第10話 探偵?登場……前編

 当時、志郎さんは隣県のG県G市内に住んでいた。

 原付の免許すら取得していなかった僕は私鉄を利用して、志郎さんの家へと急いだ。気ばかりが急いでいて、電話すらせずに向かっていた。ヒロミの為に、他にできる事はないのか?その事で頭の中はいっぱいだった。


 マンションに着いた僕は、部屋の番号を確認すると表札の出ていないドアのチャイムを鳴らした。

 ピンポーン♪

 チャイムの音に反応して扉が開いた。

「シン?どうしたんだ、急に?……なにかあったのか?」

 志郎さんが心配そうに僕の顔を覗き込む。

「僕……」

「とりあえず、中に入れよ。客が来てるが気にする事はない。今回の件で協力してくれる人間だからな」

「え!?」

「心配するなよ。俺なんかより役に立つ…勝手に協力者を増やしてしまって申し訳ないが、信頼してもらえないだろうか?」

 表情にでてしまったようだった。

「龍也!人探しの件の依頼者がみえたぞ」

 奥にいる客の名前のようだ。

 龍也さんか……。

「……志郎さん?依頼って?」

「気にしなくていい。龍也と話せばわかるよ。君があいつを信頼できないというなら、手を引かせる。もちろん、他言無用でね。とりあえず、話をしてみてほしい」

「わかりました」

 志郎さんがそこまで言う龍也という人物の事を知りたいと思った。力を貸してくれるというのも嬉しかった。ただ、『依頼』という言葉が気になってはいた。


 ソファーにライダースジャケットを着た男が座っている。彼が龍也さんのようだ。

「シン、改めて紹介するよ。俺の十年来の友人の龍也だ。本人は探偵だなんて言ってるが、本業は……」

「志郎!探偵が本業なんだよ。おかげさんで、看板ださなくてもいいぐらい依頼が後を絶たないしな」

 志郎さんの言葉を遮るように、言葉を続ける。

「君の事は志郎から聞いてる、俺もシンと呼べばいいのかな?俺のことは好きなように呼んでくれたらいい……龍さんは響きが物騒だからやめてほしいけどな」

 そう言うと、人懐っこい笑顔で龍也さんは僕を見つめた。

「シンでいいです。……龍也さん、僕、依頼料払える程、お金なんかないですよ。何年かけてでも払いますけど、それでもいいんでしょうか?」

「志郎?お前どんな風に説明したんだ?」

 僕の後ろに立ったままの志郎さんに確認する。

「突然の訪問だったからな、お前が協力してくれるという話と、自称探偵という事しか知らないハズだが?」

 少し意地悪そうに、志郎さんが微笑む。

「……そういうことか。改めて説明した方がよさそうだね」

 龍也さんは、事の経緯を説明してくれた。

 内容は次のようなことだった。

 志郎さんが何か問題に首を突っ込んでるのに気づいて協力を申し出た事。

 元々、報酬をもらって探偵行為などしていない事。

 事件にではなく、僕に興味があったから手を貸す気になったという事。


「シン、俺を信用しろと言っても難しいと思う。でも、任せてくれないか?……そういえば、もうバンダナはしないのか?」

「もう無茶はしないと志郎さんと約束しましたから……」

「そうか……まぁ、顔も確認したから、それを目印にする必要もないんだけどな」

「目印?」

「どんな奴か会ってみたくてな二、三日だったが、シンが志郎と出会ったあたりを歩いてみた」

「そうなんですか……」

「そうしたらな、バンダナ巻いた小僧が結構いるんだよ」

 可笑しそうに龍也さんは続ける。

「バンダナ巻いてるだけで、カツアゲされないんだとよ。ずいぶんと無茶をやってたみたいだな?」

「……」

「責めてるんじゃないし、茶化してるんでもないぞ?……俺はな、シンみたいな奴は好きだぞ。変な意味に取るなよ?……お前見てるとな、昔の志郎見てるみたいなんだよ」

「志郎さんですか?」

「龍也!」

 志郎さんが少し困った顔で龍也さんを見つめた。

「シン、俺の事は信用しなくてもいい。だけどな、志郎の目は信じてやってほしい」

「シン、龍也の事信じてもらえないか?」

「……僕は志郎さんの事を信用して今回の件をお任せしました。志郎さんが最善策として、龍也さんに協力してもらう事を選んだのなら、僕はそれに従うだけです。龍也さん、僕の個人的な問題なのに……ありがとうございます」

 僕はそこで、初めて龍也さんと向き合って頭を下げた。それは偽りのない正直な気持ちだった。

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