第14話 約束(前編)

 ヒロミが来年からの復学を決めてから、僕らは二人で外出する事が多くなった。

 それは、知り合い以外との接触を増やして、少しでも学校生活が円滑に進むようにする為だった。


 いつものように、閉店間際の店内で片付けをしながらヒロミと話していたときの事だ。

「ヒロミ、明日はどこに行こうか?」

「う~ん……シンが普段遊んでるトコがいいな」

「僕が?………って、あんまり一人で遊び行かないんだよね。ゲーセンとか……」

「ゲームセンター?」

「うん、ヒロミはゲームやらないだろ?」

「やらないわけじゃないよ。ファミコンぐらいならやった事あるもん」

 拗ねたように、小さく呟く。

「家庭用のゲームやん」

「じゃぁ、どんなのがあるのよ?」

 怒ってるのがわかる。別に馬鹿にしてるわけじゃないんだけどな…。

「ヒロミがやりそうなのは、UFOキャッチャーとかテトリス、ぷよぷよとかかなぁ……」

「ぬいぐるみ取るヤツだよね?」

 嬉しそうに目が輝いてる。……明日は散財しそうだな。

「そうだよ。じゃぁ、明日はゲーセン行って、その後ビリヤードでもしようか?」

「ビリヤード?私、やり方知らないよ?」

「教えるから大丈夫だよ」

「そんな事言って……シン、ルール知ってるの?」

 馬鹿にしたような口調だ。

「当たり前やんか。中学の頃からやってるもの。それに、会社の先輩方からお小遣いを貰えるぐらいの腕だぞ」

「ふ~ん」

「なんだよ、その疑わしげな目は?」

「シンってさ。見かけからは想像できないような事してるよね。って改めて思っただけだよ」

「……それって、人聞き悪くない?」

「そんな事ないよ」

 嬉しそうにヒロミは微笑む。

「ねぇ、今日は泊まっていけるの?」

「明日は休みだし、予定もないからね。そのつもりだったけど?……都合悪いなら帰るよ」

「特製のブレンドができたの……ゆっくりしていける時に飲んでほしかったから」

「そうなんや、食後の楽しみが増えたよ」

「?……増えた?じゃぁ、他にも何かあるんだ?ね、何?」

 子供と変わらないよな、こうなると……。

「なんでもないよ」

 言えるわけがない……一緒に眠れるのが楽しみだなんて……。

「何で目そらすの?」

「そらしてないよ……」

 ヒロミは黙ったまま僕を見つめている。

「……見せないよ?」

 僕は諦めるように小さく呟いた。

「何を?」

 キョトンとした顔で僕を見つめる。どうやら、アレには気づいてなかったらしい。

「……約束しないと言わない」

 しまった、コレは見せる流れだ。

「……わかった」

 ヒロミは小さくうなづいた。

「その……小説っぽいもの?書いてるんだよ。……もうすぐ書き上がるかなぁ」

「!?見たい!!読ませて!!」

 興味津々といった顔だ。

「……約束したやん」

 多分、無理だろうけどな……溜め息がこぼれそうになる。

「見ないから、読ませて!!」

 言ってる事がムチャクチャだ。

「……」

「ダメなの?……シンのケチ!誰かに読んでもらわなくちゃ、書いた意味ないじゃない」

 ダダっ子と変わらない。が、ヒロミの言うとおりだ。確かに誰にも見せないんじゃ自己満足にすぎない。

「……わかったよ。……でも、書き上げてからじゃないと見せないからね」

「うん。私が最初の読者だからね」

 嬉しそうに僕に笑いかける。

「……わかったよ」

 そんなに嬉しそうな顔されたら、もう断れないじゃんか。

「じゃ、明日はゲームセンター行って、ビリヤードね」

「了解。じゃ、僕は執筆活動に勤しむとします」

 冗談めかしてそう言うと僕は部屋へと上がった。

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