第2話 再会……
年がかわり、僕は高校を定時制から、通信制にかえた。それは、体力的にも楽であり、自分の時間を作れるという点が、大きな理由でもあった。
彼女と別れ、半年が過ぎようとしていた。でも、うやむやのまま別れてしまった事もあり、僕は彼女の事をひきずったままだった。
学校にも慣れ、余裕のできた僕は、彼女と出会った本屋に向かった。もしかしたら会えないかな……と思ったからだ。直接、喫茶店や自宅に向かう勇気は、まだなかった。
「シン!」
「え!?」
振り向くと、あの日紹介された彼女の友人、京ちゃんが立っていた。
「連絡先ぐらい教えときなよ」
なんだか怒っているようだ。
「久しぶりだね……」
「時間ある?」
「あるけど……彼女……元気にしてるかな?話しに行くつもりだったんだけど……」
「やっぱり、知らないのね?」
「何の事?」
「いいから付いてきて!」
そう言うと、僕の腕を引っ張る。
「わかったよ」
僕が連れて行かれたのは、あの喫茶店だった。
もしかして、彼女に何かあったんだろうか?マスター怒ってるのかな?それとも、彼女もまだ……それはないか。いろんな事を考えながら、僕は店に入った。
「いらっしゃいま!?シン!」
「ご無沙汰です、マスター……彼女との事、すいませんでした」
僕は殴られるのを覚悟で頭を下げた。
「それはおまえ達二人の問題なんだから、謝る必要はない。シン……あの娘に会ってくれるか?」
「そのつもりですけど……休みですか?」
店内に彼女の姿は見えない。
「上にいるよ、つきあたりの部屋があの娘の部屋だ。今、ここに住んでるんだ」なんだか辛そうにマスターが話す。
「お邪魔していいですか?」
「あぁ、あの娘をたのむ」
「!?」
マスターの言葉に戸惑いを感じながら、僕は京ちゃんと二階に上がった。
マスターに聞いた彼女の部屋のドアをノックした。
コンコン
「どうぞ」
懐かしい彼女の声だ。
僕は扉を開け、部屋に足を踏み入れた。
「その、久しぶりだね……」
「イヤ……誰なの?」
彼女が後退りする。
「え!?何言ってるの?僕だよ」
「イヤ、こないで……近付かないで……」
僕の姿に怯えている。震えているのがわかる。どうして?
「冗談……だろ?」
一歩近付く……。
「イヤーー!!こないでこないで……」
震えながら、彼女は部屋の隅で丸くなる。
悲鳴を聞いて京ちゃんが慌てて部屋に入ってきた。
「シン、下で待ってて。……大丈夫よ。彼は何もしないよ。ね?」
京ちゃんは、僕に店に下りるよう、うながすと、なだめるように彼女を抱きしめていた。
小刻みに震えているのがわかる。何が……!そ、そんなワケないよな?嫌な想像が頭をよぎる。……そんなわけないよな。
僕は店に戻ると、一番奥の席に座り、頭から消えない考えを必死で振り払った。
「シン、ごめんなさい。連れてこない方が良かったね。貴方なら心を開いてくれると思ったんだけど……」
悲しそうにうつむく…涙があふれているのがわかる。
「なぁ、何があったんだよ?……記憶なくしてるのか?」
「うん……」
その声は涙で震えている。
「まさか……まさか、そんな事ないよな?冗談なんだろ?なぁ嘘だって言ってくれよ。驚いた?って言ってくれよ。なぁ?泣くなよ……」さっきの想像がどんどん大きくなる。
自分の声が震えるのがわかる。悲しみ、絶望、怒り……涙があふれそうになるのを必死でこらえた。
「シン、ごめんね」
「謝るなよ。……嘘だろ?」
「ごめんね……」
京ちゃんは静かに首を横にふる。
そんな……ドラマとかだけだろ?そんなん現実にあるわけない……謝るなよ……。
想像した事が事実だった。彼女には不幸がおとずれていた。許されない、人為的な不幸が……何度かの自殺未遂……昏睡状態から目覚めた彼女は記憶を失っていた。そして身内以外の男性に対する激しい恐怖心。今は僕の存在も、彼女にとっては恐怖の対象でしかなかった。
彼女は高校を休学しているとの事…一日そばにいられるマスターのところに住む事になった事…これは他の理由もあるような気がした。
僕ならもしかしたら、心を開けるのでは?そう信じて探していたんだそうだ。
で も結果は……。神様なんていない……彼女が何でそんな目にあわなくちゃならない?何を彼女がしたの?誰が?初めて抱いた怒りだった。殺意だった。許せない、許せない……犯人を殺したって彼女の痛みはなくならない。許せない……許せない!犯人を見つけだす、どんな事をしても……僕は心に固く誓った。
彼女が元気になる為にできる事がしたかった。マスターに頼んで、また会いにくる事を許してもらった。そして友人の京ちゃんにも協力を頼んだ。
再会から一月後……僕は彼女の幼なじみだという事になった。怯える素振りは少しずつなくなり、京ちゃんやマスターがいなくても二人で話ができるようになった。かつての恋人ではなく、それは頼れる兄という感じだった。心からの笑顔が見れるその日まで、僕はそれでもいいと思った。
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