第16話 二人の気持ち……(前編)

 その日は珍しく、京ちゃんも交えての四人での夕食となった。

 食事を終え、ヒロミの部屋で三人で話していた時のことだ。

 京ちゃんがいるというのもあって、ヒロミはいつもよりリラックスしているように見えた。


「シン、泊まってるんだって?」

 突然の質問だった、興味津々といった顔で京ちゃんが僕を見つめる。

「うん、たまにね……」

 ヒロミからどれだけの話を聞いているんだろ?

「本当にたまになの?」

「なんで?」

「ヒロミが嬉しそうにノロケてくれるんだけどさ。詳しい話は聞かせてくれないんだよね」

「京ちゃん!」

 顔を赤らめたヒロミが話を止めようとする。

 どうやら二人で寝てるって事は話してないようだ…当たり前の事か。

「京ちゃん、野暮な事は聞いちゃダメなんだぞぅ」

 ヒロミの代わりに冗談めかして僕が答えた。

「付き合ってるの?」

「……」

「……」

 僕とヒロミは顔を見合わせた。視線がぶつかる。

「……二人の世界に入らないでほしいんだけどさ」

「そんな事ないよ!」

「そんな事ないよ!」

 同じセリフが同時にこぼれた。

「独り身の受験生には、この場は毒だ……帰ろっと」

 茶化すように笑うと、京ちゃんは立ち上がった。

「ゆっくりしてけば、いいじゃんか」

「二人の邪魔しちゃ悪いしねぇ」

「そんな事ないよ……」

「ヒロミ、そんな顔しないの!もう、冗談だよ。でもね、遅いし、明日も朝から講習があるんだ。試験が終わればゆっくり遊びに来れるからさ、ね?」

 そう言って優しくヒロミに微笑みかける京ちゃんを見てると、まるでヒロミのお姉さんのようだ。同い年だというのに、なんだかおかしい。

「シン……なんでニヤニヤしてるの?」

 京ちゃんが不思議そうに僕を見つめる。

「なんかさ、二人見てると仲の良い姉妹みたいなんだもん」

「そう?」

「うん、京ちゃんってお姉ちゃんみたい」

 ヒロミもうなづく。

「なんか一人だけ年寄り扱いしてない?」

「大人びてるっていってるんだよ」

「そう?」

 なにやら不満そうだ。

「そうだよ。なぁヒロミ?」

「うん、京ちゃん、素敵なお姉さんだよ」

「もう……真顔でそういう事言わないの!言われてるこっちが恥かしいじゃない」

 京ちゃんは顔を赤くして苦笑いを浮かべた。

「じゃ、そろそろ帰るね。夕食ごちそうさま。ヒロミ、いいお嫁さんになれるわよ。……良かったね、シン?」

「……さてと、それじゃ遅いし、家まで送ってくよ」

 最後の言葉を無視すると帰る仕度をした。

「大丈夫だよ。すぐそこだしさ。それに……」

「それに?」

「ヒロミがヤキモチ妬くといけないしね」

「もう……シン、遅いし送ってあげて」

「ヒロミだって、こう言ってるじゃないか」

「じゃあ、そうしてもらおうかな?……ヒロミ、シンを少し借りるね」

「……貸すだけだからね」

 小さくヒロミが呟く。

「!?……ヒロミ?」

 聞き間違いか?

「何?」

 何事もなかったように、ヒロミが僕を見つめる。

「何か言わなかった?」

「……シンの馬鹿」

 口を尖らせると、そう呟いた。

「シンの事、それじゃ、少しだけ借りるね」

 京ちゃんは、そんな様子を楽しんでるようだ。

「じゃ、ヒロミまたね」

「うん、勉強頑張ってね」

「ヒロミ、またな」

「……そのまま、帰っちゃうの?」

 寂しそうにヒロミが僕の服を掴む。京ちゃんからは見えてないようだ。

「明日は僕も学校あるからさ。帰りにはちゃんとくるから、な?」

 服を掴んだ手を軽く握ると僕は優しく微笑んだ。

「……わかった。またね」

 ヒロミに軽く手を振ると、僕と京ちゃんは店を後にした。

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