第17話 二人の気持ち(後編)

 店を出た僕はバイクを押しながら京ちゃんの横を歩いた。

 龍也さんの影響もあって、あの後すぐに僕は原付の免許を取得していた。

「シン……」

「……何?」

「ヒロミの事なんだけど……どう思ってるの?」

「どうって?」

 その問いの意味に気付いてるのに、僕は聞きかえした。

「記憶は戻ってないけど……あの子はシンが好きなんだよ」

「……」

「嫌いなの?……それとも……あんな事があっ」

「関係ないよ!!……どんな事があろうとヒロミはヒロミだ!」

 つい声が大きくなる。

「ごめん」

「こっちこそ大きな声だしてごめん」

「嫌いなの?」

「……好きだよ。記憶なんか関係ない。……どんな事が起きてようと関係ない。ヒロミが好きだ」

「なら……なら何でソレを伝えないの?」

「ヒロミの『好き』は甘えや依存からきてるだけかもしれない。一緒にいる時間が増えれば勘違いだってする」

「そんな……見てたらわかるじゃない。今日だって私をシンが送るってだけで、あんなにヤキモチ妬いてたじゃない」

「お兄ちゃん取られたくない妹の感情だってそんなもんじゃないか?」

「……ヒロミの気持ちが信じれないの?」

「……どうするのがいいかがわからないんだよ」

 僕はバイクを停めると、公園のベンチを指差した。話が長くなりそうだったからだ。

 京ちゃんに少し待ってるように伝えると、僕は温かいミルクティーとお茶を買って戻った。

「京ちゃんはミルクティーで良かったよね?」

「ありがとう」

 僕は京ちゃんにミルクティーの缶を手渡すと隣りに腰を下ろした。

「僕はね、ヒロミが普通の生活ができるようになるまでは、気持ちは伝えない方がいいと思ってる」

「どうして?」

「復学すれば、同世代の友達も増える。……僕以外の男とだって遊ぶ機会ができてくるだろ?……そうなってもヒロミが僕の事を想ってくれてるなら……」

「放っておかれたら、優しくしてくれる男の方、向いちゃうかもしれないじゃない!シンはそれでもいいの?」

「今、僕が気持ちを伝えるのは……弱みにつけこむみたいで嫌なんだよ」

「シン……ヒロミが本気でアンタを好きだったらどうするの?甘えや依存なんかじゃなくて……今だって『好き』って言葉が言えないだけで、精一杯気持ちを伝えてるんじゃないの?」

「……そうかもしれない」

 頭の中でヒロミが僕に微笑みかける。

「それでも放っておくの?気持ちを無視するの?」

「……しばらく会わない時間を作ってみる。冬休みに入るまで離れてみるよ」

「離れてどうするの?」

「ゆっくり自分の気持ちを考えたい……その方がヒロミにとってもいいような気がするから……」

「明日はどうするの?」

「……約束したからね、ちゃんと行くさ。理由も無しに急に顔出さなくなったら心配するだろうしね。仕事もしばらく忙しいし……そう説明するよ」

「それでいいの?」

「1ヶ月もないしね。いろいろお互いが考えた方がいいと思うんだ」

「……わかった。その間は、できるだけ私も店に顔出すようにしとくよ」

「ごめんね」

「いいよ別に。ミルクティーごちそうさま」

「飲まないの?」

「寒いからカイロの代わりにしとく」

「じゃあ、家まで送るよ」

 僕らは立ち上がると公園を後にした。


「送ってくれて、ありがと。……ところでさ、シンって誰にでもこんな事するの?」

「うん?こんな事?」

「……なんでもないよ」

 京ちゃんは、そうつぶやくと小さく首を横に振った。

「じゃあね。京ちゃん、おやすみ」

「ホントにありがと。おやすみ」

 京ちゃんが家に入るのを見送ると、住宅街から出たところで僕はバイクのエンジンをかけた。



 僕はどうすべきなんだろう?

 同じ質問が何度も頭の中を駆け巡る。

 僕は……どうしたらいいんだろう?

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