33.野次馬
いいや、気のせいだろうか。
何やら、気品を漂わせる聞き心地の良い少女の声が聞こえた気がして、壮亮とセトメが、首を傾げる。しかし、辺りには二人以外の誰かの姿は見当たらず、お互いに『気のせい』という結論に至り、目配せしながら、ちょっぴり苦笑いする。
ところが、どうやら声の存在は、決して気のせいや幻聴の類では無かったようで、空飛ぶ箒に上品に腰掛けた声の主が、スゥーッと静かに舞い降りてくる。
「ふぅん。珍しい波長の魔力につられて来ちゃったけど、まさか、あなた自身が依り代?よくそんな貧弱そうな身体で、あれだけの魔力に耐えられたわねぇ」
箒から地面に降りた黒いローブを身に纏う人物が、壮亮のすぐ近くまで歩み寄り、頭まですっぽり被ったフードの内側から、まじまじと全身をくまなく観察してくる。
たじろぐ壮亮。たじろぐ壮亮の肩に掴まって、たじろぐセトメ。
壮亮は心の中でこう呟いた。『守りたい』と。
いや――それどころじゃないだろ俺。ストップ。タンマ・タンマ。
目の前の、おそらくは女について。色々と言わなければならないことがあるが、まず、お前は誰だ。なんだその、空飛ぶ箒は。なんだその、九と四分の三番線から入学する魔法学校の制服みたいな格好は。そして……
……なんだその
下層街の空から舞い降りた謎の人物が、頭に被ったローブのフードを“しゅるり”と外し、髪を整える。
見とれるロングヘアーの銀髪。レラよりもぱっちり、上品な薄化粧でめかしたツリ目の灼眼。品の良い微笑みを浮かべた口元。そして何より、胸元のスリット。どこぞのコソドロリと比べてとは言わないが、そこにあるべきものがちゃんとあるのだ。
「……じろじろ見過ぎ。減るものじゃないけど、いい気はしないわ」
いやらしい視線に気が付き、壮亮のことを睨み付けながら、ローブで胸元を隠す魔女風の美少女。少女の顔色は、恥じらいよりも、至極当然の不機嫌さと、それとは対照的なちょっとした優越感にでも包まれているかのような、複雑かつ余裕の面持ちである。
「エーッ!?ナンノコトデスカァ??」
滑稽なほど、壮亮の声が裏返る。少年の顔色は、焦りと羞恥心にドブ漬けの形相であり、とても単純だ。
違う。誤解じゃ無いけど誤解なんだ。俺の視線に深い意味は無い。ただ、俺には――男には、そういうプログラムが組み込まれているのだ。いや、これはひょっとすると、性別の括りを超えた視線とおっぱいの万有引力かもしれない。自然の摂理すらあり得る。そうだよ。
「サクマサン……?」
「ヘアッ!?」
あっ?あっ、やめてださい、セトメたん。そんな、エジプトの壁画に描かれているという謎の神『メジェド様』みたいな眼で……あるいは『キOミーベOベー描いてる人のSNSアイコン』みたいな顔で、俺の横顔を覗かないで下さい。こころがしんでしまいます。
「白々しいわねぇ。ま、男の子なんだし、多少は仕方が無いのかしら」
銀髪の美少女が、ローブと揃いの色の魔女帽を取り出し、ニ、三回埃を払ってから頭に被る。
その出で立ちたるや、現実世界においても、おそらくは、ここ異世界においても、ステレオタイプな『魔女』そのものである。そして、その魔女は、何やら、お
「はいこれ」
「はい?何これ……」
反射的に、お札を受け取ってしまう。
そして、次の瞬間――
「きゃっ!?」
「うわ!?熱ッ!?……くは、ない?」
俺が、魔女のお札を手にした瞬間、それは青黒い炎に包まれ、消し炭と化す。
しかし、炎は不思議と熱くなく、例えるなら、『空間』そのものが俺の手を――指と指の間を撫で回す様な、気持ちの悪い感覚に苛まれる。
「何よこれぇ、黒コゲじゃない!あ~ん、高かったのにぃ……」
「いやいやいや!いくらとか知らんけど、そこじゃないだろ!今のは何だよ!?ていうか、あんた誰!?」
何が望みだ!?そんな変な道具なんて使って、俺をどうするつもりだ!?
……ハッ!?まさか、セトメか!?セトメたんなのか!?
百合か!?百合は好きだが、セトメたんはダメだ!今はゆるさんぞ!
コミケでやれ!!ぜひ!
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