第13話 踏み出した一歩……
龍也さんと巧との出会いから数週間が過ぎた。
志郎さんの家での打ち合わせもすんなりと終わり、職場からヒロミの元へと通う日々に戻っていた。
僕とヒロミの関係は変わっていない。
京ちゃんが加わり三人で他愛のない会話をする事もあったが、別段、事件についての新しい話題はなかった。
ヒロミが同席しているのだから、京ちゃんが話さなかっただけかもしれないが……。
三人で会話をしていたある日の事だった。
「そういえば、シンは進路どうするの?」
「僕?まだ卒業まで一年あるもん……そう言う、京ちゃんはどうすんの?」
「D女子大を目指して猛勉強中だよ。講習と模試の繰り返し……息抜きに来てるんだから嫌な事思い出させないでよ」
そう言って僕の背中を強く叩く。
「京ちゃんが言いだしたんやん」
ヒロミ、休学してるのに、こんな話しちゃマズいよな……。
「シン、京ちゃんには話したんだけどね……」
なんだか言いにくそうだ。
「ちゃんと、話すんだよ。ヒロミの事なんだから」
京ちゃんがニッコリ微笑む。
「……何?」
……記憶が戻ったのか?
「私ね……」
「うん、何?」
「シン、急かさないの」
「……私もね、通信の高校、通おうと思うの……ダメかな?」
「!?……一緒に通おう!授業の空き時間があるし……でも、僕の方が時間割の提出早いんだよな……そうだ、先生にでも聞き出すよ、新入生の時間割……?」
京ちゃんが僕を見て吹きだして笑ってる。
……何でだ?
「ほらね、言ったとおりでしょ?シンが協力しないワケがないんだから」
クスクス笑いながら京ちゃんは続ける。
「下手すると、卒業の年まで合わせるね……うん、シンならやりかねない」
そう言うと京ちゃんは楽しそうにクスクス笑う。
「な!?……ちゃんと予定通り卒業するよ」
「本当に?」
訝しげに京ちゃんは僕を見つめる。
「そうなの?」
少し寂しそうにヒロミが僕を見つめる。
「その後、特科で同じ時間割で授業取ればいいんだもん」
「特科?」
京ちゃんが聞き返す。
「そうだよ。生涯学習がモットーだからね。卒業後も学びたい科目があれば、特科生として在籍できるんだよ」
「……シン、勉強したいワケじゃないでしょ?」
意地悪く京ちゃんが僕を見つめる。
「何言ってんだよ。わかってもらえないかなぁ、この溢れるような知的探究心を……」
二人は顔を合わせてクスクスと笑い出した。
「……なんだよ、失礼だなぁ」
「シン……ありがとう」
そう言って見せた笑顔はあの頃のような笑顔だった。
出会った頃の……付き合いだしたあの頃の……心から楽しそうに、そして嬉しそうに笑う。そんな笑顔だった。
嬉しかった、何よりもヒロミが未来に向かっての一歩を踏み出してくれたのが嬉しかった。
記憶が戻らなくても、自分の意思で進みだす決意を彼女はした。
それが嬉しくてしかたなかった。
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