第18話 夢……

 仕事と学校に向かうだけの生活に僕は戻った。

 しばらく会えないと伝えた時、ヒロミは今にも泣きそうな顔で僕を見つめた。でも、年末に向けて仕事が忙しいというのはわかってくれたようだった。


 僕は仕事と学校の友人との付き合いで時間を費やしていった。

 ヒロミの事をどうするのか?……その答えはだせないまま……いや、考える必要なんかなかった。

 時間が過ぎ、再会の日を待つだけだ。

 友人と遊びに行ったり、何故か恋愛相談にのったり……そんな日々が過ぎっていったある日のことだった。


 どこにいるんだろう?

 ……見た事もない風景が広がる。……なんだかぼんやりとした景色だった。

 夢なのか?……なんでだろう?何故か物悲しい気持ちで胸がいっぱいになる。

「シン……」

「!?……ヒロミ?」


 声のした方向に振り返るとヒロミの姿が見えた。ぼんやりした映像だ……やっぱり夢のようだ。

「ごめんね……」

 ヒロミはそう呟くと涙を流しながら姿を消した。

「ヒロミ!!」

 ……目が覚めた。

 時計に目をやる。出勤するにはずいぶんと早い時間だ。

 心のどこかで会いたいって思う気持ちが、あんな夢を見せたんだろうか?

 再会を約束したクリスマスイヴまでは1週間もない。

 連絡もしないでいるせいなんだろうか?

 会いたいな……素直にそう思った。やっぱり僕はヒロミが好きなんだ。自分の気持ちに改めて気付いた。

 ……プレゼント……何にしようかな。

 そんな事を考えながら僕は再び眠りについた。



 クリスマスイヴまで数日だというのに、プレゼントは決まらない。約束した小説も書けないままだった。

 どんなモノをプレゼントしたら、ヒロミは喜んでくれるんだろう?

 アクセサリー?オルゴール?マフラー?本?……。

 プレゼントの品が頭の中をグルグルと浮かんでは消えていく。

 考えてみるとプレゼントするの、あの日以来だ。

 苦い思い出がよみがえる。

 後悔の念でいっぱいになりそうになる。

 僕はソレを振り払うとプレゼントを探すためにバイクを走らせた。


 ……ペンダントなら、身につけてられるし……邪魔になったりしないよな。

 僕は以前雑誌で紹介されていた店へと向かった。

 どんな顔で受け取ってくれるんだろう?想像するだけで顔が緩むのが自分でもわかった。

 カップルと女性ばかりの店内をウロウロして、迷ったあげく、店員さんの意見を聞いてみる事にした。

「彼女へのプレゼントですか?」

 明るい笑顔で店員さんが聞いてくる。

「いや、まだそういうんじゃなくて」

 顔が赤くなるのがわかる。

「上手くいくといいですね」

 ニッコリと微笑まれて、急に恥ずかしくなってきた。

「こっちのにします」

 僕はシンプルなデザインのペンダントを指差した。

「包装だけでよろしいですか?メッセージカードも同封できますけど?」

「包装だけでいいです」

 ……こんなトコでそんなの書けないよ。

 小さな包みを受け取ると僕は家路についた。

 ヒロミ……喜んでくれるかな?



 あ?……同じ景色だ、夢というのがすぐにわかった。

 ヒロミ?……以前ヒロミがいた場所を探す……いた、ヒロミだ。

「ヒロミ、プレゼント買ってきたよ」

 夢だとわかってるのに話しかける。

「……」

 ヒロミは悲しそうにうつむき黙ったままだ。

「どうしたの?」

「……シン、ごめんね。……ごめん」

 問いかけに答える事なく、ヒロミは涙を流すばかりだ。そして、そのまま消えていった。


 同じ夢だ……何かあったのか?でも連絡は何もない。

 会えない時間が不安にさせてるだけなんだろうか?

 再会まで後二日……大丈夫、連絡がないんだもの、元気にしてる。……自分から言い出しておいて会いになんか行けない。

 でも……不安は消えず、眠れないまま僕は朝を迎えた。



 約束までの二日間、僕は同じ夢で目を覚まし、不安を胸に朝を迎えた。

 プレゼントを片手に急いでマスターの店へと向かった。

 夢の不安を振り払うように……。

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