第3話 修羅へ……

 彼女との再会から数日後、僕は中学時代の友人に連絡をとった。

 「久しぶりだな」

「どうしたんだよ、シン?珍しいな」

 彼はいわゆる不良というヤツだ……なんとなくウマがあって仲良くしていた。

「女、襲うようなクズは知り合いにいないよな?」

「!?…最低な野郎だな。……俺の周りにはいねぇな」

 彼は僕のやる事に気付いたらしい……。

「バンダナに黒のジーンズ……それで動く。関わらないよう伝えてくれ、来週からだ」

「手、貸すぞ?」

「俺の問題だからな……気持ちだけでいいよ。ツレの仲間には手ぇだしたくないしな」

「わかった、伝えとくよ……何かネタがあったら連絡する」

「サンキュ」

 犯人探しは、こうして始まった。


 仕事帰りに、彼女との時間を過ごす。穏やかな一時だ、少しずつ互いの関係をつくるための時間……。そして、日が暮れるとバンダナに黒のジーンズに身を包み街にくりだした。今と違い、見た目で不良ってわかる連中は当時はまだいた。

 聞き込みなんかはしない、ちょっと睨めば、勝手にからんでくる……。

 ゲームセンターで四人組を見つけた。早速、目があった……ある意味単純だ。からまれるのを待てばいい……お約束の会話、囲まれ突き飛ばされる。

「正当防衛、成立だよな」

「何言ってんだよ?……」

 言い終わらないうちに男の膝に足刀を撃ちこむ。関節は横からの打撃にもろい。うずくまると同時に顔面に膝蹴りをいれる。鼻の骨が折れたのかもしれない。鼻血が止まらないようだ。

「な?お前……」

 仲間の男が拳を突き出す。

「勘弁して下さいよ」

 薄笑いを浮かべながら、拳をかいくぐると脇腹に肘打ちをいれる。カウンターで綺麗にはいった。ミシッという鈍い音がする。肋骨にヒビでもはいったかな?

 あっという間に仲間二人が倒れるのを見て、後の二人は動けないようだ。

「手ぇだしたのはお前等が先だからな…」

 顔を押さえ倒れてる男の脇腹に蹴りをいれる。

「わ、悪かったよ」

 分が悪いのがわかったようだ、さっきまでの威勢はまったくない。

「お前等の知り合いに……」

 彼らに訊ねる。

「そんな奴はいないよ」

「そっか……お前等の名前がわかるもんだしてくれない?」

「どうすんだよ、そんなもん?」

 オズオズと聞き返す。

「いいから出してよ。サイフ出せなんて言ってないだろ?」

 静かな恫喝だ。四人は諦めるように、免許証や、どこかの店の会員証をだした。

「見せてよ」

 四人のカードを受け取る。

「どうするんだよ?」

「数でこられると面倒だからさ……預かっとくわ。再発行しなよ、悪用はしないからさ」

「信用できるかよ」

「俺もお前等が仕返しにこないなんて、信用できないよ」

 冷たく言い放つ。

「お前等の知り合いに伝えとけよ。からむなって…最低のクズを探してるだけだからさ。この格好で探してるから……いいな?バンダナに黒のジーンズだ。仕返しなんて考えるなよ……その時は一人ずつ自宅襲うからな」

 本気だった。一切手加減などする気はなかった。

「……わかったよ」

「早く医者連れてった方がいいぞ。過剰防衛ってヤツだ、悪かったな」

 そう言い放つと僕はニッコリ微笑んだ。

「クソッ」

 小さくつぶやく。

「やるのか?」

 つぶやいた男を睨みつける。

「……悪かったよ、仲間には伝えとく……情報がはいったら伝えるようにするよ」

 戦意など、消え失せたようだ。

「協力感謝するよ。俺もジーンズ、血で染める気はないからさ」

 仲間を抱えると逃げるように去って行った。

 さて、何枚集まるかな?奪ったカードを見つめながら…決意を新たにした。犯人は必ずこの手で……。


 修羅となろう……彼女は喜びはしないだろうが……そんな奴の存在は絶対に許せない……。

 血の染みは、やはり目立たないようだ。何事もなかったように、次のターゲット探しを続ける事にした。

 夜はまだ長い……狩りの時間はまだまだあった。


 こうした日々が何日も続いた。いつしか奪い集めたカードは束になり……ジーンズの染みは少しずつ増えていった。

 この事が家族に知れる事がなかったのは、マスターが使っていない部屋を提供してくれた事と、先制攻撃で、流れを自分のものにした為、怪我らしい怪我をしなかったからだった。

 彼女の部屋の向いが、僕の部屋になっていた。会社帰りに寄る僕に、シャワーを浴び、着替えができるように貸してくれたのだった。替えの服が何着か置かれるようになった。マスターは僕がしている事に、薄々気付いていたようだったが、何も知らない顔をしてくれているようだ。

 嬉しくもあり、申し訳ない気持ちもあった……でも止まる事はできなかった。

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