43.小悪魔的魔術師
「……なんだよ」
「何が?」
「なんで、俺について来るんだよっての。用も無いくせに」
「あら、すっかり拗ねちゃったのね。お友達にフラれたからって、私に当たらないで頂戴な」
太陽の位置からして、おおよそ昼前くらいの時刻。俺は、モノクロウ火山での
「さっきから、気が散るんだよ。人が買い物してる横で覗き込みながら『えー』だの『あー』だのって」
「だって、あなたが買おうとする道具の組み合わせも、必要性も、あまりに意味不明すぎるんだもの。ひょっとして、初心者?」
「初心者だよ!! だから、『助けてくれ』ってあんなに頼んだだろ!」
「呆れた。ロクに旅も野営もしたことの無いようなお坊ちゃまが、樹海と火山を抜けた先の古代遺跡探索に挑戦しようだなんて。冒険者ギルド
人が真剣に旅支度をしている様子を茶化してくるストーカー魔女。
「いいわ。かわいそうだから、旅支度くらいなら手伝ってあげる」
「は? い、いらねーよ……別に……」
と、口ではすかしてみたものの、正直なところ、『《とても》手伝って欲しい』。しかし、どれだけお願いしてもパーティを組んでくれなかった相手から、今更、情けをかけられるという事態について、俺の下らないプライドが『それはカッコ悪い』と囁いてしまい、曖昧な返事として口から零れ出す。
今更なんだよ。お前はさっさと魔法薬とやらを作ればいいだろ。そういう約束なんだから。
「いいじゃない。別に、ここであなたへ恩を売るつもりは無いし、約束した以上の対価も要求しない。もし感謝するなら、私が《お買い物好き》だったという偶然にするといいわ。それってつまり、あなた自身の幸運でもあるでしょ?」
「なんだそれ……。それで、お前に何の得があるんだよ」
「同じ事を言わせないで。私はただ、お買い物が好きなだけよ。はい、コレとコレ。買ったら、さっさと次の店へ行く」
魔女に言いくるめられ、彼女の言いなりで買い物をさせられる壮亮。次から次へと、魔女が選んだ革袋のような物や、ロープの束、何の価値があるのかすら怪しい石ころなどが、壮亮の両手を埋め尽くしていく。
「いらっしゃい。何をお探しかな、お嬢さん」
「こんにちは。
いやいや。杖なんて、必要ないだろうが。足腰の弱いお年寄りじゃあるまいし。
「
「あら……失礼いたしました、先生。てっきり、普通の旅道具屋さんだとばかり」
「なに、儂もそのつもりで細々と
あの。すみません。よく分かりませんが、お二人とも意気投合されているようですけれども、ボク、買いませんからね?
「本当ですか!? はい! 買います! この男の子が買います!」
「いやいやいや!? 買いませんから! いらないイラナイ!」
「い る のっ! 後でちゃんと説明してあげるから、黙っていなさいな。こう見えて、あなたなんかより、よっぽど旅には慣れているし、良い品物を選ぶセンスも間違い無く私の方が
口元をへの字に曲げ、魔女が俺を睨み付ける。『早く金を出せ』と、言葉通りの仕草だが、こちらへ突き出した掌を上下に揺らして杖の購入を催促している。そんな図々しさに満ちあふれた魔女の勢いに負け、俺は
「ほっほっほ、毎度あり。いつの世も、かかあ天下じゃのう。儂と、うちの
「いやいや、あの……俺とコイツは、そういう関係では……」
「お止めください、先生。彼ったら、ご覧の通り、照れ屋で、すぐ拗ねちゃうし、後始末が大変ですのよ? ふふ……でも、そこが好き」
「やめろって!! 全然違うだろ!!」
佐久間少年、小学生並みの唐突なブチ切れである。小悪魔的にふざけながら、自身の腕に優しく抱き付き、肩に頬を乗せてきた魔女を振り払う。無論、ただの照れ隠し。まさか、そんな風に絡まれるとは思っていなかったので、それはもう内心ドッキドキである。おっぱい。
「なによ、冗談通じないわね。そんなに怒らなくても良いでしょ?」
「うっせー、バァーカ! お前、何なんだよ本当に! 昨夜も、今日も、いちいち馴れ馴れしい上に、図々しいんだよ! お前!」
「ねぇ、何でも良いけれど、その《お前》っていうのやめてくれない?」
「じゃあ何て呼べば良いんだよ! 聞いても名乗ろうとしないだろ、お ま え」
ため息をつく魔女。何かを諦めたかのように、怠惰に天を仰いでから、壮亮に向き直る。
「……アニーでいいわ。友達は、そうやって呼ぶから」
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