんな表現がピッタリだった。
仕事を習慣のようにこなし、友人の前では無理やり笑顔をつくる……なにもしたくなかった。
何処に行っても、彼女との思い出が……二人で話してた夢が……離れない。
どうして彼女ばかりがあんな目に遭わなくちゃいけない?何故?
『神はすべての民に平等です』
冗談はやめてくれ!じゃあ、なんでヒロミはあんなに苦しい思いを思いをしたんだ?
『前世の業が……』
ふざけるなよ!どんな悪い事をしてようが、現世は現世、前世なんか関係ないだろ!記憶もないような事で、それも証明する事も出来ないような事を理由に……苦しい思いするなんて間違ってる!!
『神』がいるなら教えてくれ!
ヒロミの罪はなんだ?
僕の罪はなんだ?
犯人は普通に暮らしてるじゃないか!
もしも、死んでから裁かれるというなら、前世の業など関係ないじゃないか!答えてくれよ!
食事をしても、吐き戻すだけ……身体が『生』を拒んでいた……笑う事が苦しい……泣く事も怒る事も苦しい『生』という全ての行為が苦痛だった。
……彼女はもういないのに……何故、僕は生きてるんだろう?
龍也さんの手により犯人が見つけられたのは、数ヶ月後の事だった。
目撃者もなく、犯人の証言しか証拠は存在しない。
被害者であるヒロミの証言もない……状況証拠だけだった。訴える事すらできない。彼女のお母さんはソレを望まなかった。死んでしまった娘の名誉を傷つけたくないとの事だった。
事実を知った巧に偶然絡んだ彼らが、正当防衛により「病院送り」になったという事実はあるが、彼らは現在もその罪を悔いる事なく、日常を過ごしている。
ヒロミとの出会いから十年の月日が流れました。
僕はようやく僕らの物語を書く事ができました。
今では、ヒロミのお母さんとも仲良くしてるよ。
ヒロミの事を忘れた事はないよ。仲間に、友人に支えられ、なんとか毎日を過ごしてる。
ヒロミの事をすべて話したのに、忘れる事ができないと言ってるのに……そんな僕を好きだと言ってくれる女性とも巡り会えました。
いつのまにか、そう言ってくれる彼女の事が、僕にとっても愛しい存在になりました。
……新しい一歩を踏み出してもいいかな?
決して忘れるための一歩じゃない……彼女は僕にこう言ってくれました。
「私は貴方との未来の一歩を踏み出すんじゃないよ。私は貴方と、貴方の中のヒロミさんとも未来の一歩を踏み出したいの」
ヒロミ……歩き始めてもいいかな?
……一緒に踏み出してくれるかな
Fin
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