42.お 断 り し ま す

「おたからさがし」


「そそ!」


「アンタと?」


「はいぃ」


「二人で」


「えぇ、もちろん」


「モノクロウ火山まで行って」


「イェス!」


「何のお宝が埋まっているのかも分からないまま、ルドルフのおやじの依頼の穴掘りを手伝えと」


Exactlyその通りでございます


「イヤだ。そんなん、ただの墓穴はかあなじゃねーか。無理。断る」


「うっ!? いやぁ……そんなこと、ない……ないよな!?」


 呆れた様子で、壮亮の勧誘をきっぱり断るレラ。壮亮は、雇い主のルドルフから『一人では困難な仕事だ』と聞かされ、仕事に必要なパーティメンバーの候補として、唯一当てにしていた相手レラに断られてしまったことと、どこかで一度聞いた『墓穴』という縁起でも無い言葉に動揺し、すがるように隣の魔女に詰め寄る。 


「私に聞かないでよ。そんな顔したって、私、穴掘りの方は手伝わないわよ」


 魔女が、わざとらしく作った嫌そうな表情をして見せながら、壮亮を押しのける。


「まぁ、酔った勢いで、少し気前を良くし過ぎたことは否めないけれど、私は、約束通り、あなたの遺跡調査に役立つ魔法薬を提供する。例えば、飲料水の浄化薬はもちろん、火山の熱から身を守る耐熱効果薬とか、筋肉の運動を穴掘りに最適化させる採掘強化薬とかね。報酬は、魔法薬の材料代の実費と、少しだけ、ソースケが私の研究に協力してくれればそれでいいわ。昨夜は、お酒代をあなたに少し多めに払ってもらってるし……ね?」


 小首を傾げながら、唇に人差し指を当て、あざとくウィンクしてみせる魔女。そんな魔女のあざとい表情を目の当たりにした壮亮は、必死に自分の表情を崩さないよう努力しながら、こう思った――


 ――ムカつくけど、コイツの顔、改めて見ると、クソ可愛いな。レラとも、セトメたんとも違う、思わず息を飲んでしまうような美人だ。こうして見れば見るほど、種族が人間かどうかすら怪しく思えてくるな。耳は尖っていないから、エルフとか、そういう感じではなさそうだが……。


「……何? 私の顔に何か付いてる?」


「ファッ!? い、いや! 何でもねーよ……」


 壮亮からの熱視線に対し、訝しげな様子で眉をひそめる魔女。慌てて目を伏せ、モジモジする壮亮。あからさまに不自然な態度について、誰からも指摘されなかったので、独特の気まずい雰囲気が漂う。

 

「……エヘン。いずれにせよ、モノクロウ火山の遺跡までの道のりに、危険が多いことだけは確かよ。いにしえの森と呼ばれる樹海に巣くう危険生物に、険しい山道、活発な火山活動、追い剥ぎや逃亡中のならず者。ネルヘルム王国の兵隊が、定期的に森をパトロールしているらしいけれど、広大な森のごく限られた範囲の話だろうし」


「だ、だったら尚更……誰か一緒に来てくれないと、俺一人じゃとても……」


「そうね。《だから》、私は、お・こ・と・わ・り」


「そこをなんとか……」


 壮亮が、泣きそうな顔をしながら、魔女とレラの顔へ交互に眼差しを向ける。時々、セトメの方もチラ見する。無論、その視線には『どうか、誰でもいいから一緒に来てくれませんか』という無言のメッセージが強く込められている。


「さっき言った通り、あたしもお断りだよ。お宝があるかどうかも分からねぇ、仮に何か見つけたところで、金儲けになるかすら怪しい。しかも、あのルドルフのおやじの依頼クエストなんて、御免被るぜ」


「お、オタカラ……ヤマワケ? いや、チョトダケ! レラ、多め!」


「いらねーよ! んなもん、あるかどうか分かんないでしょって。そういう問題じゃなくて、あたしは自分の命の方が大事さね」 


「わ……私は、カワセミ亭の仕事があるので……すみません。あっ、でも、お弁当を作りますね? 流石に、少しお代を頂かないと、無理ですけど……モノクロウ火山までの道中に必要な食料を旧市街で買い込むよりは、かなりお安くご用意できると思います……」


 まずい。これは、とてもまずいぞ。このままでは、本当に俺一人でモノクロウ火山まで行くハメになってしまいそうだ。ニートが異世界に来た結果、結局最後に行き着く答えが孤独に《樹海入り》だなんて、まったくワロエナイ。皮肉を効かせすぎた究極のバッドエンドじゃないか。


 俺は、その後もなんとか三人を説得しようとしたが、誰かが首を縦に振ることは無かった……。

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