第4話 協力者……

 犯人捜しから数ヶ月が過ぎようとしていた……カードの束が厚くなり、奪ったポケベルの数が増えるだけで、手がかりは何一つ見つける事はできなかった。手当たり次第に喧嘩していたため、関係のないものにまで狙われるようになっていた。

 結局、自分のミスで身動きがとれない状況に自らを置く形になっていた。

 だからといって、捜索をやめる気もなかった僕は、その日も繁華街をうろついていた。

 「君だろ?ここんとこヤンチャしてんの?」

 まだなにもしていない段階で、知らない男に声をかけられた。最近はよくある事だったので気にもならなかった。

「だったら何?」

 同世代じゃないな、少し上みたいだ。

「随分と喧嘩腰だなぁ」

 ニヤニヤと笑ってるが不思議と敵意は感じられない。

「何なんだよ?」

「敵をつくるだけで、追い込まれているのは君のようだね」

「……」

 図星だった、関係のない連中にからまれ、手がかりのない苛立ちから喧嘩をする…最初の数週間だけがまともな捜索だった。

「そして……苛立ちから周囲の状況が見えなくなる!」

 急に間合いを詰められた。

「!?」

 やられる!

 身構えたが、拳は頬の横を風を切ってすりぬけた。

「ガハッ!」

 背後で男が倒れる。

 狙われたのか?倒れた男の手には、特殊警棒が握られていた。

「うせろ!」

 男の一喝で殴られた男は逃げていった。

 何者だ、こいつ?……助けてくれたのか?

「君が何故こんな事をしてるのか?理由はわかっている。だが、敵をつくるだけで犯人は潜るだけだよ。俺の言葉の意味はわかるか?」

「あんた、何なんだよ?」

 敵?ただの好奇心か?

「少なくとも君の敵ではないな……好奇心とも違う。……知った責任かな」

「?知った……責任?」

「そうだよ、わからないかい?君に、いや、君の大切な人にふりかかった不幸を知った。君が組み伏せてきた連中にしてきた質問からの推測だがね」

「それで?」

「俺にも大切な人がいる。もしかしたら犯人の犠牲になった人は、他にもいるのかもしれない……」

「あんたには関係ないだろ?」

「今のところはな……だが、近い将来に俺の大切な人が不幸になるかもしれないだろ?」

「ならないかもしれないだろ?」

「芽は摘み取っておくものさ。事がデリケートな問題だからな、警察が捕まえたとしても、精神的には、また苦しむ事になるだろうしな……」

 男の顔に悲しみの色が浮かぶ。

「どこまで知ってるんだよ?」

「悲しい事件が起き、君が犯人を捜している事だけだよ。君の名前すら知らない」

 そう言うとニッコリと微笑んだ。

 「何で助けてくれたんですか?」

 知らないうちに敬語になっていた。

「放っておいたら君は殴り倒されていただろ?何かしたら変わる状況だとわかっているのに放ってはおけないだろ?」

「おせっかいじゃないですか」

「そうかもしれない、でもそういう性分なんだよ。君は目の前の人がサイフを落としたらどうする?」

「教えます。いや、ネコババするかも……」

「そうだね、良心の問題もあるんだろうけど、俺は前者だな。知ってしまった責任というのはそういうことさ」

 優しい笑顔で僕を見つめる。

「どうするんです?僕を警察に突き出しますか?それとも、貴方は警官なのかな?」

 なんとなく、この人には敵わないと思った。

「俺は、警官なんかじゃないよ。噂で君を知って話がしたくなっただけさ」

「話をしてみて……僕をどうしますか?止めますか?」

「ああ、止めるね。こんな方法じゃ犯人が捜し出せないのは、気付いてるだろ?」

「でも……」

 急に突き出された拳は、鼻先ギリギリで止まった。

「強い奴はいくらだっている。もし敗れたときには、誰が君の大切な人を守るんだ?その人は、こんな事を望んでいないハズだ」

「でも……犯人が許せない!野放しになんてできない」

 握りしめた拳が震える。

「野放しになんかしないさ。そんな奴が身近にいるのを知ってしまったのに、放っておくと思うのかい?」

 怒りの表情が一瞬浮かんで、すぐに穏やかな表情にもどった。

「じゃあ、どうするんです?」

「君の力になろう。ただし、今までの捜索方法は禁止だ。君はその人を支えてあげるんだ。必ず見つけてみせよう、犯人をね」

「必ずですか?」

「そうだよ。君が一つだけ俺と約束をするならね」

「約束?」

「大した事じゃないよ。その人を心配させるような事をしないというだけさ。守れないかい?」

 優しい、でも厳しさを秘めた笑顔だ。

「守れます。でも、なんで?初対面の人間ですよ?」

「君だって、僕とは初対面じゃないか」

 そういうと声をあげて笑った。

「そうですね」

 僕もつられて笑った。彼女と再会してから、初めて声をあげて笑ったんじゃないだろうか?この人なら、信用できる。きっと彼女を助ける力になってくれる。そんな気持ちになっていた。

 これが、僕と志郎さんとの出会いだった。


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