なにもできないよ
ピート
第1話 出会い、そして別れ
今時、B級映画でもありえないような出会い……単なる人違いから僕は彼女に出会った。
その日、どうしても間違えたお詫びがしたいと言う彼女と、喫茶店に行く事になった。
その喫茶店は彼女の叔父が経営する店で、彼女のバイト先でもあった。
珈琲が苦手だと言うと、彼女は紅茶をいれてくれた。それは、今まで僕が飲んだ紅茶の中で一番美味しかった。
僕らは改めて自己紹介をすると、互いの事をたくさん話した。働きながら学校に通う僕と、普通に高校生活を送る彼女……話す全てが新鮮だった。
僕 はそれから毎日のように喫茶店に通った。夏休みに入っていたため、バイトが終わるまで本を読んで僕は時間を潰し、終わるとそこで話をした。とりとめのない 会話…彼女と過ごす時間…同じ場所にいる時間が、僕には心地良かった。いろんなイヤな想いが消えていく。それが恋だと気付いたのは、しばらくしてからだっ た。
でも、その関係が壊れるのが恐くて、僕は想いを口にする事はなかった……これが僕の初恋だった。
夏休みが終わりに近付いたある日、いつものように店に着くと、そこには先客がいた。どうやら、彼女の友人のようだ。
邪魔かと思い、帰ろうとする僕を彼女はその娘に紹介してくれた。
「前に話したよね?シン……私の彼なんだ」
はにかむように僕を見つめる。
へ!?今、何て言った?彼??彼氏って事?恋人?じゃあ付き合ってる?いつから?僕の事、好きって事?恋人宣言?エイプリルフールは四月だよな?ドッキリ?……数えきれない『?』が頭にあふれる。と同時に、嬉しさと喜びでいっぱいになって、何を話したのか覚えていない。
こうして、なしくずし的だったが、僕は彼女と恋人という関係になった。
たくさんのデートをした。動物園、遊園地、映画館、プラネタリウム…そして、夕暮れ時の公園で僕らは初めてキスをした。
彼女の誕生日、初めて彼女の部屋に招かれた。プレゼントを渡し、二人でケーキを食べ、いけない事だけどカクテルで乾杯した。
酔いはしなかったけど、酔ったフリをしてベットに横になる。心配そうに覗きこんだ彼女を抱きしめた。キスをして、彼女の身体に触れる……。震えているのがわかる。
最低だ!!ふと我かえった。
「ゴメン!」
謝ると足早に彼女の部屋を後にした。
誰よりも彼女が好きなのに……何よりも彼女が大切なのに……なんてヒドイ事をしてしまったんだろう……最低だ。
僕は彼女にすぐ会う事が出来なかっ た。罪悪感と自己嫌悪でいっぱいだったからだ。彼女が僕の連絡先を知らないのも幸いだった。会社帰りに寄るし、夜は学校、休日は予定がない限りは会っていた為、教える事も聞かれる事もなかった。当時はまだ、ポケベルが少しずつ持たれるようになった頃だったけど、誰かに縛られてるみたいで僕は持たなかった。 無論、携帯をもってる友人なんて、周囲にはいなかった。
何日かが過ぎ、謝る為に僕は彼女に会いに行くことにした。もう終わりかもしれないと思いながら……。
何から話したらいいんだろう?とにかく謝るべきだ…でも、どんな風に?……結局、何も話せないまま川沿いの道をならんで歩いた。
「ねぇ、……?」
突然の問いかけだった。僕はどう話すべきかに思考が集中して、彼女の問いを聞いていなかった。
「!?う、うん」
慌ててうなずく。
「そうなんだ……」
「エッ?」
バチン!!
「さよなら……」
痛烈な平手打ちだった。彼女の目から涙が流れる。
「あっ……」
涙に驚いた僕は彼女を追いかける事ができなかった。問いに対して、頷いてしまった事が悪かったんだろうか?
僕はすぐに追いけけることが出来なかった……そのまま会いに行く事も出来ず、そうして、僕らの関係は終わった。
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