34.奇跡のナントカ
「あ、私?」
壮亮は、突然現れたかと思えば、先ほどから我が物顔な魔女を指差して「そうだ、お前は誰だ。さっきの燃えるお
「名乗るほどの者では無くってよ。今のは、魔法の術式を解読するための簡単な魔道具。でも、あなたを依り代に魔法を放った人物なり、何なりは、どうやら、かなりの秘密主義者みたいで、おそらく、
「るぅと?」
「えにぐま」
魔女が口にする聞きなれない単語に、目を点にして首をかしげる壮亮とセトメ。日本語でおk。
「それを全部
魔女が、懐から杖を取り出し、片手で壮亮のことを軽く押しのけると、彼の背後から様子を伺っていたセトメに、杖の先を向ける。ビクッと、身動ぎして、身構えるセトメ。
「お、おい!セトメた――さんに何をするつもりだ、お前!」
貴様、やっぱり百合か!ゆるさんぞ!!(二回目)
「心配しなくていいわ。あなたの《恋人》を傷つけるつもりは無いから。私が人を取って食うようなバケモノにでも見える?失礼しちゃうわ」
「「恋人じゃないですけど!!」」
見事にハモる壮亮とセトメ。何度かお互いの顔をチラチラ見た後、互いに顔を背ける。
「あら、そうなの?そんなにベタベタくっついてるから、私てっきり」
魔女の言葉を聞くや否や、素早く距離を置き、顔を真っ赤に染める壮亮とセトメ。
「で、本題に戻るけど、私がやりたかったことは、言葉で説明するよりも、実際見せた方が早いから、その子に手伝って欲しかっただけよ。一応聞くけど、あなた、魔法は使えないわよね?」
「えっ?はい、ただの料理人見習いですから……」
魔女が、セトメに向けた杖の先で、小刻みに空中をなぞる。何かの文字を書くように。
「これでいいわ。掌を上に向けて?そして、こう唱えるの――」
「――
おそらくは、呪文か何かの詠唱を促す魔女を見据えたまま、訝しげな顔のセトメが、ゆっくりと、自身の掌を魔女へかざして見せる。魔女は、自信満々の表情で、その様子を静かに見守っている。
この、なんとなく先が読めるが奇妙な状況に、自然と眉間に皺が寄る壮亮。内心『まさかね』と、予防線を張りながら。
「い……いぐにす?」
セトメが、魔女に言われた通りの文言を口にする。
……
……
……?
しかし、何も起こらなかった(定型文)。
「あら?間違ったかしら」
魔女が、セトメの掌を見据えながら、首をかしげる。セトメも首をかしげて魔女の顔を見据える。
いや、北○の拳に出てくるア○バかよ。これで万が一、セトメたんが、壊れた
静かに、勝手に、殺気立つセトメ推しの壮亮をよそに、魔女が再び杖の先を空中で滑らせる。そして、相も変わらず、自信満々な様子で胸を張り、満足げに微笑む。
「これでよし!ごめんなさい!もっかい言ってみて?」
魔女が、セトメに手を合わせながら、小首を傾げて、あざとくウィンクする。
たじろぐセトメ。「何なんですか?」と、軽くため息混じりに不満を漏らしつつ、再び掌を上向きにかざす。
とか何とか言いつつ、彼女が微かに身体を左右に揺らし、若干ワクワクしているような雰囲気を見逃さなかった壮亮。小難しい表情をしながら、内心はおそらくウキウキであろうセトメを目の当たりにしてしまった彼は、片手で顔面を覆って、俯き気味にポジティブなため息を吐く。「ハァーッ(好き)」と。
セトメたん……。さっき『小さいとき魔法に憧れてた』とか言ってたもんなぁ。ほっこり。
「……
刹那、セトメの掌の周りに、ぱやぱやと、橙色や紅色の小さくかわいらしい魔方陣が描き出され、辺りの明るさが少しだけ増す。やがて魔方陣は掌の中央で収束し、文字通り、セトメの掌に炎が灯る。
「わぁ……!すごい……」
「おぉ……」
「つまり、こういうことね。私は魔法を使えるけれど、あなたたちは魔法を使えない。だけど、私があなたたちを依り代にして、魔力を媒介する術式に頼れば、あなたたちのような
魔女の得意げな説明よりも、煌々と燃える小さな炎に感嘆するセトメと壮亮。そして、セトメが「全然熱くないですよ」などと言うものだから、「へぇ、どれどれ」と、魔法の炎を触ろうとしたところ、普通に火傷する壮亮。
「ホワァチャァ!!?熱ゥイッ!?じゃん!アゼル、バイ、ジャン!!(怒)」
火傷した手を振り回しながら地団駄を踏む壮亮。別に、アゼルバイジャン共和国は何も悪くないのだが。
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