46.期待と現実
「だから、何度も言うけど、アレもコンバルタだってば。多分ね? 詳しくは、術式の
「いや、でも……そのコンバルタっていうのも、俺のレジリエンスあってこその魔術なんだろ……? つまり、もしかしたら俺自身の才能である可能性も捨てきれないというか、微粒子レベルで存在するのでは……?」
「なによ。あなた、魔法のこと全然分かってないじゃない。もう一回説明する?」
「いやいい! 結構ですっ!!」
そう。あれは今から三、四十分前だろうか。俺は、河原でのアニーのちょっとした魔法教室を修了し、彼女と二人で、下層街の入り口にあるレラのねぐらまで戻るところだったのだが……。
× × ×
「昨夜は途中までしか聞いてもらえなかったけれど、あなたのような非魔術者でも、私たち魔術師の力を頼れば、様々な魔法が使えるという話はもうバッチリよね? そのような魔法技術は
× × ×
「この際だから、正直に言わしてもらうけど、アニーは話が
「余計な話ってなによ。こっちは、よかれと思って話してあげているのに失礼ね」
「お前の自慢話とか、別にいらないじゃん。俺が一番知りたいのは、お前の学校の成績とか、課外活動の成果とかじゃなくてだな。そう、俺の内に秘めたる魔術の才能の可能性であって――」
「それは無いんだってば。ソースケは、完全なナフトだと、私でも保証できるわよ」
“ガクッ”と、わざとらしく項垂れる俺氏。
いや、アニーの話を散々聞いて、薄々気付いちゃいる。てか、殆どもう理解しつつあるんだけれども……やっぱり『異世界転生したら、チート魔法使えるようになったったww』的な、胸熱展開が……諦めきれなくて。
クソが。誰だよ、俺に余計なお世話でカ○ハメ波撃たせた悪趣味な輩は。あの時は助かったけど、今となっては、恨めしや……だ。
「あと別に、自慢してるわけじゃないんだけど? 何も分からないあなたに対して、単純に説明するばっかりじゃ、退屈だろうからって、わざわざ気を利かせてあげていたのが分からなかった?」
うるさいな。俺は今、感傷に浸っているところなんだよ。それをチクチクと嫌みたらしく、俺の言葉の隅から隅までを
「はぁ……。お前さぁ、そういうの何ていうか知ってるか?
「あら。ソースケ、学校なんて出ていたの? 何かの理由で故郷を追い出されて、この国に流れ着いた身分だとは思っていたけれど、これは失礼しました。まさか、あなたに何か学があるようには見えなかったので」
――――カチン。一瞬、どこかでアニーに俺が異世界転生したきたことを話しただろうかと、思考が止まり、背筋が凍りかけたが、そんな記憶は無いし、よく考えれば、ヤツの発言内容も俺の境遇を詳しく知っているようでは無い。
しかし、図星といえば図星だ。通常、多くの人間が卒業する学校を中退し、社会の底辺を親という都合の良い隠れ蓑に包まりながらゴロゴロと悠々自適に転がり回っていた俺は、故郷の世界から惨めな形ではじき出され、この異世界に流れ着いた――学も地位も金も何も無いただのクズだ。俺が話すまでも無く、彼女には見透かされていたのだ。ゴミクズだと。
「……言ってくれるじゃねーか。俺の故郷だ学歴だって。聞かれてもいなければ、そんなもん話したところで、お前になんて理解できるわけねーのによ? お前に、俺の何が分かるんだよ? ああ??」
「……何。気に触ったのなら、謝るけど」
「謝れば済む問題か!? 大体、謝り方すらおかしいだろ!! 偉そうなんだよ、お前! 何様のつもりだ? 俺には、学も無ければ金もねぇ――身分だって、ここじゃ故郷以上にゴミクズ同然だ!! そんな俺を笑って楽しいか? あぁ!?」
「ちがう。悪かったわよ……私、そんなつもりじゃ――」
「ご親切に下々の者どもに手を差し伸べる救世主ごっこでもしてるつもりなのか、魔術師のお嬢様がよぉ!! こんなクソみたいな連中の街で遊んでないで、安全な学校だかお城だかお屋敷だか知らねーけど、帰って優雅にお茶でもした後に、フリルだらけのドレスを床に引きずりながら、魔法界のイケメン貴族様を追いかけ回して媚びでも売ってろよ!!」
「……は?」
「あ?」
「なによそれ」
「なんだよ。文句あんのか」
お? なんだ、やんのか?
可愛い顔して一丁前に凄みやがって。地下牢の連中や、ルドルフのおやじに比べたら、お前なんか別に怖くねーぞ?? おおん??(威圧)
……あっ。いや……割と怖いかも……えっ、怖っ。なんだこの気迫……。急に……。
「いい加減にしろって!!」
壮亮とアニーの口喧嘩が過熱し、ついに、その騒々しさと険悪な空気に耐えかねたレラが二人を一喝する。自身の家の前で好き勝手にいがみ合う二人に対し、もはや、怒りを通り越して、呆れて返った様子である。
「お前らさぁ……やっと出て行ったと思ったら、なんでわざわざあたしんちに帰って来んだよ。しかも喧嘩までするし。やるなら余所でやれ」
「……いいだろ。 土産も持ってきたんだし、堅いこと言うな」
焚き火で炙られている十数本もあろう川魚の串焼きのうち、一番太って脂ののっていそうな一匹を頬張るレラ。『俺が食べようと思って大事に育てていたのに』と、怒鳴り散らしそうになるが、思いとどまる。
「
「おかわりもあるぞ?」
「あきる。いらね」
ここで、アニーが勢いよく立ち上がる音に驚き、“ビクッ”身を震わせる俺。
心底気分を害している様子で、俺のことをゴミを見るような目で一瞥し、こちらに“ガシャガシャ”と音の鳴る布袋を放り投げてくる。
「危ねっ!?」
「
「待てよ!! 話、まだ終わってねーだろ!」
「もう話すことなんて何も無いわよ!! 思い違いだっただけ……。話したくも無い……」
アニーが魔法の箒に跨がり、下層街の出口に向かって、勢い良く飛び立つ。
箒のせいで地面から舞い上がった砂や石の粒が、俺とレラの顔や手足に容赦なく命中する。
「くっそ!? ふざけんなよ、アイツ……!」
「……お前、やらかしてんなぁ」
「あ?」
レラが、口に入った砂を“ペッペッ”と吐き出しながら、苦い顔をしながら俺を睨み付けてくる。それが彼女の怒りなのか、呆れなのか、果ては他の感情なのか、俺には理解できなかったが、
「……もしかして。俺、地雷踏んだの?」
「……《ぢらい》って何」
「いや……。言って良いことと悪いこと的な」
「……知らね。
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